物騒な新作を引っ提げてまたもこの男は君臨する。サプライズ・リリースはもうサプライズじゃないが、血が騒ぐこのスキルはいまも危険な驚きを届けてくれる!!

活発だった10年代

 今年で御年48歳となる〈ラップ・ゴッド〉ことエミネムだが、そのモチベーションに衰えなんてものは微塵もないようだ。2020年の幕開け早々、前作『Kamikaze』から約1年半という短いスパンで、匂わせナシのリアル・サプライズでニュー・アルバム『Music To Be Murdered By』をリリース。直後に開催された〈第92回アカデミー賞〉の授賞式にもこれまたサプライズで登場して映画「8マイル」の主題歌“Lose Yourself”をパフォーマンス、17年前に歌曲賞を受賞しながらも式典を欠席した件のリヴェンジを果たした。

 そんな彼の2010年代を振り返ってみれば、活発な活動が続いたディケイドだった。2010年には前年の『Relapse』に続く7作目『Recovery』をリリース。先行シングル“Not Afraid”、リアーナとのコラボ“Love The Way You Lie”の2曲は全米1位を獲得してキャリアにおけるトップクラスのモンスター・ヒットとなり、アルバム自体も前作と大幅に上回る大ヒットを記録してエミネムは完全に〈リカヴァリー〉を果たしたのだった。その勢いのまま翌2011年には旧友ロイス・ダ・5'9"とのデュオ=バッド・ミーツ・イヴィルを久々に再始動させると、初作『Hell: The Sequel』をリリース。それに前後してロイスがジョー・バドゥン、キング・クルキッド、ジョエル・オーティスと組んだスローターハウスもエミネム主宰レーベルのシェイディに電撃加入がアナウンスされ、エミネムは裏方としてもアグレッシヴに活動していくことになる。

 2012年にはスローターハウス(とシークレット・ゲストにドクター・ドレー!) を伴って約9年ぶりとなる来日公演が実現。2013年には本名を冠した『The Marshall Mathers LP』(2000年)の続編となる『The Marshall Mathers LP 2』を、師であるドレーと巨匠リック・ルービンをエグゼクティヴ・プロデューサーに迎えて発表、文字通り神がかりなスキルを披露した“Rap God”をはじめ、ケンドリック・ラマーとの共演やリアーナとの再コラボなども話題を呼んだ。