©HOLLIE FERNANDO

説明できないエナジーによって生まれた、ポジティヴなエナジーの漲るサード・アルバム! UKが誇る兄弟は10年選手になってもまだまだチャレンジングに進化を続けている!

10年も経ったなんて

 「10年というのは随分と長い感じがするけれど、昨日のことのようだよ。“Offline Dexterity”を作った時には、自分たちがそこから経験していくことなんてまったく想像もしていなかった。この曲を作った6、7年後にはNYのマジソンスクエアガーデンでヘッドライナーを務めるだなんてね。そんなことありえないって当時だったら笑い飛ばしてただろうね。だから、自分たちの期待した以上のことになっているから、いまは毎日が楽しい。毎朝起きて音楽を制作できるなんて、それだけでありがたいよ。10年も経ったんだね、信じられないな(笑)」。

 懐かしのMySpace時代に発表したファースト・シングル“Offline Dexterity”(2010年)からの感慨をこのように振り返るのはガイ・ローレンス(以下同)。彼が弟のハワードと10代で結成したディスクロージャーは、過去のアルバム2作品がいずれも全英1位を獲得し、〈グラストンベリー〉や〈レディング〉といった大型フェスのヘッドライナーを務める存在に。日本でも〈フジロック〉から昨年の〈サマーソニック〉に至るまでたびたび来日を果たしてきた。

 「僕たちはアワードやチャートをあまり気にしていなくて、自分たちの経験のほうが重要なんだ。〈レディング〉でのヘッドライナーはクレイジーだった。僕が15歳の時に初めて行ったフェスだからね。自分が初めて経験したフェスにヘッドライナーとして出演したなんて驚きだよ」。

DISCLOSURE 『ENERGY』 Island/ユニバーサル(2020)

 そのように押しも押されぬ世界のトップ・アクトへと成長した彼らが、3枚目のオリジナル・アルバム『ENERGY』をようやく完成させた。近年はEPサイズの作品やシングルが中心で、フル・アルバムとしては『Caracal』(2015年)から実に5年ぶりとなるが、そこまでブランクができたのは「アルバムをリリースする準備ができていなかった」からだという。

 「EPはファンとの繋がりを保つためにリリースしていた。それに休みが必要だったんだ。5年ぶりのアルバムだけれども、最初の1年半、2年はそれ用の曲作りをしなかった。2015年から2016年とツアーしていて、2017~18年の半分はリラックスしていた。休みを取らなければ頭がおかしくなっていただろうからね。今回のアルバムは2年間を曲作りに費やしていて、それは前の2作と変わらない。前作から時間が経っているからもっと長く感じるかもしれないけど」。

 

自然と流れ出てきたアルバム

 いつも通りの2年を費やした期間でこだわったポイントについての説明はこうだ。

 「今回はどれもまったく時間をかけずに作った曲で、200曲を作った。1か月かけて仕上げたものもあれば、半年かかったものもあるし、20分で出来た曲もある。10年やってきてわかったのは、ファンが好きになってくれる曲のほとんどは短時間で作られたものだってことだ。僕たちも苦心することなく、自然と流れ出るように出来た曲だね。今作ではコンセプトとして、そうやって自然に書けた曲だけを収録できるかを目標としていた。20もの違ったヴァージョンを作ってみることなく、最高の1ヴァージョンだけを作って収録するってことだね。それを目標にしたアルバムで、タイトルはそういう意味での〈エナジー〉だ。もちろん曲そのものもアップリフティングでポジティヴでエナジーに満ちてはいるけれど、僕とハワードにとっては、スタジオで湧いてきたアイデアとチャネリングする瞬間の、最初にどうやってそのアイデアを得たのかは自分でも説明できない――そういうエナジーのことを言っている。どこからともなく湧いてきた音楽やアイデアの流れを楽しんでいて、そういう状況で作業できた日は最高なんだ。だから、どの収録曲もすごく楽しく作れたよな、と振り返れるアルバムを作れて嬉しいよ」。

 そんな充実作『ENERGY』の本編は11曲で構成(+後述のEP『Ecstasy』などがボーナス収録)。今回も制作は基本的にガイとハワードだけで行われたという。

 「ハワードは歌詞とメロディー、ベースラインやコードを書いていて、音楽理論やハーモニーに長けている。そこに、起用したシンガーが彼らの考えた歌詞やメロディーも提供してくれる。ハワードはスタジオでそれに打ち込み、その反対側では僕がビートやプロダクション、サウンド、曲構成を手掛けて、ハワードたちがやっていることにも意見を言う。僕はどこに何を持ってくればいいかというアレンジが得意で、一方でハワードはアイデアをたくさん出すから、そこから好きなのを選んでくれ、という感じで作業する。個人的にはハワードはシンガー・ソングライターで、僕はプロデューサーってところだね。だから、2人で必要なことすべてを賄えるんだよ。今回は2人ともさらに腕を上げていると思う。ハワードのコードやメロディー、ベースラインなんてこれまででいちばん良いし、僕自身のプロデュース力も上達していると思いたいね」。

 作り方が変わらないからこそ、作品を進化させるのはアイデアの質にかかってくる。今作におけるチャレンジや新しいアプローチはどういったものだったのか。

 「EPではもっと多様なことを試してはいるけれど、今回はこれまでアルバムでトライしていなかった新しいジャンルに挑戦してみた。ブリック・バッシーとファトゥマタ・ジャワラというアフリカ系のアーティストを2人起用しているんだけど、2人とも英語ではなく違った言語で歌っていて、これは初めての試みだ。あと、アミーネとスロウタイを起用していて、ラッパーの起用もディスクロージャーとしては初めてだ。個人でラッパーの作品を手掛けたことはあったけれどね。新しい世界に足を踏み込んで、ハウス・ミュージックではないジャンルも試している」。

 

フレッシュな何か

 ファトゥマタ・ジャワラはシングル“Ultimatum”(2018年)以来の起用となるが、いずれのゲストも選ぶ基準は「僕たちが彼らのファンであること」だそう。冒頭の“Watch Your Step”に招いたヴェテランのケリス(かつて彼らは“Second Chance”で彼女の声をサンプリングしていた)から、ヒップ・ハウス風の仕上がりがおもしろい“My High”でのアミーネ&スロウタイ、UKガラージの“Who Knew?”で歌うミック・ジェンキンス、90~00年代初頭のR&Bタッチでまとめられた“Birthday”で素晴らしい歌唱を聴かせるケラーニとシド、本編ラストをソウルフルなムードで彩る“Reverie”でのコモンに至るまで、これまでのアルバムの布陣とはまた異なる幅広さが新たなディスクロージャーらしさを作り上げている。ゲストのそれぞれが自作で披露しているのとは違う顔を見せているのも興味深いところだ。

 「ミック・ジェンキンスは典型的な2ステップの“Who Knew?”で歌ってくれているんだけれど、彼はそれまでガラージを聴いたことがなかったんだ。それで彼にガラージがどういう音楽なのか、ハウスの共通点とかジャンルの大まかな歴史を説明したんだ。そのジャンルにどっぷりと浸かっていない人はそのジャンルに新しいフレッシュな何かをもたらしてくれる。決まり事を気にせずにパフォーマンスしてくれるからね。だからミックとの仕事は楽しかったし、僕らも昔を思い出した。自分たちが初めてリリースした曲を書いた時、ハウスやガラージの音になってはいたけど、その歴史は知らなかったからね。いま思うと、その曲が人気になったのも、僕たちが歴史をよく知らないことで、僕らなりに新しい何かを吹き込むことができたからだと思う」。

 そうやって出来上がった11曲に加え、日本盤には2月の配信EP『Ecstasy』の丸ごと5曲、さらにはカリードとのヒット・シングル“Know Your Worth”や、“Birthday”のMJコール・リミックスなどもボーナス収録。この自信作を引っ提げて本来は〈フジロック〉出演などで世界を飛び回るはずだった彼らだが、現在はポジティヴな側面を考えながらこの状況を過ごしているようだ。

 「コロナの影響を受けている人たちのニュースを見たり聞いたりすると、僕らの状況は何でもないと思える。ずっと飛行機で移動してホテルに滞在してという生活を繰り返してきたけれど、いまとなってはそういう生活は存在しない。でも、スタジオで曲作りしている時は自己隔離の生活だからね。部屋にひとり座って何時間も曲を作ってる(笑)。それで問題はないし、家族も元気だ。実は4か月前に僕もコロナにかかっていたけれど、それも大丈夫になって問題はない。パフォーマンスできないことだけが恋しくて、それ以外はそれほど影響を受けていないし、不平不満は言えないよ」。

 結果的にレコーディングに取り組めたことはプラスになったと言いつつ、それでもやはり思い入れがあるという〈フジロック〉のキャンセルについては無念だったようだ。

 「今回が3回目の出演となるはずだった。〈フジロック〉は人々も良いし、食べ物も良いし、ロケーションも良い。何もかもが良い、素晴らしい週末だ。今年は残念だったけれども、なるべく早く〈フジロック〉に戻りたいと願っているよ」。

ディスクロージャーのアルバム。

 

『ENERGY』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

ディスクロージャーおよびガイとハワードそれぞれの外部ワークスを駆け足でご紹介!

 モシ・モシから“Offline Dexterity”(2010年)を発表後、アルバム・デビューまでの間にエミリー・サンデー“Daddy”(2011年)やジェシー・ウェア“Running”(2012年)のリミックスで脚光を浴び、表舞台に出てきてからのキャリアは10年を数えるディスクロージャー。自作でのゲスト・ヴォーカル起用も含め、その飛躍がUKの新世代R&B~ソウル・ポップ勢の躍進と大いにシンクロしていたのは確かで、“Latch”にも迎えたサム・スミスのブレイク作『In The Lonely Hour』では“Make It To Me”をハワードがジミー・ネイプスらと共同プロデュース。同じ2014年にはサム&ジミーにナイル・ロジャースを加えた4組で“Together”を送り出してもいた。これまた2014年にはメアリーJ・ブライジがUK勢を主軸に作ったコンセプト作『The London Sessions』にコンビで参加し、“Right Now”と“Follow”を手掛けている。

 ガイとジミー・ネイプスがエリー・ゴールディング“Heal”を共同制作した2015年には、ハワードがリアン・ラ・ハヴァス“Wonderful”をコライトし、コンビではアクアラング“Eggshells”をバンドと共同制作。なかでも大きかったのは「007 スペクター」主題歌として全英1位を獲得したサム・スミス“Writing's On The Wall”のプロデュースだろう。アルバム『Caracal』のリリースに伴うツアーとその後の休止期間もあって以降の外部仕事は散発的になっていくが、2017年にはフランシスの“Borrowed Time”をハワードが、『ENERGY』でも組むアミーネの“Blinds”をガイがそれぞれ単独でプロデュースしている。

 コンビで往年のディスコに挑んだ『Moonlight』を出した2018年には、先述の縁もあってかナイル・ロジャース率いるシックの“State Of Mine”にプログラミングで寄与。以降は昨年から今年にかけて、『ENERGY』にも招いたカリードの“Talk”、 フレンドリー・ファイアズの復活作における“Heaven Let Me In”、クロイ×ハリーの“Ungodly Hour”をコンビで手掛け、ガイ単独ではサム・スミス“I Feel Love”やマック・ミラー“Blue World”(ジョン・ブライオンと共同制作)をプロデュースするなど、活躍のフィールドはさらに多様化している。今回の『ENERGY』を受けてさらに広がっていくであろう外部での活躍にも注目していきたい。