Page 2 / 2 1ページ目から読む

J・ディラへのシンパシーとジャズを愛する理由

――今日はルーツのTシャツを着てますよね。

グラスパー「ああ、彼らは友達だよ」

――普段もよくJ・ディラのシャツなどを着てますが、あなたの活躍やディアンジェロの復活もあって、ソウルクエリアンズやJ・ディラの存在が日本でも最近また注目されてきてるんですよ。OMSBさんもそのあたりに影響されることはありますか?

OMSB「ジェイ・ディー(J・ディラ)がめちゃ好きで、『Think Good』に関してもジャケットで、〈The Beat Generation〉シリーズ作品のオマージュ的なことをするぐらい好きで。自分の音楽に与えた影響はすごくあると思ってます」

※BBEとRapsterの2レーベルによるヒップホップ・アルバムの人気シリーズ。ジェイ・ディーの2001年作『Welcome 2 Detroit』が第1弾で、その後もDJスピナ、ピート・ロック、ウィル・アイ・アム、マッドリブらが作品を残している

OMSB『Think Good』(上)とジェイ・ディー『Welcome 2 Detroit』(下)

グラスパー「J・ディラは〈好き〉以上の関係で、彼とは生前に仕事をしたこともある。幸運なことにJ・ディラのデトロイトの家へ行って、数週間一緒に過ごすことができたんだ。ビラルのアルバム(2001年作『1st Born Second』)を作ったときで、仕事をするだけじゃなく一緒に遊んだりジャムったりもした。俺は(フェンダー・)ローズを弾いて、彼はMPCでビートを作って……みたいに、本当に貴重な経験をさせてもらえたよ」

ビラルの2001年作『1st Born Second』収録曲“Reminisce”。ビラルとグラスパーは以降もお互いの作品に参加し合ってステージを共にするなど関係は深い

グラスパー「J・ディラは類い稀なプロデューサーだった。ミュージシャンがもともと持っているものを上手く料理するのがプロデューサーの仕事であるはずなのに、J・ディラの場合はミュージシャンのプレイの仕方まで変えてしまうほど影響を与えるんだ。俺の演奏スタイルがいまこういう感じなのもJ・ディラのおかげ。(ピアノの)タッチやフレーズの重ね方とか、そういったところは本当に影響を受けている。クエストラヴもドラムの叩き方をJ・ディラによって変えられたと言ってたな。J・ディラはプロデューサーとしてミュージシャンをも変えてしまう唯一の存在。だから、ただのファンではなくて俺の人生も変えてくれた恩人なのさ。イラ・Jって知ってる? いまマイルス・デイヴィスのリミックス・アルバムを作っていて、そこに使うビートをJ・ディラの弟であるイラ・Jがさっき送ってくれたんだ。君たちがさっき部屋に入ってきたとき、ちょうど俺はPCでそれを聴いてたんだよ」

――マイルスのリミックス・アルバム!  マイルスの伝記映画「Miles Ahead」のスコアをあなたが手掛けるって話はだいぶ前から報じられてましたが、それはますます楽しみです。いつ頃リリースされる予定なんですか?

グラスパー「まずは完成させなきゃね(笑)。レコード会社は8~9月ぐらいには出したいって言ってるよ」

――J・ディラの話でいうと、グラスパーさんの新作『Covered』には日本盤ボーナス・トラックとして“Dillalude 3”が収録されてますよね。

ROBERT GLASPER 『Covered』 Blue Note/ユニバーサル(2015)

グラスパー「ディラの影響に敬意を表して〈J Dillalude〉というタイトルでカヴァーをしていて、そこでは彼の曲を自分のやっているトリオ、あるいはその他のスタイルで自分なりに表現している。『In My Element』に収録されたパート1にあたる“J Dillalude”はQティップに紹介してもらってオープニングという形に、『Black Radio Recovered』に入ってるパート2はディラのお母さんに紹介役をお願いした。今回収録したパート2は、ディラも所属していたスラム・ヴィレッジのメンバー、T3にやってもらったんだ」

ロバート・グラスパーの2007年作『In My Element』収録曲“J dillalude”。2分過ぎからスラム・ヴィレッジ“Fall In Love”をカヴァーしている

――OMSBさんは『Covered』を聴いてみてどうでした?

OMSB「確かにカヴァーだし、どれもライヴ(録音)なんですけど、入りの音で持って行かれちゃって。音質もそうだし、出音が潤ってるっていうか。(“I Don’t Even Care”で)ルーツ“You Got Me”のエリカ・バドゥのフレーズを聴いて、ウワーッ!てなったし、3曲目(“Reckoner”)のキックで完全にヤラれて、あとは聴くだけでいいやっていうか音楽に身を任せてましたね」

ルーツの99年作『Things Fall Apart』収録曲“You Got Me”。『Covered』収録曲“I Don’t Even Care”の終盤にこの曲のフレーズが登場する

『Covered』収録曲レディオヘッドのカヴァー“Reckoner”

グラスパー「スタジオ録音するときってヴァイブがおかしくなるんだよね。ヘッドフォンをして寂しいなかでやると、そのヴァイブが聴いてる人にも伝わってしまうと思うんだ。ライヴ・レコーディングをすることの利点はそういうところにあると思って、今回の『Covered』では観客の前で演奏して録音した曲もあって、お客さんからエネルギーを感じられたし、自分のエネルギーもみんなに返してあげることができた。そのエネルギー交換のような部分をアルバムを聴いても感じてもらえるから、そこまで入り込んでもらえたんじゃないかな」

――今回のアルバムは〈アコースティック回帰〉と言われていて、実際その通りなんですけど、そういう作品で〈キックがヤバイ〉なんて感想、普通出てこないですよ。

OMSB「ビックリしましたね(笑)」

――だからそこには、グラスパーさんが『Black Radio』みたいなアルバムを作ったことで培われた経験みたいなものも反映されているのかなって。

グラスパー「まさにその通り。ジャズ・アルバムっていうと、どれもミックスの仕方が軽いものが多いんだけれども、トリオの作品を作ったとしても感覚としてはヒップホップ/R&Bに感じる音が欲しかった。そういうふうにミックスしてほしかったからこそ、わざわざ『Black Radio』を手掛けたエンジニア(キース・ルイス)に今回もお願いして、普通のジャズ・アルバムとは違う感覚のミックスをしてもらったのさ。だからそう聴こえたんじゃないかな」

OMSB「ジャズのレコードをサンプリングするネタとして聴くときの感覚と(『Covered』のサウンドが)全然違うものだったから、古い/新しいってことじゃなくて、単純に聴いたときの耳触りのところで(いまの話は)すごい合点がいきました」 

――サンプリングという話も出ましたけど、OMSBさんはジャズのどのあたりが好きなんですか?

OMSB「レーベルでいえばフライング・ダッチマンとかインパルス、エムトゥーメイみたいなスピリチュアル・ジャズだったりが好きです。現代のものでもグラスパーはもちろん、RHファクターみたいにヒップホップを通過したジャズは本当に最高だと思います。サウンドでいうと、埃っぽいところが好きっていう人はよくいますけど、ヒップホップの視点から見ると単純にリズムがいちばんおもしろいんですよね。あとは、上で鳴ってるピアノだったり」

グラスパー「ジャズの何が好きかというと、そのときの時代背景をすごく反映しているというところ。他のジャンルの音楽ではそれはなくって、そういうのはジャズだけだと思うんだよね。だから、どの時代の音を聴いてもどれも全部違う。俺はジャズのそんなところが好きなんだ」

――今回のアルバムも、まさしくそこをめざしたってことですよね。

グラスパー「その通り。まさにそういったことを今回の作品で反映したかったし、ジャズとR&Bはなかなか融合されないんだけれども、それを融合した形で表現したかった」

――OMSBさんが『Think Good』についてのあるインタヴューで〈まずはヤバイのを更新したかった〉という話をされていたのですが、〈ヤバイのを更新する〉というのは、グラスパーさんもいつも期待されてる部分でもあるのかなと。

グラスパー「自分としては〈超える〉とか〈前より良くする〉とか、そういった部分に関して唯一言えるとしたら、自分にもっとチャレンジを課すことだね。そこに尽きるかな。超えるというより、以前とは違うものをどれだけ作れるかに重きを置いている。アートっていうのは、自分が気に入った作品を作っても、それが前の作品より良いかどうかは他の人たちが決めるものだよね」

OMSB「確かに、〈ヤバイのを更新する〉ってそのままの意味で言ったと思うんですけど、気持ちのうえではいつも違うこと、もっと自分のなかで気持ちいいものを見つけていって、以前の自分との差みたいなものを出していければって思いはあります。だからいまの話も頷けるっていうか」

グラスパー「周りの人から『Black Radio』がすごかったから、どうやってそれを超えるんだ?ってよく言われたけど、それよりもいかに違うものを作れるか。そこに焦点を当てて、そういうイマジネーションを忘れずにどんどん広げていきたいね」


 

対談を終えたOMSBは、後日グラスパーのビルボードライブ東京でのライヴにも足を運び、終演後には楽屋で再会の挨拶もできたそう。「ひたすら小手先では辿り着けない技術のぶつかり合いでした。ユーモアもグルーヴもあって、終始うっとりしてました」という感想も届いている。対談中、その意気投合ぶりに「これを機に、一緒にレコーディングしたほうがいいんじゃないですか?」とグラスパーに振ってみたところ、豪快に笑いながらまんざらでもない様子だったのも印象的。言葉の壁を越えたミュージシャンシップの共振をきっかけに、この2人の関係にネクスト・ステージが用意されることを祈ろう。

 


〈OMSB 2nd Album “Think Good” Release Party〉
日時/会場:7月20日(祝)/代官山UNIT
開場/開演:16:30/17:30
出演:
Think Good Live/OMSB
(feat. B.D.、B.I.G JOE、ELNAND MORELETTA、野崎りこん 、藤井洋平)
Beat Live/Hi’Spec
Live/B.I.G JOE、B.D.、山仁、藤井洋平 & The VERY Sensitive Citizens of TOKYO
DJ/ILLICIT TSUBOI + なかじまはじめ、DJ SARASA、Sir Y.O.K.O.PoLoGod.、ELNAND MORELETTA
問い合わせ:03-5459-8630(会場)
http://www.unit-tokyo.com/schedule/2015/07/20/150720_omsb_thinkgood.php