Page 2 / 3 1ページ目から読む

デトックスしたい話

DG「しかし、なんで『Detox』は出なかったんだろうな」

ダレ「その話する? そもそも『Detox』って、どこから始まった話だったっけ?」

DG「2004年のbounceによると、〈年内登場!〉とか無邪気に書いてあるぜ。この時期にスタット・クオーとゲームがアフターマス入りして、バスタ・ライムズやイヴの契約話も盛り上がってたんだよな」

ダレ「ただ、その年には本人もインタヴューで話してんだよ、プロデュースで忙しいからもう少し先になるって。エミネムが“Encore”で〈『Detox』は俺らが出させるから心配すんな〉とか言ってたのもよく覚えてるぜ」

DG「ゲーム“Higher”の最後でも〈Look out for Detox!〉と叫んでたな。ただ、ドレーが思った以上にエミネムも売れ続けて、50セントもゲームも売れて、時期を逃しまくったんだろうな」

ダレ「それが10年ぐらい前の話か。なんか途中ではビショップ・ラモントがしきりに宣伝してた気もするし、他のラッパーもドレーと録音したことを明かしてたりしたから、2000年代半ばには実際に出そうなところまで進んでたっぽいよね」

DG「俺の脳細胞によると、〈『Detox』がいよいよ9月に登場!?〉って原稿に書いてる」

ダレ「おっ、今回の日本盤は9月だし、当たってんじゃん。やるじゃねえか」

DG「2007年の話だよ! で、2008年にはスヌープがラジオで〈ドレーは選曲段階に入った〉って話してたんだよな」

ダレ「ただ、その後に2番目の息子を亡くしたんだよな……」

DG「それも影響はしたはずだな。一方で、2010年のVibe誌では『The Planets』という作品について話していた」

ダレ「太陽系をテーマにしたインスト・アルバムってヤツな。あれこそ幻だぜ」

DG「そんなタメがあったから、その年の暮れに“Kush”が出回った時にはマジでワクワクしたもんだよ。2010年代のドレーの曲では一番好きだね」

ダレ「まあ、オレらはそうなるわな」

ドクター・ドレーの2010年のシングル“Kush”

DG「結果的に“Kush”は『2001』様式の最終型みたいな感じになったな」

ダレ「アレで〈やっぱドレーのビートは違うぜ~!〉って盛り上がってたらDJカリールのビートだったっていう(笑)」

DG「〈ミックスだけは俺〉っていうスタンスになってたんだよな」

ダレ「もうBeatsも立ち上げてたから、耳の行くところが変わったのかもしれない」

DG「ただ、ネイト・ドッグが健在だったら“Kush”のアタマのところとかはヤツが歌うパートだったはずだよ。結果的にはスライ・ジョーダンとかが歌ってるけど」

ダレ「ネイト待ちだった面はあるのかも知れんな。でも、年明けの3月にネイトが亡くなってしまって」

DG「強引にロマンティックに解釈しておくと、ネイトというパーツが失われたことで『Detox』の構想が完全にスクラップになったのかも知れんな。向かう理想像がガラリと変わったというか……オレがドレーならそう言うね」

ダレ「お前じゃねえし。とはいえ、“Kush”と翌年の年明けに大ヒットした“I Need A Doctor”では何かシフトチェンジ感があるのも確かだ。ただ、オレは正直“I Need A Doctor”は微妙だった」

DG「オレも。何か情感が強すぎるというかね……ただ、その〈人生フラッシュバック〉みたいなMVを観ると、キャリアの総まとめという『Compton』に繋がる構想はここで生まれたんじゃねえかと思う」

ドクター・ドレーの2011年のシングル“I Need A Doctor”

ダレ「最後はイージーの墓参りに行って終わるしな。あと、そのMVで披露してる肉体改造にも驚いたね!」

DG「こっちの勝手なイメージだけど、ワークアウトとかに興味なさそうな感じだったからね。ダウンタウン松本のボディーメイクを見た時の印象に近い」

ダレ「ジミーさんに〈デキるエグゼクティヴは鍛えろ〉とか言われたんじゃねえの。でも、その“I Need A Doctor”がヒットしたのに、結局はアルバムに至らなかった」

DG「引っ張りすぎてヘタを打てないようになってしまったんだろうよ。まさに“Under Pressure”(2010年)だな」

ダレ「そして、『Detox』という呪いをデトックスするしかなくなったと」

DG「上手いこと言うねえ……ってこともないか。その間にアフターマスと契約したけど何の動きもなかった連中にとっては、そっちのほうがよっぽど呪いだろ」

ダレ「スタットとかビショップとか、スリム・ザ・モブスターとか……待たされて離脱した奴らのいまの気持ちが知りたいぜ」

DG「そういや華々しく契約したヘイズは昨年末に亡くなってしまった。ジョエル・オーティズみたいに再浮上した例もあるけどな。そう思うとケンドリック・ラマーは契約前からの実績もあるとはいえ、運もあるよな」

ダレ「でも、全部引っ括めて最初に話した通り、結局はバッチリなタイミングになったんだよな。〈Compton〉を描くアイデアはケンドリック以降の視点でもあるだろうし、現在のアメリカ的でもあるんだろう」

DG「どのタイミングで、どんな内容のものを、どんなふうに出すか……大物になりすぎるともうリリースする意味を考えるだけでも大変そうだしな」

ダレ「昔ジェイZも映画に引っ掛けたりしてたよな。〈どんな方法で届けるか〉っていうセンセーションまで要求されるわけだから……みんな大変だと思うわ」

DG「サプライズとかも増えてるしな。まあ、そこでApple Musicの目玉にするっていうのは、ドレーならではの芸当だぜ!」

ダレ「そこを話題の中心にすると思うツボなんだろうけどな(笑)」

DG「まあ、聴き方の手段とか作法って結局は個人の気分の問題だから、ここでそういう話をしてもあんまり意味はないよな」

ダレ「まあ、サーヴィス自体の拡販になるのは良いことだよな。ビデオデッキの普及にAVが果たした役割みたいな、目玉となるコンテンツは必要だろうし」

DG「だな。ポルノ産業と言えばDJイェラだけど……」

ダレ「おっ、うまく『Compton』の話に繋がったような気がするじゃねえか」