東京の4人組バンド、ミツメの歌は、日常を弱火でコトコト煮込んだスープのようだ。淡々としたなかに思いがけないコクがある。これまで3枚のアルバムと2枚のシングルを発表。作品ごとにささやかなチャレンジを忘れない彼らは、最新シングル“めまい”でも新たな一面を見せてくれる。
「前のアルバム『ささやき』が多重録音で、4人で演奏している姿が見えづらい音だったんです。なので、今回は4人が〈せーの〉で演奏している姿が見えるようなアレンジにして、そういうノリを意識しながら曲を作り上げていきました」(川辺素)。
さらに「できるだけシンプルなサウンドで、少ない楽器で4人が演奏しているバンド感を出そうっていうのがひとつの課題で」(大竹雅生)試行錯誤しながら作り上げた全4曲。なかでも本作の鍵になるのが“めまい”だ。徹底的に削ぎ落とされたバンド・サウンドから、ずしりとしたグルーヴが立ち上がってくる。
「〈どこまでなら音を減らしても大丈夫か?〉みたいなところでアレンジを詰めていったら、スカスカになってしまって。でも、曲はちゃんと成立している。いままで自分たちが作った曲にはなかったタイプの曲ですね」(川辺)。
そうやってバンド・アンサンブルをミニマルに凝縮させた曲がある一方で、“Science”は〈生演奏〉の限界に挑戦した難曲だったとか。
「いろんなドラムマシーンのサンプルを組み合わせることにハマっていて、その結果、変なリズム・パターンになったんです。あと、この曲はデモテープではヴォーカルを人工的に間延びした感じにしていたんですが、そうやってデモで作った変なリズムやヴォーカルをレコーディングで実際に再現するのがとにかく大変で、今回いちばん時間がかかった曲ですね」(須田洋次郎)。
そのほか、「ボサノヴァっぽいギターのフレーズが入っているけど、まったくラテンぽくない」(大竹)という“取り憑かれて”や、同じフレーズが延々とループしていくようなアレンジに引き込まれる“Alaska”など、どの曲も一見シンプルな構成のようでいて、彼ららしい仕掛けやこだわりが隠されている。さらに本作で印象的なのは、これまで以上にポップなメロディーだ。
「これまでは歌メロよりギターのほうが主張していることが多かったんですけど、今回は歌メロありきで音を削っていって。それで歌しか鳴っていないパートもある曲が生まれたりしたんです」(ナカヤーン)。
そうやって独自の世界を作り上げていくうえで欠かせないのが、バンドとは学生時代からの付き合いだというエンジニアの田中章義の存在だ。今回もバンドの細かなリクエストに応えながら、宅録のように温もりを感じさせるサウンドを作り出している。
「レコーディングしたのはすごく良いスタジオなんですけど、途中からどんどん音を悪く、軽くしていったんです。劣化しているけど解像度が高いというか、手探りで自分たちのめざす音に作り込んでいった。そういう時に彼(田中)は文句言わずに付き合ってくれるんですよね」(川辺)。
研ぎ澄まされた簡潔さ──彼らにとっての新しいスタイルを発見した本作は、ミツメというバンドの可能性を実感させてくれる。彼らはいつも淡々と新しい。
「ここでサビとか、もっとソウルっぽくとか、そういう〈いかにもな音〉にはしたくない。いかにもな音を自分たちの好きなものに変えていく過程でミツメっぽさが出てくるというか。〈これカッコイイよね〉という方向でメンバーがまとまることは絶対なくて、最終的にはみんなが笑えるフレーズが採用されたりするんですよね(笑)」(須田)。
聴いたことがありそうで、なかった音楽を聴かせる、いそうでいなかったバンド。それがミツメなのだ。
ミツメ
須田洋次郎(ドラムス)、ナカヤーン(ベース)、川辺素(ヴォーカル/ギター)、大竹雅生(ギター/シンセサイザー)から成る4人組。 2009年に東京で結成。2011年にファースト・アルバム『mitsume』を発表。その後もライヴと並行してコンスタントにリリースを重ね、2012 年は1月にカセットシングル『fly me to the mars!!!』、9月に2枚目のフル・アルバム『eye』を上梓し、2013年は7月にシングル“うつろ”を送り出すと、〈フジロック〉の 〈ROOKIE A GO-GO〉へも出演。2014年は2月に3作目『ささやき』を発表し、同月末から行った全国ツアーの模様を収めたライヴDVD「TOUR 2014」が11月より全国流通開始。5月27日にニュー・シングル“めまい”(mitsume)をリリースする。