満を持して、自主レーベル「grazioso」が始動!
ハーピスト吉野直子は、いま演奏家として最高に充実した状態を迎えている。最近リリースされた2枚の新譜を聴いて、それを確信した。
1枚は昨年末にAparteから出たロベルト・フォレス・ヴェセス指揮オーヴェルニュ室内管弦楽団との協奏曲集で、ロドリーゴ公認の《アランフェス協奏曲》ハープ版をはじめ、カステルヌオーヴォ=テデスコ、ドビュッシー、トゥリーナの作品を収録。指揮者とオケとの緊密な共同作業がうかがえる充実作で、この3月には彼らの本拠地クレルモン=フェランにも招かれて、定期演奏会で共演する予定だ。
「ロベルトはいい意味で上からものを言わない、みんなで一緒に音楽を作っていく人ですね。オケもとても志の高い人たちです」
そして満を持しての自主レーベルgraziosoから出た久々のリサイタル盤では、近現代のハーピスト兼作曲家たち――マルセル・トゥルニエ、アンリエット・ルニエ(彼女はその孫弟子にあたる)、マルセル・グランジャニー、デイヴィッド・ワトキンズに加え、ブラームスの《間奏曲イ長調op.118-2》などピアノ曲をハープで弾いたものも取り入れた。
「19世紀初頭にハープという楽器がダブル・アクションになって完成され、転調の可能性が増えたので、それ以降に楽曲も増えています。今後graziosoレーベルでは、いままで自分が弾いてきた曲を中心に、5年間で5枚作る計画です」
これを聴くと、ハープがいかにダイナミックな表現力を持ち、大きく歌い、劇的表現力さえ持つ豊かな楽器なのかということを、痛感させられた。ドビュッシー《月の光》のようなシンプルなピアノ曲でも、とても懐の深い演奏で、音楽そのものとして素晴らしい。この進境ぶりの秘密はいったい何だろうか?
「いろんな共演者に恵まれたことかもしれません。アーノンクールさんとモーツァルトの協奏曲をやらせていただいたときは、シングル・アクションのハープを使うことで教えられたことも多かったですし、今日生まれた音楽みたいに毎回の共演が新鮮でした。フルートのシュルツさんは家族ぐるみでのお付き合いで、心のとても大きい人で、音楽も大きかった」
その他にもアバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団にも5年間参加したり、生前の武満徹からの指名で新作初演も行うなど、20世紀を代表する大音楽家たちとこれほど出会いに恵まれてきた人もそうはいない。
「自由でいたい、枠の中にはまりたくない」という彼女、これからももっと出会いに恵まれ、さらに進化していくことだろう。