2014年作『Loopified』で音楽シーンに大きな衝撃を与えたダーティ・ループス。北欧スウェーデン出身の若者3人が作り出すそのサウンドは、超絶的なテクニックと、類い稀なるポップ感覚が高次元で融合された、まさに新時代の音楽とも言うべき斬新なものだ。また、アデルやレディ・ガガ、ジャスティン・ビーバー、リアーナ、そして宇多田ヒカルなどといったアーティストの楽曲を、超個性的な解釈でカヴァーするアプローチも、強烈なインパクトを放っていた。名プロデューサーのデヴィッド・フォスターが惚れ込み、1年がかりで口説き落としてデビューさせただけのことはある、優れたセンスとスキルを持つグループである。

LINDER BROS. 『Linder Bros.』 Verve/ユニバーサル(2015)

 そんなダーティ・ループスで6弦ベースを弾いているのが、ヘンリック・リンダー。モヒカン風のヘアスタイルをトレードマークとし、3人のなかでも一際目立つ存在と言えよう。実は彼にはエリックというギタリストの弟がいて、2人はリンダー・ブラザーズ名義でずっと地元のライヴハウスを中心に活動していた。そんな兄弟による初めてのアルバムがこの『Linder Bros.』だ。

 スウェーデンの首都ストックホルムで生まれた2人は子供の頃からピアノを習い、中学に入ると兄ヘンリックがベースを、弟エリックがギターを始める。兄はレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーに心酔し、弟はパット・メセニー、アラン・ホールズワース、スコット・ヘンダーソンらに憧れていたとか。そしてヘンリックは弟の影響で、次第にフュージョンやジャズにも興味を持つようになっていったそうだ。その後、2人でステージに立つようになり、ヘンリックは名門スウェーデン王立音楽アカデミーへと進学。学校で出会った仲間たちとダーティ・ループスを結成してデビューを飾ることになるのだが、一方で弟とのユニットも継続していくことに。

 『Linder Bros.』は、ダーティ・ループスのサポートも務めているクリスチャン・クラフトリング(キーボード)と、地元の音楽仲間であるジョナサン・ランドバーグ(ドラムス)を加えた4人が中心となってレコーディングされており、ダーティ・ループスとはまったくアプローチの違う、弟エリックの音楽趣味が前面に出た、全曲インストゥルメンタルによるコンテンポラリーなフュージョン・サウンドで構成されている。収録ナンバーはエリックの作曲か、兄弟の共作によるものがほとんどで、どれもアレンジを含めてとても緻密に練り上げられているし、何よりメンバーたちのテクニックが凄い。ヘンリックはダーティ・ループス以上にバリバリとベースを弾きまくり、超絶技巧の持ち主であるエリックも縦横無尽のギター・プレイを聴かせている。つまり、好きな音楽を自由にやっているといった感じで、そういう意味では兄弟の素顔のようなものが表現された作品とも言えるだろう。

 このアルバムを聴くと、ダーティ・ループスの登場は突然変異なのではなく、リンダー兄弟をはじめとする、グループ周辺のミュージシャンたちの演奏能力の高さ、音楽性の柔軟さ、引き出しの多さなどが見事に一致したからに他ならないと納得させられる。まさに新しいポップ・ミュージックの胎動が、ストックホルムから始まっているのかもしれない、と思わせるような、未知の可能性とエネルギーに満ちた音楽なのだ。