インタビュー

GOATBED、石井秀仁の思う〈テクノ感〉を凝縮した新作『The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole.』

「折り合いを付けるポイントが難しかったんですよ。ヴォーカリストの部分と、〈自分の音楽を作る〉っていうところで」

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自分の思う〈テクノ感〉

――では、ここからは“ROSE&GUN”以外の楽曲についても伺えればと思いますが、内訳を改めて確認しますと、今回はオリジナルの新曲が4曲と、三上博史さんのカヴァーが1曲と、ゲーム関連の音楽のリメイクが〈会場盤〉と〈店舗盤〉でそれぞれ2曲ずつということで。

「うん。そのリメイクの2曲に関しては、ホントにボーナス・トラック的なところではあるんですよね。だから、〈店舗盤〉と〈会場盤〉で違うんですけど」

――その2曲を除いた5曲で、全体としてのテーマはありました?

「まあ、話が二転三転してたところもあって、最初はシングルを出そうっていう話だったんですよね。で、この〈doughnat〉っていうやつ(表題曲の“The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole”をシングル用に作って。〈Optimist〉〈Pessimist〉ってしか言ってないような曲なのに、これでシングルなんだ、っていうようなのを作りたかったんですよ。もともとは、6分とかある曲で」

――ああ、じっくりピークに持っていくような。それは、完成版のフィジカルなテクノ・トラックからも想像できますね。

「シングルで出そうって言ってたときはそういう尺で作ってて、カップリングのほうが凄いキャッチーな歌もののメイン曲みたいな、そういうものをイメージしてたんですけど、まあ、制作のタイミングがcali≠gariとかぶってきたりとかいろいろあったんで、リリースがずれるんだったらミニ・アルバムにしましょうと。で、〈doughnat〉もそのうちの1曲になってしまったという」

――次の“Poisonous red hair and melancholy fireworks”は、ちょっとYMOにも通じるといいますか……。

「音はそうかもしれないですけど、曲調はデペッシュ・モードみたいな感じですよね」

【参考動画】デペッシュ・モードの2014年のライヴ映像

 

――ああ、そうですね。そこも含めてですが、例えばGOATBEDの前作と比べると、時代感が遡ってる気もしました。この曲もそうですし、“踊れない症候群”も。

「それってどっちでしたっけ(笑)?」

――(笑)〈会場盤〉に収録されている、アンビエントノイズが入っているものですね。とはいえ、昨今のインダストリアル・テクノのようなものではなく、どちらかというとクラウトロックに近い質感といいますか。

「ああ、それと〈店舗盤〉のほうに入ってるのは〈踊らない〉でしたっけ?

――はい、“踊らない症候群”です。こちらはむしろ、幾何学的なフレーズを反復しながら徐々に場面転換していくフィジカルなダンス・トラックで。

「そういうことですよ。GOATBEDはね、ゲームの話とかをいただかずにやっていたらそんなのばっかりやってますってことでしょうね」

GOATBED The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole GEORIDE(2015)

――この2曲は、はじめから対で作ろうと思ってたんですか?

「そうですね」

――1文字の違いで、楽曲も対極なものになっていて。

「ああ、そうですね。どっちも結構よく出来たっていうか、思い描いてたように出来たなと思ってて。あれ一応ね、歌が入ってるんですけど、両方とも同じ歌詞なんですよ」

――歌詞は共通しているけれども、曲は別物という?

「そうです」

――その歌詞……といいますか曲名もですけど、普段からおっしゃっている、ライヴのときの控えめなフロアの雰囲気のことを書いていらっしゃるんですか?

「まあ、ライヴのMCでポロッと言ったこととかね、その場にいたからこそ体験できることってあるじゃないですか。そういうものが曲のタイトルとかツアーのタイトルになってるっていう特別感っていうかね、そんなものでも作品になっちゃうんだっていうことを示したいというか。だから、皮肉とかでは全然ないです。ライヴを観ている人であれば、〈あのとき(石井が)そういうこと言ってたよね〉って思うじゃないですか。だから、歌詞でも〈Tシャツを買いなさい〉とかそういうことを言ってるんですけど……(〈会場盤〉のブックレットを見せる)これが歌詞ですよ。いろんなところに載ってるんですよ」

――本当ですね。執拗に同じリリックがほとんどのページに載ってます(笑)。

「あとで適当に訳してもらえばわかると思いますけど、この〈Tシャツを買いなさい〉っていうのも、別にこちら側の目線で言ってるわけじゃないですよ。こちら側がこういうことを言ってるってことを、お客さんの目線で書いてるんですよ」

――ああ、〈石井さんがまたTシャツを買うようにって言ってるよ〉みたいな。

「そうそう(笑)」

――〈フロアが静かだ〉って言われても、お客さん側としては……。

「〈だから、踊らないんです!〉って。〈なぜなら文化が違うからです!〉みたいなことを書いてるんです(笑)」

――ははは。こういうユーモラスな歌詞も石井さんだからこそのものですけど、サウンドも、本当にお好きな方向に突き進んでいらっしゃるというか、特に『HELLBLAU』以降は一貫してるところがあると思います。

「そうなんですかね? なるべくとっ散らからないようにやろうと意識してるところはありますけど。例えば、音のイメージがちょっとズレたなっていうときは、曲じゃなくてパッケージで修正するというか」

――ほお~。

「まあ、写真のイメージもずっと一貫してるじゃないですか、『HELLBLAU』ぐらいから。ずっと同じ……同じっていうのもあれだけど(笑)、そこは、ひとつの世界観をゴリ押ししたいところがあるんですよ。この、ノワールな感じね(笑)。そういう箱があれば、そのなかにカラフルな音を突っ込んでも、結果、統一した世界観になるっていうか」

――その〈カラフルな音〉のなかでも、石井さんの嗜好は〈プリミティヴなエレクトロニック・ミュージック〉というところで統一されているような気がするんですけど……。

「うん、俺が思い描いてるものっていうのはなんか気が抜けてるっていうか、適当なところもいっぱいある……それこそ初期のミュート・レコードのファド・ガジェットとか、デペッシュ・モードの初期もそうだけど、あとは……うーん……80年代の半ばのキャバレー・ヴォルテールとかDAFとかね、そんなものなんですよ、いつも自分のなかにあるものって。俺が言ってる〈テクノ感〉っていうのはそういうものなんですよね。それと、初期のデトロイト・テクノとの接点みたいな、そういう部分がたぶん、自分がいちばん志向してるところだと思うんですよね。だから、ニューウェイヴって言われてもちょっとピンとこないところがあるんです。ニューウェイヴっていうと、さまざまな音楽性のものが含まれるから」

――なるほど、なんだか腑に落ちました。そのへんのサウンドは、先程お話したデトロイト・テクノ以前の、オリジナルな意味でのエレクトロとも繋がってくるような気がします。モデル500ホアン・アトキンスで言えば、別名義のサイボトロンみたいなところですとか。

【参考音源】サイボトロンの83年の楽曲“Clear”

 

「そうですね。ホアン・アトキンスも、リエゾン・ダンジェルーズ(元DAFのメンバーも所属したEBMユニット)の曲を思いっきりサンプリングしたりしてるわけじゃないですか。その感じなんですよね」

――その感じです。そのトーンは今回のミニ・アルバムにもあると思います。

「……あの、なんかいま思いましたけど、この〈会場盤〉のパッケージも凄いミュートっぽいですよね。全然意識してなかったんですけど。なんかありましたよ、ミュートのボックス・セットで」

――音でもパッケージでも、その周辺の雰囲気が出ているという。

「まあ、GOATBEDを好きなお客さんにそんなことを言ったところで、興味もないでしょうからそんなのいいんですけど」

――その方面からGOATBEDに入ってくる人もいそうに思うんですけど……。

「逆にそっちに向かって出ていく人はいるんでしょうけど、入ってくることはないでしょう(笑)」

 

GOATBED 『The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole.』
会場盤ジャケット画像

 

ルーツとの邂逅

――あと、今回は三上博史さんの“BETTY BLUE ~suffer, Baby”をカヴァーされてますね。これはどういった選曲で?

「〈なぜ?〉って感じでしょ? その唐突な感じがよかったんですよ。だけど残念ながら、DIR EN GREYさんのsukekiyoで……三上博史さん、歌ったんですか?」

――『VITIUM』のボーナス・トラックで、京さんとデュエットされてますね。

【参考動画】sukekiyoの2015年作『VITIUM』収録内容紹介

 

「俺、カヴァーって昔からよくやってるじゃないですか。それで候補にはいつでも挙がってた曲だったんですね。当時、リアルタイムで聴いたんだけど凄い衝撃で。芸能人みたいな人が作るアルバムじゃないじゃないですか、あれって」

――『ARC』のリリースは93年ですから、三上さんがいわゆるトレンディードラマに出てた時代のものですけど、かなりアングラな……仄暗いトーンで覆われた作品ですよね。

「そうですよね。で、どうしてこの曲かっていうと、まあ、単純に楽曲自体が凄い好きだったからっていうのもあるんですけど、この曲は自分が歌ったときのイメージが湧くというか、自分に似合うとかじゃないんですけど、違和感ないだろうなと思ってて」

――違和感どころか、むしろ異様にハマってます。

「それで、どうしようかなって改めて聴いてて、曲のトーン、世界観が今回の音源と合うなと思ったのもあるんですけど、この曲の情報をいま調べようとしたら、ほとんどないんですよ。俺はオリジナルの音源を持ってるから問題なかったんだけど、あんな素晴らしい楽曲が、調べたらYouTubeにもなかったし、歌詞もどこにも載ってないし。それで、余計にやる気が出てきて(笑)。この曲、歌詞も凄いんですよね」

――倒錯した世界観が途轍もなくクールで。

「かなりキてますよね」

【参考音源】三上博史の91年作『ORAL』と93年作『ARC』に収録されている楽曲“SOIL”

 

――はい。ですが、そんなキてる曲を石井さんはリアルタイムで聴いてたんですか?

「あの手のやつはほとんどリアルタイムですよ」

――当時、石井さんは10代の半ばぐらいですよね?

「そんなもんですよね。三上博史と、モックン(本木雅弘)と、永瀬正敏。あの人たちのアルバムはとんでもなかったんですよ。皆さん、ご自身で歌詞も書かれてて。俺ね、昔のGOATBEDでは永瀬正敏の曲をカヴァーしたりもしてたんですよ、音源化はしなかったんですけど。そういうのが結構、自分のフェイヴァリットにはあるんですよね。参加してるミュージシャンも凄いし。それは技術的に凄いっていうことじゃなくて、〈この人か〉っていう。例えば永瀬正敏のアルバム(93年作『CONEY ISLAND JELLYFISH』)は、プロデューサーがライオン・メリーさんっていう。メトロファルスのキーボードのね」

――ああ~、はい。

「女装のね」

――はい、はい。

「そういう方が、永瀬正敏のアルバムのプロデューサーですよ(笑)。鈴木慶一さんとかも参加してて、凄くね、ロックで、テクノであるみたいな作品で。で、次のアルバム(96年作『Vending Machine』)はケンイシイとか、イギー・ポップも参加してたような気がするんですよね」

――むちゃくちゃですよね(笑)。

「むちゃくちゃで。とにかくメンツが凄いんですよ。三上博史のそのアルバムに関しては、カヴァーした曲は違いますけど、YUKARIEさん(cali≠gariのライヴ・サポートを務めるサックス・プレイヤー)が参加してますからね(笑)。コーラスで」

――それは気付いてなかった。ああでも、“BETY BLUE~Suffer Baby~”の作曲はじゃがたらOTOさんですから……。

「そう、YUKARIEさんはそもそもじゃがたらの人ですから」

――そうですよね。人脈的にもさりげなく繋がりが。で、そんな昔からのフェイヴァリットをここで晴れてカヴァーされて。

「なんか、おんなじようなジャンルの曲をカヴァーしてもおもしろくないじゃないですか。だから、まさかの三上博史のはずだったんですけど、sukekiyoさんが先に、ね。俺、sukekiyoさんのアルバムもちょっと参加しましたから(2014年作『IMMORTALIS』にリミックスで参加)、ちょっとパクリ感はありますけど、sukekiyoと三上博史ファンの両方をGOATBEDに取り込もうっていう(笑)」

――(笑)あとボーナス・トラックとしては、〈会場盤〉の“MANISH FIEND”“天使達”は石井さんが再録されていて、〈店舗盤〉の“SLIP ON THE PUMPS”“FORM SWEET FORM”にはギターで石垣愛さんが参加されてますね。

「そうですね。これ、ギター用にトラックをマイナスしたりとかは一切してないんですよ。もともと、2曲ともギターを入れる余地がある曲だったんですね。ギターを入れたら絶対もっとわかりやすい曲になるなと思って、あえてメインになるエッジーな音を抜いていたようなところがあったので」

――それは、いつかギターを入れようということで?

「いや、単純に小賢しいので、両方とも音数少なく聴こえるような形で作っていた曲だったんですね。ただ、ギターのイメージはあって、弾いてほしいなって思ってる人が何人かいて、そのなかで、直接知り合いじゃなかったのが石垣さんだったんですよ。で、共通の知人を通じて頼めないか訊いてみたら、30分後ぐらいにすぐ〈オッケーだって言ってるよ〉って返事があったので(笑)、じゃあお願いしよう、って。それで、ギターありきというか、たぶん石垣さんはこんなのを弾いてくるんじゃないかっていうイメージで、ちょっと音色を変更したり、フレーズを変えたり、っていうふうに曲をいじったんですよね。ただそれで、結果的に凄い格好良く……俺は別に自分の曲で好き嫌いとかないんですけど、なんか、凄い格好良いじゃないですか、ギターが」

――はい。“SLIP ON THE PUMPS”のほうはメロディーと並走するようなギターで疾走感とエモーションを強めていて、“FORM SWEET FORM”はウワモノ的な位置付けで浮遊感を増しているといいますか。もともと完成していた曲で、音を間引いているわけではないトラックに対して、ギターを乗せるほうとしてはどうだったんですかね?

「どうでしょうね?」

――そのへんのお話はせずに。

「石垣さんは凄いいい方なので、〈欲しいギターがあったら言ってね〉とか、弾き終わった後も〈好きなようにエディットしちゃっていいよ〉みたいな感じなんですけど、俺は人とやるときに、まったく注文とか出したくないんですよ。それだと自分のイメージになっちゃうから、逆に、〈こういう曲なんです〉ってお渡しして、その人が受けた印象でプレイしていただくのがいちばんいいと思っていて。それが一緒にバンドをやってるメンバーだとまったく話は別なんですけど」

【参考動画】石垣愛、Rueed、Ju-kenによるバンド、Derailersの
2014年作『A.R.T』収録曲“Master Blaster”

 

――石垣さんのギターは、石井さんが想定していたものでした?

「石垣さんがどういうギタリストかっていうのはわかっているつもりではあったんですけど、楽曲に凄く歩み寄ってくれるんだなって思いましたね」

――楽曲の核が、より伝わりやすくなってましたよね。私個人としては、特に“SLIP ON THE PUMPS”の変貌ぶりに感動しました。

「だから〈店舗盤〉に関して言えば、ボーナス・トラックの2曲がメインみたいなね」

――(笑)シングルを持っている人も絶対聴いたほうがいいと思います。

「あと、おもしろいのは、石垣さんとやり取りしてて、ギターを弾いていただいたあとに俺のTwitterを見たみたいでね、俺が三上さんのアルバムを参考盤として挙げてたら、石垣さんも〈あれ、すごい大好きだったんだ〉って言ってきて。〈曲をもらったときにイメージしたのがこのアルバムだったんだよね〉って言われたんですよ。俺、カヴァーしてるとかも全然言ってなかったのでホントに偶然なんですけど」

――では、耳的にも通じるところはおありだったんですね。

「石垣さんって、ニューウェイヴなもの、ポジパンとかお好きなんですよ。俺が学生の頃とかに、それこそMAD CAPSULE MARKETSの初期の頃とかに、石垣さんが雑誌で影響を受けたレコードとかCDとかを取り上げたりしてたんですけど、そういうのに影響を受けてて」

――そうした石井さんのルーツもさりげなく含まれた最新作ですが、この記事が公開される頃には〈会場盤〉はすでにリリースされていて……そのあとはツアーを完走して、〈店舗盤〉がリリースされて。

「あとね、ライヴDVDがあるんですよ」

――それも会場で売られるものですか?

「売らなかったら何のために作ってるんですか(笑)。趣味ですか。俺、自分で観るためにDVD作ってるんですか」

――失礼しました(笑)。売られるものですね。

「これ(タイトルが猛烈に長いので、各自オフィシャルサイトで参照を)は去年の12月のワンマンのやつですなんですけど、ライヴの規模もそれなりに大きい会場だったし、いまのGOATBEDはこういう感じなんだなっていうのがわかると思うので。土田さんもぜひ観ていただいて、絶賛しといていただければ」

――(笑)どこで絶賛すればいいんだろうか。

「……どこかで!」

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