ピアノは生き物である。100キロ近い張力の220本の鋼で出来たこの楽器は、綿々刻々と状況を変えていく。ホールの照明、客の有無、椅子の素材、そしてピアニストの技術…調律師は素材の良さを引き出す料理人に通じる。必ず濁る平均律で調和を求めるのは永遠の迷宮。他に24カ所の調整やフェルトハンマーの針刺しは音づくりそのもの。新人調律師、個性的な先輩調律師たち、初々しい高校生ピアニストのふたごを軸に、筆致は終始たおやかだが、些細な響きを拾い上げ、その深奥に切り込むところはさすが。最近話題の調律師コミック『ピアノのムシ』、ドキュメンタリー映画『ピアノマニア』もどうぞ!