ジョージ・ハリスンが教えてくれたこと、残したもの
ザ・ビートルズのメンバー4人のうち3人(レノン、マッカートニー、ハリスン)は19世紀以降に母国アイルランドを離れ英国に移民として対岸の町(リヴァプール)にやってきてそこに定住した家系に生まれている。この対岸の町にも止まる事なく更に新天地を求め大西洋を渡って行った人々の子孫たちが現在のアメリカで一番の人口を誇るまでになったアイリッシュ系アメリカ人たち。そのアイリッシュ系アメリカ人たちが持ち込んだ母国の音楽文化はやがて他の地域からアメリカに移り住んだ異民族移民の音楽文化と混ざり合う事によりカントリーやリズム&ブルーズ、ロックンロールと呼ばれるアメリカ生まれの新たな大衆音楽文化へと進化(変化)を遂げて行く。ハリスンの遺して行った作品には、ザ・ビートルズ~ソロ時代を通してそのあたりの事(アイリッシュ音楽文化とアメリカ大衆音楽の深い絆)を感じさせるものが多く、更に彼の音楽の素晴らしさとは、それらがお互いを呼び合うようしていつしかハリスンという触媒を通して歓びに溢れた邂逅を果たしているように聞こえてしまう瞬間がある!という点にあると僕は思い続けて来た。あの名作『オール・シングス・マスト・パス』や、ハリスンのザ・ビートルズ以外の活動で人気が高いトラヴェリング・ウィルバリーズの人気の高さは、ハリスンの音楽が持つ本質の部分(異文化融和の夢や理想郷を追い求め、それを実現させたものが放つ歓喜の声のようなもの)が一番色濃く反映された作品であるからだろう。
VARIOUS ARTISTS George Fest: A Night To Celebrate The Music Of George Harrison Hot/Vagrant/ソニー(2016)
2014年にアメリカで開催されたコンサート記録である本作にも、そのあたりの事が彼の縁者(息子ダニー)と彼を慕う演者(ノラ・ジョーンズやブライアン・ウイルソンらのゲスト陣)にしっかり受け継がれている事の証のようなハートフルな歌声や演奏がずらりと並んでいる。よくあるショービズ感覚満載お祭り騒ぎトリビュート・コンサートからは味わえない胸の奥深くに染み込んで来るような歓びの感覚。主人公は不在でもそこにハリスンの存在と音楽の本質や魅力を発見する事は実に容易だ。レノンなどに比べ自らのアイデンティティやアイリッシュ的精神性を生前に強く語る事がなかった(少なかった?)ハリスンではあるが、これほど自然体で、異文化の融和により生まれるものの素晴らしさを音楽を通して伝えてくれた音楽家も稀であり、まさにそこにこそ彼のアイリッシュ魂を見てしまっても良いのではないか、と僕は強く思う。