秋山和慶(1941 ~)は、グレン・グールドデューク・エリントンとも共演経験のある世界的な名指揮者であり、多くの指揮者を育成した名伯楽でもある。この書では氏の決して順風満帆とは言えなかった、しかし結果的には栄光に満ちた指揮者人生を振り返っている。本のタイトルは氏の理想、指揮者が目立たずにオーケストラが素晴らしい演奏をすることを、言葉にしたもの。その誠実で謙虚な人柄と音楽性が、生来のものに加え、師の斎藤秀雄や、苦難に満ちた東京交響楽団との歩みなど、人生の不思議な巡りあわせによって生まれたことが実感できる、音楽好きならば実に面白く、感慨深く読める一冊である。

【参考音源】 秋山和慶の指揮、中部フィルハーモニー交響楽団によるプロコフィエフ“交響曲第1番”