至るところに存在する〈ダブ〉を炙り出しては繋ぎ、融合する21世紀のダブ・バンド

 音の抜き差し/処理というダブのアプローチが生み出したリミックスの手法を筆頭に、意識して聴かずとも、〈ダブ〉は日常の音楽生活に溶け込んでいる。5人組のTAMTAMはそのミステリアスなサウンドに魅せられ、音を介して鬼ごっこをするかのように、至るところに存在する〈ダブ〉を炙り出しては繋ぎ、融合する21世紀のダブ・バンドだ。

 「メンバーは、共通項のダブはもちろん、テクノやエレクトロニカといった電子音楽も好きなんですよ。そういうさまざまな要素を、どうやったらバンドとして自然にまとめられるのか? そう考えたとき、何をやっても許されるようなダブの懐の深さがTAMTAMにとっては重要だったんです」(Affee Takahashi)。

 彼らはルーツ・ダブを起点に制作/ライヴ活動を重ねていくなかで、混血のダブ・バンドへと進化。そして2014年、新作ミニ・アルバム『For Bored Dancers』と共にメジャー進出への一歩を踏み出す。

 「作品を作るにあたっては、ライヴ的な勢いを活かしつつ、TAMTAMを初めて聴く人が多いことを考慮して、バンドのすべてを見せられる内容にしたかったんです」(Yuthke Suzuki)。

TAMTAM 『For Bored Dancers』 スピードスター(2014)

 冒頭の“クライマクス”には、そんな彼らの意志がはっきり打ち出されている。この曲に散りばめられているのは、ステッパーズのリズムとロックのダイナミクス、シューゲイズ・ギターやエレクトロニクス。蒼く燃えるようなUKダブの温度感を継承しながら、5人は新たな刺激を求めてジャンルを横断し、生音と打ち込みを交錯させる。

 「10年前はいろんな機材が必要だったことが、いまはパソコンでできてしまう時代だったりもするわけで。生のバンド演奏と打ち込みは、自然に並列で捉えています」(Junet Kobayashi)。

 そして紅一点のKuroが紡ぐメロディーは、近未来的なサウンドスケープを進んでいく際の良きガイド役だ。

 「メロディーに関しては、Kuroちゃんのヴォーカルが活きるように、〈ダブであること〉を無視してとにかくポップなものを作ろうと心掛けてます」(Tomomi Kawamura)。

 「その強いメロディーに負けないようにアレンジや演奏を尖らせていく。常にそういうせめぎ合いがあるんです」(Affee)。

 その先に浮かび上がるのは、最先端のハードSF作家、グレッグ・イーガンやフランスの漫画家、メビウスが描くサイファイ・ワールドに共感を寄せるKuroの歌詞世界。情緒と程良い距離を保ちながら、彼女は新しい風景を描き出そうと試行錯誤している。

 「私にとってSF小説は、例えば、〈幸せは脳内で化学物質が分泌されるからであり……〉というようなリアリスティックな表現がグッとくるポイントなんですけど、そうしたリアリズムを前にすると、人間の営みは無意味なようにも感じられるし、逆にそうじゃないようにも思う。そういう葛藤が、私の歌詞には表れているような気がします」(Kuro)。

 ファンクネスを注入した“フリー”のような曲があるかと思えば、ダブ・テクノの影響を打ち出した“バイマイフューチャー”やカオティックに音を重ねた“トゥナイト”では、ライヴの再現性を考慮せずにスタジオ・ワークを追求。挨拶状としての性格が色濃い本作は、同時に今後の深化を大いに期待させる。

 「私たちはダブ・バンドであり続けようと思っていますけど、日本で普通に生活してたら出会う機会が少ないダブの深いところまで聴いてほしいという、押し売り的な気持ちはないんです。ただ、私たちの活動を通じて、なんとなくでもいいから、ダブという音楽を知ってもらえたら嬉しいですね」(Kuro)。

 

PROFILE/TAMTAM

Kuro(ヴォーカル/トランペット)、Yuthke Suzuki(ギター)、Tomomi Kawamura(キーボード)、Junet Kobayashi(ベース)、Affee Takahashi(ドラムス)から成る5人組。2008年に結成。2012年5月にHAKASE-SUNのプロデュースによる初の全国流通盤『meteorite』をリリースし、同年夏には〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉に出演を果たす。2013年は3月にミニ作『Polarize』を送り出し、8月にはコンピ『KAIKOO PLANET III』に参加。活動のフィールドを広げるなか、10月にメジャー移籍を発表。2014年3月に上梓したプレ・デビュー・シングル『クライマクス&REMIXES』に続き、このたびニュー・ミニ・アルバム『For Bored Dancers』(スピードスター)をリリースしたばかり。