これほどに見た目と音が一致しないバンドも珍しいんじゃないかと思う。あるいは、見た目から音が想像できない——と言い換えるかもしれない。ベースのヘンリックはまるでヘヴィメタ野郎、ヴォーカル/キーボードのジョナは正統派ポップスター然としていて、ドラムスのアーロンはインディー・バンドのメンバーみたいな佇まい、と言ったところか? でもって、みんな至って素朴で親しみやすいキャラの持ち主なのだが、ダーティ・ループスを名乗るこのスウェーデンの新鋭は、実は3人揃って音楽の英才教育を受け、ジャズ/フュージョンにもクラシックにもロックにも通じたエリート・ミュージシャン集団。まあ、だからこそこんな前代未聞の、エレクトロ・フュージョン・ポップとでも評すべき音を鳴らせたのかもしれない。
重要なのは〈楽しさ〉
ストックホルムにあるアートに特化した名門高校で出会った彼らは、そのままスウェーデン王立音楽アカデミーに進学し、在学中からセッション・プレイヤーとして活動する傍らで、バンドを結成したという。
「音楽アカデミーは、入るまでは流石に競争率が高いから大変なんだけど、いったん入学してしまえば、あとは自由に自分がやりたいことができるんだ。特に後半の2年間は、生徒が自らプログラムを構築するシステムをとっていて、僕らにとってそれは素晴らしい環境だった。学校で集まって好きなだけ練習できたから。ただ、正式な活動を始める前から僕らはいろんな形でいっしょにプレイしていたんだ。アーロンとジョナは一時別のバンドでプレイしていたし、セッションの仕事で顔を合わせることも多かったしね」(ヘンリック)。
そんな彼らの存在を世に知らしめたのは、バンド結成から2年を経た2011年夏頃に、動画サイトに続々アップしはじめたパフォーマンス映像。レディ・ガガの“Just Dance”を筆頭に、メインストリームのヒットソングを独自の流儀でプレイしたものだ。とはいえ原曲は、言わばアレンジの実験に用いる素材でしかなく、3人の圧巻の演奏力やケミストリー、アレンジ力、そしてジョナのスティーヴィー・ワンダーばりの驚異的な歌唱力(「僕は全人生歌っているから、歌うという行為はあまりにも自然で、あれこれ考えたりする必要もないんだ」と彼)をショウケースする場を提供。「初めてバンドとして3人でプレイした時からこういう音だった」とヘンリックは言うものの、タダモノじゃないことは誰の眼にも明らかで、現在までに累計1,400万の再生回数を叩き出すことになる。
「僕らのほうは、自分たちが特別なことをやっているという意識が全然なかった。だから映像が一人歩きしてどんどん話題になって、逆にそんなリアクションから、〈ああ、おもしろいことをしているんだな〉とわかったような感じだね」(ジョナ)。
「とにかく、いっしょにプレイするのが楽しかったというだけなんだ。僕らにとっていちばん重要なのはそこだよ。楽しくなくちゃ意味がないし、すべてが〈楽しさ〉にかかっているのさ!」(ヘンリック)。
デビューのきっかけとなったのもやはり、これらの映像だった。3人は必然的に業界人の注目も浴びるようになり、売れっ子ソングライターとして世界にその名を轟かせている同郷のアンドレアス・カールソンがマネージャーを買って出て、老舗レーベルであるヴァーヴの会長に就任したあのデヴィッド・フォスターが、彼らにレーベル契約をオファー。こうして満を持して、セルフ・プロデュースによるファースト・アルバム『Loopified』が登場するというわけだ。
あらゆる音楽にインスパイアされた
聞けばデヴィッド御大のアドヴァイスは「君たちがやっていることをそのまま続ければいい」だったそうで、3人はまさにそれを実践。本作はほぼ全編オリジナル曲で占められているものの、カヴァーに取り組む時と同様、まずはキャッチーなポップソングを書き上げて、たっぷり時間をかけてそこにアレンジを施すという手法をとった。バンド・アンサンブルにエレクトロニック・サウンドを融合し、名人ジェリー・ヘイがアレンジしたホーンやストリングスを導入して、EDM(アヴィーチー“Wake Me Up”のカヴァーあり!)から80年代ロック、R&B、クラシック・ソウル、セリーヌ・ディオンも顔負けの王道バラード……とさまざまなスタイルを織り込んで曲を練ってゆく、徹底した〈モア・イズ・モア〉スタンスだ。「出発点ではどれもポップソングなんだけど、どの曲もひと通り大変身を経ているんだよ」とジョナ。
そのうちに、ダーティ・ループス流に音を盛ることを意味する〈loopify〉なる造語が関係者の間で広まり、アルバム・タイトルに選ばれることに。
「うまく説明するのが難しいんだけど、僕らが受けた影響のすべてをひとつの箱のなかに詰め込んで、何が起きるのか要素を見てみよう……そんなノリだったよ。これまでに聴いてきたあらゆる音楽が、インスピレーションになったと思うんだ。僕らをこういうミュージシャンにしたもの、こういう人間にしたものが全部反映されている。だからどれも自然に生まれた曲で、僕らは自分たちが作りたい音楽を作った。そしてどういうわけか、すべてがうまい具合に、アルバムのなかに居場所を見い出したんだよ」(ジョナ)。
3人とも並みならぬ完璧主義者であるがゆえに、恐ろしく長い時間を費やして完成に至ったというこれらの曲群、本人たちは「ジャズというよりポップ」と位置付けているが、シンガロングしながら踊るもよし、テクニックの妙に唸りながら、重ねられた音のレイヤーをひとつひとつ検証するもよし。「とにかくありのままに受け止めて楽しんでほしいし、ここに網羅されたさまざまなジャンルの音楽にアクセスして、新しい音楽を発見してもらえたら最高だね」と、ヘンリックは聴き手へのメッセージを総括する。そうそう、未見であれば、併せてカヴァー映像のほうもぜひチェックされたし。本作に結晶したバンドの初動のキラメキが確認できると同時に、彼らの音楽を裏打ちする〈楽しさ〉も、3人のボディーランゲージから読み取れるはずだ。
▼関連作品
左から、デヴィッド・フォスター&フレンズの2011年のライヴ盤『Hit Man Returns: David Foster & Friends』(143/Reprise)、アヴィーチーの2013年作『True』(PRMD/Universal Sweden)
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