ディスクガイド:現行R&Bのスタイリッシュなスタンダード(1)

自主レーベル発にして初めての全米チャート1位を獲得したのは俳優としての人気だけが理由ではあるまい。スヌープやブランディ、クリセット・ミシェル、TGTの同僚タンクがゲストに駆け付け、B.A.M.やハーヴィー・メイソンらが手掛ける落ち着き払ったバラードをストロングな喉で歌い上げる名盤。ジェニファー・ハドソンがエモーションの表出に加担したウォーリン・キャンベル制作の“Shame”は今年最高のソウルだ。 *林

俳優としての演技力か、またはシンガーとしての表現力か。ハリウッド・セレブの恋愛模様を描いてゆくドラマ仕立ての本作におけるジェイミー・フォックスは、官能と苦悩を行き来する感情を見事に歌で表現していく。80sブギーな“Baby's In Love”からクリス・ブラウンとのセクシーなミディアム“You Changed Me”まで、エモーショナルかつしなやかな歌でストーリーを綴っていく様に本物の芸達者を見た。 *池谷

TGT世代というか〈The Best Man〉世代の活躍を横目に睨んで、この男も本格的に前線復帰。押しすぎることなくじっくり染み入ってくるヴォーカルの奥深い説得力は、素晴らしいオープニング曲そのままに“Timeless”なものだと改めて実感させられる。スティーヴィー・チルドレンらしい麗しさも覗かせるボッサ風味の“You Just Don't Know”や、スタンダードを取り上げた“I Won't Cry Anymore”の紳士的な柔和さも絶品だ。 *出嶌

デジタルのみのEP『Intermission』を間に挿んで発表した、昨年作『Trigga』のリパッケージ盤。チャーリー・プース作の看板ヒット“Slow Motion”でのソフトに濡れたしなやかな歌い口は、凡百のアンビエント気分な歌モノとは一線を画する〈プリンス・オブ・R&B〉ならではのもの。それを含む新曲4つはいずれも同じトーンでスムースにまとめられていて、インティメイトな焦らしっぷりも憎らしい。予告済みの新作『Tremaine』は来年? *出嶌

ソロはもちろんブラックストリートやゴスペル・グループのユナイテッド・テナーズで、聖俗のソウルを厚みあるテナーと豊かなヴィブラートの響きで彩ってきた、シカゴが誇るR&Bスタイリスト。ウォーリン・キャンベルら名匠のバックアップを受けたこの6年ぶりのソロ作では、ブラックストリートばりのスロウ・ジャム“Spend The Night”や“Purple Rain”を思わせる殿下調スロウ“Afraid To Lose”などを真摯に歌ってみせた。 *池谷

メジャー・デビュー前からヴェテラン並みの風格と貫禄を漂わせていた彼女だが、引退騒動を経て発表したこの3作目での凄み溢れるヴォーカルは、もはや女帝の如し。今回もサラーム・レミの手厚いサポートを受け、キー・ウェインやDJダーヒーら気鋭が手掛けるアンビエント系やレトロ調などの楽曲を深々と歌っていく。アーバンな“Let It Burn”は引用ネタの歌い手であるアフター7のカムバックも促した? *林

コンシャスなムードやナスティーでお馬鹿なリリックも魅力的だが、マーヴィン・ゲイの影響が大きい多重コーラスや官能的なファルセットこそラヒーム・ディヴォーンの真骨頂。マーヴィンなりきり度が過去最高のこの5作目も、女性賛歌“Queen”や〈ジョデシィ、シャーデー、マーヴィン〉なんて歌詞も含む“Black Ice Cream”をはじめ、甘美なスロウ・ジャム群は先達たちの性愛路線を正しく継承している。 *池谷

TVリアリティ・ショウも追い風となっての2作目。一途なヴォーカルはさらに力強くスケールアップし、“Love 'Em All”をはじめ、バラードを中心に熱を込めて歌い上げていくアルバムは、〈これぞドラマティック・ソウル〉と呼びたくなる。ブルージーな曲はもちろん、カントリー調のポップな曲を歌ってもR&Bとしての濃度を失わないのは歌力のなせるワザ。〈ドレイクLOVE〉な女子の代弁者となる一般人目線も彼女らしい。 *林
【特集:R&Bの品格】
★Pt.2 ブラクストンズのコラムとディスクガイド(2)はこちら
★Pt.3 ベイビー・フェイスのコラムとディスクガイド(3)はこちら