好きなものは好き! 『Linder Bros.』から透けて見える、兄弟の一途な思いとは?
超絶的なテクニックで6弦ベースを操り、うるさ型のリスナーをも唸らせるヘンリック・リンダー。その弟エリックもまたタダモノじゃなかったことを伝えてくれるのが『Linder Bros.』だ。本作からは、どうやら弟の音楽趣味が兄貴にだいぶ影響を与えていたという事実も見えてくる。彼らがここで開陳しているのは、純粋なるフュージョン愛。DIMENSIONやT-SQUAREなどの日本人グループ、スコット・ヘンダーソンやパット・メセニーといったギタリストへの熱いリスペクトを感じさせる仕上がりだ。例えば、スピード感のあるリズム展開を持った楽曲にはカシオペアの影響が色濃く浮かび、澱みなく流れるようなギター・サウンドにはアラン・ホールズワースへの憧憬が滲んでいたりもする。もちろん、ラリー・カールトンやジェフ・ベックのフュージョン・ギター名盤とこの新作を並べて聴くのもバッチリだし、鬼の形相をしたエリックがこれでもかと言わんばかりにハードに弾きまくる瞬間などは、マイク・スターンのことをふと思い出したりもして。また、人によってはヘンリックの演奏にジャコ・パストリアスやマーカス・ミラーの面影を見つけるかもしれない。
そう、『Linder Bros.』に詰まっているのは、時代や流行に迎合することを望まない頑固な男たちの音楽。テクニック至上主義で何が悪い? 好きなものは好きなんだと言い切ってしまうそのきっぱりとした姿勢が、耳通りの良いメロディーと共に爽快な後味をもたらしていると言えよう。それにしたって、ハイ・レッドやオーレ・ブールードをはじめ、80年代への偏愛ぶりをストレートに打ち出した北欧産のAOR盤を聴いても思うことだけど、彼の地には好きなものを愚直なまでに突き詰めようとする、一途な音楽家が多いんだな。