ラ・フォル・ジュルネでもおなじみ、スペイン出身の指揮者による逸品2作
トリュフォー映画に欠かせない役割を果たしていた作曲家ジョルジュ・ドルリュー(1925-92年)の未知の《トランペット小協奏曲》が聴ける――。それを知って興奮しないフランス映画好きはいないだろう。しかもカップリングには、カズオ・イシグロや三島由紀夫の影響を受けた注目のポーランド系フランスの作曲家カロル・ベッファの《トランペット協奏曲》も。この夏に出たディスクだが、試聴してみて、濃密で影の濃い、複雑なサスペンス小説のような音楽が並ぶハイセンスに驚いた。
これを人気のトランペット奏者ロマン・ルルーとともにAparteレーベルに録音したのが、ロベルト・フォレス・ヴェセス指揮のオーヴェルニュ室内管弦楽団。ラ・フォル・ジュルネの常連で、ヨーロッパ屈指の室内オケという評価もある。
「このオケでは“伴奏的”な演奏はありえません。ソリストが見せびらかすのではなく、同僚として一緒に作っていく音楽をやりたいのです。高いレヴェルの演奏のためにはリハーサルが伸びたとしても全然メンバーは気にしません。ユニオンはありますが音楽の方が大事なんです」
ヴェセスはスペイン・ヴァレンシアの出身で、イタリアとも縁が深い。トリノ王立歌劇場やボリショイ劇場などでオペラも指揮しており、オーヴェルニュ室内管でも年に2回オペラをやっている。中南欧を中心にレパートリーも広い。
「音とは死んだものではなく、いま生きているものです。そして音は基礎、足、ベースから作られていく。高い音はその上に足していくべきものです。音の基礎がしっかりしていれば、いい音ができると私は思います」
Aparteからは次の新譜として、吉野直子をソリストに立てたハープ協奏曲集がリリースされた。ロドリーゴ《アランフェス協奏曲》ハープ版、カステルヌオーヴォ=テデスコ《小協奏曲》、ドビュッシー《神聖な舞曲と世俗的舞曲》、トゥリーナ《主題と変奏》。うっとりと甘口の極美な逸品ばかりだ。
「ロドリーゴは、妻への愛の曲であるとともに、16世紀のフェリペ2世の王宮のイメージでもある。第2楽章は妻が赤ん坊を失ったときに書いたとも言われていますね。王宮、庭、鳥を感じさせる、親密な音楽です。ギターよりもハープの方がいい曲なくらいでしょう? カステルヌオーヴォ=テデスコは旋律のインスピレーションが豊かですね。第1楽章はプッチーニにも似ていると思う。トゥリーナは私の好きな作曲家で、室内楽も素晴らしい。色鮮やかで、明るくて、ファリャよりも管弦楽法を発達させたような感じです」