(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

 

【特集】ストレイト・アウタ・コンプトン
その街に渦巻いていたのは、暴力と犯罪、理不尽と非常識、そして音楽と青春だった――コンプトンから時代を作ったNWAの歩みを話題作の公開と共に追体験しよう!

★Pt.2 ディスクガイド:NWA史を彩る重要作、一気にイクぜ!(1)はこちら
★Pt.3 ディスクガイド:NWA史を彩る重要作、一気にイクぜ!(2)はこちら

★コラム〈映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」が遂に日本上陸、NWAの知られざる物語と圧巻のライヴ・シーンを体験せよ!〉はこちら

★イヴェント・レポート〈丸屋九兵衛×DJ Couzが秘話明かしまくった映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」公開記念イヴェント@渋谷タワレコ〉はこちら

 

(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

 

JUST DON'T BITE IT
最高の映画と共にNWAの歩みを振り返ろう!

DGノックアウト「いや~、クソおもしろかったな! オレのGサングも思わずスタンディング・オベーションだったよ」

ダレスタ「いきなり最悪だな……とはいえオープニングから引き込まれちまってアッという間に終わってたね! ライヴを観終わった後みたいな感覚もするよな」

DG「そうだね。なんか、無性に『Straight Outta Compton』を爆音で聴きたくなってきたわ……ってことで、ついに日本上映された『ストレイト・アウタ・コンプトン』を観たばっかなんだけど。ドクター・ドレーの『Compton』が出た時点からウズウズしてたし、ミゲルが“NWA”をやった時点から何ならムズムズはしてたけどね」

ダレ「オイ、このままダラダラ話してたら絶対に言い忘れるからさ……最初に言っとこうぜ、せーの……」

一同「最高!」

DG「オマエらも劇場で観ろよ!」

ダレ「観ろよ!」

DG「あー、オレももう一回観に行くとするかな!」

ダレ「……工夫のないプロモーションだな」

DG「いやいや、これぐらい直球でプッシュしたい映画なんだっての。海外での大ヒットぶりを見りゃわかるだろ」

ダレ「そうだな。ヒップホップ映画、音楽映画というだけじゃなく、真っ当に映画としても評論家からも絶賛らしいからさ。そんなわけで、これはNWAを知らない奴らにもぜひ観てほしいね」

DG「ってことは、マトモな映画評みたいな話はいろんなとこで目にすることができるはずだから……ここでは映画で描かれていないこととか、余計なことを副音声的に喋っていこうぜ~」

 

(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

 

(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

 

■エレクトロの時代

ダレ「何と言っても、俳優がみんな似てるんだよな。実物には会ったことねえけどさ、すげえ雰囲気出してるよな。アイス・キューブのジュニアがキューブ役なのも、実際に動いてる姿を見たら七光りなんて言えないぜ」

DG「言ってねえよ。OMGの名でラッパー・デビューもしてるけど、二世俳優としても成功したら凄いよな」

ダレ「あと、イージー役のジェイソン・ミッチェルも、カリスマがあるっていうか、メチャクチャいい表情するしな。実息のリル・イージーはオーディションに落ちたらしいけど、あれは仕方ない」

DG「オレらのイージーがいる!って感じだったな。だから後半は泣きそうになったぜ」

ダレ「あと、似てないんだけど絶妙に似てて不思議だったのがドレー役のコーリー・ホーキンスだな。実物よりハンサムだってのによ」

DG「目の感じがさ、ワールド・クラス・レッキン・クルーWCWC)時代の少しメイクしたドレーに似てるんだよな」

ダレ「おお、そうだな」

DG「ただ、映画だとそのあたりはサラッと行ってたね。あくまでもクラブDJとしてのレッキング・クルーの部分が描かれてるだけだった」

ダレ「誰だって忘れたいことはあるのさ」

DG「それで言うと、ドレーもキューブも忘れたいことが多そうだな!」

ダレ「いきなりやめなさいよ……ともかく、WCWCって何?ってとこだけど。80年代初頭からやってるDJクルーみたいな感じなんだよな?」

DG「当時のLAは本場のNYと時間差があったから、アフリカ・バンバータの“Planet Rock”(82年)が流行ってからしばらく、そういうエレクトロ=ヒップホップだったんだよな」

ダレ「あと、映画でもシェレールの曲を使ってたけど、ああいう808系のブラコン曲とエレクトロ・ラップって親和性があるから、クラブでは人気だったのかもしれないな」

DG「なるほどな。で、ボスのロンゾ・ウィリアムズクルー・カットっていうレーベルを作ってWCWCがデビューしたのは84年なんだけど、なぜかこの年が重要なんだっての。アンノウンDJテクノ・ホップを設立したのも同じ年だし。エレクトロビートも84年。ここの一発目はキッド・フロストの“Rough Cut”で、次がアイス・Tの“Killers”だぜ。で、アラビアン・プリンスのレコード・デビューも84年なんだ」

ダレ「みんな同期みたいなモンなのか」

DG「LA時代の2ライヴ・クルーも84年に最初のレコードを出してるしな」

ダレ「ルークが入ってマイアミに移る前か。そういや映画でも2ライヴ・クルーを使ってたね」

DG「あと、映画絡みで言うとWCWCのリードだったクライアンテルはテクノ・ホップに移ってアンノウンDJとオーガニゼーションってユニットを結成するんだけど、そのシングル“The Big Beat”で子分だったのがレンチ・モブWCなのさ」

ダレ「へえ~、今回の映画で俳優陣にラップやステージングを指導してるんだよな」

DG「ちなみにそのテクノ・ホップから最後に出てきたのがMCエイトコンプトンズ・モスト・ウォンテッドなんだぜ。ドレーが忘れたくてもオレは忘れないね」

ダレ「後のウェッサイに繋がる連中が軒並みエレクトロ時代から繋がってくるのはおもしろいな……って、結成前で話が終わっちまうじゃねえかよ」

 

(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

 

(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

 

■イキイキしてる

DG「まあ、ある程度は過去を悪し様に描かないといけないんだろうけども。〈ロンゾは時代錯誤なオッサンだな!〉〈もっとリアルなことをやりてえんだ!〉っていう」

ダレ「ロンゾとの絡みでいうと、DJイェラがいきなりエロキャラでおもしろかったな。後のポルノ業界行きを示唆してるというか」

DG「そうだな。NWA陣がみんなイキイキしてるから、周りが悪役に見えてくるのにも説得力があるね」

ダレ「実際はイージーもドレーもロンゾと組んでルースレスを作ろうとしてたって話があるから」

DG「そのへんは“Boyz-N-The-Hood”をコキ下ろさせるシーンを入れたり、匂わせてはいるけど。まあ、そういう話を始めるとロマンが薄れるってのはあるな」

ダレ「だな。いずれにせよ、その“Boyz-N-The-Hood”をイージーが録音するシーンは最高だよ。トレイラーでもすでに観てた場面だけど、館内でもやっぱり笑いが起こってたぜ」

DG「ああいう型にハマらない良さが出るのが、そもそものラップの表現のいいところって感じもあるよな。よく考えるとイージーってあんまりフォロワーのいないタイプだし」

ダレジーズィもいたボーイズン・ダ・フッドの“Gangstas”とか、マイク・ジョーンズの“My 64”とか、スターリーの“Jackin' Chevys”とか、“Boyz-N-The-Hood”のリサイクルは山ほどあるけど、確かにイージーっぽいラップの人ってあんまりいねえな」

DG「まさにオリGナル、いやオリZナルか」

ダレ「どっちでもいいっての。あと、ドレーもイージーもリリックを自分で書いてない様子を普通に出してるから、昨今のヒップホップ状況を鑑みると逆におもしろいよな」

 

 

DGミーク・ミルドレイクの話? まあ、イージーもドレーも昔からクレジットしてるから、いわゆる〈ゴーストライター〉とは意味が違うというか、分業制であることに何の疑問も感じてないんだろ。あと、この映画におけるNWAの場合、そのことが逆にチーム感を出す要因にもなってる気がするし。オマエが才能あるからリリックは任せたぜ!的な」

ダレ「そうだな。ビート担当、リリック担当、カリスマ担当、みたいな」

DG「で……副音声的な話に戻るけどさ、NWAの最初の頃はドレーもテレシス名義とかいろいろなプロジェクトを並行させてて、そもそもはNWAもサイド・プロジェクトのひとつだったと思うんだよな。最初のEPのジャケにも書いてあるけど全員が掛け持ちで、〈スーパー・グループ登場!〉みたいな感じでさ」

ダレ「ほうほう」

DG「映画を見ても結成タイミングがふんわりしてるのはそういうことだろう。アラビアン・プリンスも〈後の時代でいうウータンみたいなクルーだった〉って言ってるし。ただ、チームとして人数もカッチリしてきて、ステージやスタジオでの役割もカッチリしてくると、そこでアラビアンの存在意義がなくなってしまった感じで」

ダレ「オマエは本当に脇役が好きだな」

 

 

DGJJ・ファッドの“Supersonic”をドリーム・チーム・レコーズから出した後、ルースレスにもってきたのは彼の功績じゃねえかな」

ダレ「最初に出た時点ではプロデュースにドレーのクレジットが入ってないんだっけ」

DG「その“Supersonic”がゴールド・ヒットになったのは88年だが、『Straight Outta Compton』がまだ出る前の話だからな。ポップ方面やラジオへの配慮も、イージーとマネージャーのジェリー・ヘラーはビジネス的にちゃんとしてたんだろ」

ダレ「だからイージーは、『Straight Outta Compton』にダンス・ポップの“Something 2 Dance 2”を入れたがったらしいね。いまとなっては何コレ感もハンパないし、時代遅れだって言われるけど、実際の流行はもっとゆっくり変わっていってたわけだからね」

DG「そういう綻びも名盤らしさを強くするのさ。まあ、スクリーンの上ではアラビアン・プリンスもいなくて画的にもスッキリだし、話の展開もスムースだし、ともかく『Straight Outta Compton』のレコーディング風景からその後のパフォーマンスまでカッコ良くってしょうがない」

ダレ「あの流れはめちゃくちゃ楽しいよな。青春映画って感じで、オレもうっかりニコニコしちまったぜ」

 

■青春の思い出

DG「で、そのジェリー・ヘラーがだんだんロンゾに代わる悪役みたいになると」

ダレ「でも、警官への抗議のシーンとか、メンバーのために本気でがんばってる場面とかも見せてるから、そこまで単純にワルっていう感じにはならないようにしてたのかもしれないけどな。ロンゾよりは知恵の働く悪人ってことなんだろうけどな。しかし、音楽モノの青春映画って、だいたいこういうギャラの問題とかで崩壊していくんだよな」

DG「そういう現実なんだろう。単純に嫌い合った話は物語にしづらいだろうし」

ダレ「何にせよ、こういう成長痛みたいな話はオレらのような単細胞にもグッとくるよね」

DG「あと、バンドとかでも個々に取り巻きができていって……っていうのも多いんだろうな。実際、そんなとこに悪党シュグ・ナイトも出てきて……って話だよ。ロンゾとジェリー、シュグの三大悪のおかげで、友情物語がシンプルに成立してるのは確かさ」

 

(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

 

ダレ「その結果、関係者がいろいろ怒るのも確かだけど。勝った奴だけが勝ちなんだよな……っていう切なさもオレは感じたね」

DG「まあ、イヤミな言い方をすると……政権者が歴史を書き換えるってのは始皇帝からの慣しだからさ」

ダレ「焚書坑儒か」

DG「その結果、オレたちの愛する『Niggaz4life』が映画ではほとんど触れられてないという」

ダレ「チンピラすぎるというか、露悪的に作った一枚だから、ドレー的には引っ掛かってるのかもしれないね。キューブがいなくなって張り切るレンの見せ場も多い傑作なんだがな……」

DG「映画ではLA暴動のシーンも印象的に挿入されてるし、『Straight Outta Compton』のカラーを強調したほうが、現代の〈Black Lives Matter〉な流れまで辻褄が合わせやすいってことだろうけど」

ダレ「キューブとNWAのビーフはイイ感じで描かれてたけど、実際はその後のドレーとイージーのディス合戦のほうが本番だった印象もあるしね」

DG「あれがあったから後の和解にも意味があるんだけどな。もちろんシュグの実力行使だけでドレーがデス・ロウに移籍できるわけないし。イージーが裁判で手を打ったり、いろいろあったんだよな」

ダレ「〈Dre Day only meant Eazy's payday〉な。背後でインタースコープのあの人が動いたんだろうけど、DOCを悪く描くわけにもいかないし、物語上ではいろんなことをシュグ・ナイトが背負ってくれるってわけだ」

DG「まあ、オレらは暴露系のドキュメンタリーとかも観すぎてるからアレだけど……その意味でドレー目線からの物語って実は珍しいわけで、今回の映画はドレーにとって過去の諸々に対する禊の意味もあるんじゃないか。弟の亡くなるシーンとか観てると、自分の人生で何を傷に感じてきたか、本人が伝えたいんだろうって感じたしな。息子をつれて交際相手が去っていく場面もわざわざ入れてるけど、あの赤ん坊はアンドレ・ジュニアってことなんだろ」

ダレ「2008年にオーヴァードーズで亡くなった2番目の息子な。オレらの説では『Detox』お蔵入りの要因になった事件だ」

DG「ただ、映画の序盤で母ちゃんに説教されてるのは別の女性と息子の件なんだけど」

ダレフッド・サージョンか」

DG「その辺は何の説明もないから……なくてもいいけど、意図的に混同させたい印象も受けたね(笑)」

ダレ「尚更ミシェレイがお怒りなのはごもっともだけど。とはいえ、キューブとドレーとイージーの未亡人トミカがプロデューサーなわけだからそうなるだろう。実際、映画そのもののオモロさや価値には何の変わりもないわけだし」

DG「ていうか、後半は急に紙芝居というか、〈ヒップホップ名場面集〉みたいになって逆におもしろかったよな」

ダレ「再現ドラマっぽいノリになるよな。『その時、歴史が動いた』みたいな。あれ、スヌープ? あれ、ジミー・アイオヴィン? あれ、2パック? それでbのヘッドフォン?って(笑)」

DG「まあ、そこだけで別の映画ができるぐらいの濃密な時代だからな。スヌープ役の人の新人類っぽい感じは良かったし、“Nuthin' But A "G" Thang”の場面をDOCが見守ってる参謀っぽい感じもオレはグッときたね」

ダレ「〈Like my nigga D.O.C., no one can do it better〉だからか。ジャスタスを『Compton』に送り込んだり、DOCは本当にドレーに一目置かれてるんだな」

DG「ただ、2パックの出し方だけは妙だったね。完全に時系列を狂わせてるし」

ダレ「イージーが亡くなる前後の時期って、2パックは撃たれたり裁判があったり服役中だったりするから……あそこはOG連中なら違和感を抱くと思うぜ。ただ、そこは人生の先輩のお話を拝聴する感覚で流しとけばいいだろ」

DG「正直、〈お前にピッタリの曲があるぜ〉って、“California Love”のビートをかけるとこは笑っちまったよ」

ダレ「これからはそっちが正史になってくんじゃねえの。あとはドレーと奥様の出会いのシーンとか、ジェリーの不正を見破ったトミカの功績とかが強調されてて微笑ましかったよ。仲睦まじいキューブと嫁さんと息子のシーンとかさ」

DG「そのガキ自身がスクリーンで親父を演じてるわけだ」

ダレ「そう思うと何かいいよな。オレらが観ることのできなかった動くNWAの姿を、その子どもたちが見せてくれると思うと」

DG「よく考えると活動も実質3年ぐらいだし、キューブがいた5人時代なんて1年ほどだろうし、ツアーも1回きりだし、動画とかも当然豊富ではないグループだからね。最初の話に戻るけどさ、ライヴなんてマジで興奮させられたし、やっぱり観終わると爆音でNWAを浴びたくなるんだよ。繰り返すけどこれはNWAを知らない人にこそ観てほしいし、ここを入口にいろんなブツをチェックしてほしいね!」