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DE DE MOUSEのミュージック・ジャーニーはどこまでも続く
まったくもってDE DE MOUSEらしく、しかしこれまでのDE DE MOUSEとはまったく違う。実に3年ぶりのオリジナル・アルバム『farewell holiday!』は、オールドタイミーなジャズやカートゥーン・ミュージックのようなアンサンブルと、子供たちのヴォイス・サンプルが織り成すオーガニックな質感の作品となった。デビュー以来の過剰なまでにファンタジーを志向する視点のもとで、ホリデイ・シーズンや遊園地を思わせる世界が紡がれているのだが、過去作を彩っていた時に暴力的にもなるエレクトロニックなビートは一切封印されているのだ。
「自分が聴いてワクワクする音楽を作りたいって漠然とした思いがあったんですけど、その求めているものが1940~50年代のいわゆる軽音楽だって思い当たったんです。ルロイ・アンダーソンの〈そりすべり〉みたいな、みんな知ってるけど作者を知らない大衆音楽。〈これだ!〉と。あと、震災の影響も大きくて、あの時に〈電気がなくなったら自分は何もできないな〉と思ったんですよね。ちゃんと楽譜に起こせて、他の誰かが演奏しても成立するものを作りたかった」。
そんな着想から出発した今回のアルバムは、ホーンやストリングスなどのアコースティックなサウンドが豊かに鳴り渡っているのだが、結果として生の演奏はまったく入っておらず、すべてを打ち込みで構築したのだという。
「軽音楽に完全に振り切ってしまうとこれまで培ってきた個性がなくなってしまうし、やっぱり自分にとっては打ち込みで音楽を作るということが大事なんですよね。フレーズのサンプリングも使ってなくて、一音一音を自分で打ち込んでいった。だから、僕にとってこれはテクノなんです」。
つまり本作は、これまでの彼にはないアプローチによるエレクトロニック・ミュージックの提示でもあるということだろう。そして、そうしたサウンドの変化だけでなく、曲作りの根本のところから大きく変わった印象も受ける。ドリーミーな光景は一貫していながらも、〈DE DE MOUSE節〉な旋律やトーンを回避し、別の作法で描かれているように感じるのだ。
「一度、手癖を封じようと。そのうえでまた手癖のほうに戻したり。そうやってどの曲も2~3回アレンジし直してますね。これまでは旋律を感覚で作っていたけど、今回はある音の次にどの音に飛ぶかをすごく考えたんです。あえて不協和音をぶつけたりもしてますね。楽典的に破綻のないアレンジをめざしたわけではないし、それはつまらないので」。
そうして時間をかけて丁寧に組み上げられた楽曲群は、これまで以上に親しみやすい表情を湛えているし、聴き手を選ばない普遍性を備えている……ことは間違いないのだが、しかし何かがおかしい。曲の中心にメロディーがなかったり、思いもよらぬ展開をしたり、ポピュラー・ミュージックのセオリーを微妙に逸脱した瞬間がそこかしこに待ち受けており、そのことが妙な中毒性を醸し出すのだ。
「ヴォイス(・サンプル)は動かないんだけど、バックの楽器のフレーズが動いている。楽器のほうが歌っているんです。いままでといちばん違うのは、8小節のループを繰り返すような構成を止めたことですね。次がどうなるかまったく予想できないくらい、どんどん展開していく。ただ、あからさまに変わったものは嫌で、〈いい曲だな〉と思って聴いているうちにジワジワ効いてくるようなものにしたかった。この世界にフッと入ってしまったら、抜け出られない。そういう仕掛けは張り巡らせているつもりだし、違和感とか気持ち悪いなって思う部分が大事なんですよね」。
「エレクトロニック・ミュージックのシーンに対するアンチテーゼの意味合いも大きい」とのことだが、どこまでもチャーミングでスマートな作品でもって、その姿勢を表明していることにDE DE MOUSEのDE DE MOUSEたる矜持が窺える。オルタナティヴな尖鋭性とエヴァーグリーンになり得るポテンシャルを備えた今作が、彼のキャリアのなかでも重要な節目となることは間違いないだろう。
「僕のことをまったく知らない人に〈音楽作ってるんで聴いてください〉って堂々と言える初めての作品になりましたね。昔からスタジオジブリが大好きなんですけど、今回は宮崎駿さんにも聴いてもらいたいと心から思えるものが出来た。この後も何十年もある自分の音楽人生のなかで、いまこれを出せて良かったし、これを評価してもらえるようにこれからがんばらなきゃと思います」。
なお、本作には特設サイトにアクセスできるカードが封入されており、そのサイトで収録曲のリミックス/リアレンジ・ヴァージョンが毎月1曲ずつダウンロードできるという趣向になっている。それらの楽曲が揃った時に、このアルバムは初めて完成するというわけだ。「これから取り掛かるんで、どんな曲が増えていくかはわからない(笑)」と彼は笑うが、約1年後、『farewell holiday!』はどのような作品に成長しているのだろうか?