ジャズの最後のユートピア、キューバとは?

 キューバを撮った映像なのに海、海岸の風景がない。7月に公開されるドキュメンタリー映画『Cu Bop(キューバップ)』を観ながら突然、妙なことに気がついた。キューバを印象づけるランドマークらしきものが登場しない。冒頭の映像の映す祭壇や、何かを祝うルンバ、そして皆に振る舞われるケーキに描かれたヨルバ神、オシュンの名、まるでキューバの人々の内を覗いているかのような錯覚を覚える。

 かつて世界が享受した映画『ブエナビスタ・ソシアル・クラブ』の映すキューバの貧しさ、豊かさとは異質のそれがこのドキュメンタリーにはある。おそらくは、奇跡的に残されていた豊かな音楽資源を掘り当てた映像と、音楽を創造する豊かさを想像させる映像の違い、キューバ音楽への関心とキューバに移植されたジャズへの関心の違いが、おなじようにキューバの音楽家をテーマにした映像の向かう視線を分けた。

 『Cu-Bop(キューバップ)』は、ジャズに“感染”したキューバのミュージシャンたちの日々を淡々と映し出す。サルサやルンバを軽快に踊り、ボレロを歌う音楽家の身体がジャズにチューニングする瞬間の美しさ、ぼろぼろの楽器が奏でるジャズの強靭な美しさ、ニューヨークの片隅で試行錯誤を繰り返すキューバ出身のミュージシャンが目指すサウンドの美しさ、それぞれが捕まえた音楽の、ジャズの美しさが、キューバという場所を外から、中から輝かせる。

 ブエナビスタが公開され革命前のキューバ音楽に再び世界が熱狂した時、ニューヨークでは”ディープ・ルンバ”というプロジェクトが産声をあげた。2ドラムであらたなルンバに生まれ変わらせようとする画期的な試みだった。そしてキューバの伝統音楽ルンバは、確かにキューバ/ルンバから解放された美しさを響かせた。この”ディープ・ルンバ”の歌手、シオマラ・ラウガートの息子がこのドキュメントに登場している。ニューヨークの音楽を身にまとうストリートの流体とでもいうようなキーボーディスト、アクセル・トスカ。あらゆる音楽を飲みこみ、吐き出すその吐瀉物に音楽の新しい可能性を見つけようとする、そんな音楽的身体の持ち主だ。そしてもう一人、来日しその神業を遺憾なく披露したキューバの至宝、サクソフォン奏者セサル・ロペスが登場する。あらゆる音楽の快楽に身を委ねつつ、ストイックに自らの音楽をジャズという形に紡ぎだす。映画の最後、この二人がキューバでそれぞれの音楽を演奏するのだが、その時キューバはジャズになり、ジャズがキューバになるかのような錯覚に陥る。つまりこのドキュメントが示そうとするのは、キューバがジャズの最後のユートピアのひとつなのだということかもしれない。

 

映画『Cu-Bop(キューバップ)~CUBA~New York music documentary』
監督・撮影・編集:高橋慎一
出演:セサル・ロペス/アクセル・トスカ/ロランド・ルナアデル・ゴンサレスアマウリ・アコスタルケス・カーティスエミリオ・マルティニミゲル・バルデスイレアナ・サンチェス/他

配給:KamitaLabel (2014年 日本/キューバ 107分)

◎渋谷アップリンクにて、7/19(日)から各回トークイベント付きレイト上映!
○7/19(日)15:30開場/15:45上映~トーク(18:45終了予定)
ゲスト:高橋政資(アオラコーポレーション 代表)
○7/26(日)18:45開場/19:00上映~トーク(22:00終了予定)
ゲスト:塩澤文男(画家)
○8/03(月)19:15開場/19:30上映~トーク(22:30終了予定)
ゲスト:都筑章浩(パーカッショニスト、オルケスタ・デル・ソルetc)
○8/11(火)19:15開場/19:30上映~トーク(22:30終了予定)
ゲスト:田中伊佐資(音楽、オーディオライター)
○8/17(月)19:15開場/19:30上映~トーク(22:30終了予定)
ゲスト:SAYAKA(ラテンDJ)
○8/23(日)15:30開場/15:45上映~トーク(18:45終了予定)
ゲスト:小川隆夫(音楽ライター)
○9/04(金)19:15開場/19:30上映~トーク(22:30終了予定)
ゲスト:SAEKO(ダンサー)
○9/10(木)19:15開場/19:30上映~トーク(22:30終了予定)
ゲスト:関根虎洸(写真家/ボクサー)
○9/22(火)19:15開場/19:30上映~トーク(22:30終了予定)
最終日特別ゲストライヴ!
http://kamita.ciao.jp/

◎「大磯お茶の間映画館」にて特別上映!
○8/29(土)19:30~ 大磯ミナト会場 高橋慎一監督挨拶+野外上映
○8/30(日)17:00~ 今古今(日日食堂) 上映+高橋慎一監督と座談会
http://conccon.com/