音楽の記事が中心のMikikiですが、作家や写真家、映像作家、漫画家、演劇関係者など関わってもらう方は多種多様。そこで、音楽関係以外の表現者のみなさんが好きな音楽は?という興味からスタートさせたのが連載〈My Favorite Songs〉です。毎回、1人の選曲者が設定したテーマと、それにもとづく3曲以上の選曲を記事化。〈あの人がこの音楽を好きだったんだ〉という発見や、音楽とほかのカルチャーのクロスオーバーを楽しんでもらえたら幸いです。第10回は、短編集「深く暗い森のなかにあらわれては消える湖があった それはわたしの湖だった」を発表した小説家の若山香帆さんが登場。 *Mikiki編集部

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選曲によせて

あらわれては消える湖のための・遠くへ行くための5曲

 今年の八月に「深く暗い森のなかにあらわれては消える湖があった それはわたしの湖だった」という初めての短編集をリリースしました。昨年までに書いた短編を集めて改稿・加筆し、一部あたらしい書き下ろしを加えた六作を収録した名刺代わりの作品集です。水辺が舞台の作品が主で、流れる水、とどまる水、寄せては返しあふれる水にたいして、ときには遊び、飲みこまれ、ときには追いかけ、置いていかれ、ときにはただ見つめ、寄り添って暮らしている人たちのことが書かれています。

 わたしにとって文章を書くことは旅行に似ています。書くたびに変わる景色や出会う人、見える事物を拾いながらどこまで知らない場所に行けるだろうか、人や人でないものとの思いがけない邂逅を重ねるうちにいつのまにかずいぶん歩いてきてしまったというような。

 遠くへ行くことは魔法で、帰ってきたら全部変わっている。いつだってできるだけ遠くに行きたい、あなたも一緒ならもっとうれしい。書きながら聞いていたどこか遠くを眼差すための音楽。

 

Kali Malone “Glory Canon III (Live In Hagakyrka)”
(2019年作『The Sacrificial Code』収録曲)

KALI MALONE 『The Sacrificial Code』 IDEAL(2019)

星みたいな音がずっと鳴ってる。短編集通してのテーマみたいな曲。

 

ROTTENLAVA II “越中島集団卒倒事件”
(2022年作『ROTTENLAVA vs. ROTTENLAVA II』収録曲)

異界への入口が開く。表題作を書きながら聞いてたテクノデュオ。

 

Bobby Darin “Beyond The Sea”
(1960年)

BOBBY DARIN 『Mack The Knife』 Not Now Music(2010)

海の向こうの果ての彼方ではなんだって起こる。

 

ENDON “Born Again”
(2018年作『BOY MEETS GIRL』収録曲)

ENDON 『BOY MEETS GIRL』 BLACK SMOKER(2018)

轟音と閃光、なにもかも塗りつぶすノイズのやさしさに救われる。

 

Princess Nokia “Gemini”
(2020年作『Everything Is Beautiful』収録曲)

〈I am Gemini, super fly, fly guy〉〈I am Gemini, two heads, one eye〉って冒頭のくだりがマジでかっこよくてとても好き。どこまでも歩いていける気になる。

 


BOOK INFORMATION
若山香帆 短編集「深く暗い森のなかにあらわれては消える湖があった それはわたしの湖だった」

第二回新潟文学賞純文学部門佳作を受賞した「川のゆくえ」、第二回GOAT文学賞最終候補作「卵」他、表題作に書き下ろしを加えた連作掌編など六つの短編を収録した初めての作品集。

水道橋・機械書房、東中野・platform3にて取り扱い中

■オンラインストア
機械書房:https://payid.jp/item/114955359
platform3((TT) press):https://ttpress.base.shop/items/115773348

 


PROFILE: 若山香帆
東京都出身。2023年末から小説を書き始める。水辺と森と果物が好き。第二回GOAT文学賞最終候補、第二回新潟文学賞佳作受賞。
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