黄金期のジャズ・ファンクを代表する名ドラマー、ハーヴィー・メイソンが4月5日(火)、6日(水)にブルーノート東京、4月8日(金)、9日(土)に東京・丸の内コットンクラブで公演を行う。2013年の来日に続いて、ハービー・ハンコック『Head Hunters』(73年)に収録された名曲“Chameleon”に準えたカメレオン・バンドを率いての登場。前回はブレイク前夜のカマシ・ワシントンが参加していたが、今回はクラブ・ジャズの世界で一時代を築いたマーク・ド・クライヴロウ(キーボード)に加えて、キース・マックケリー(サックス、ewi)とマイルス・モズレー(ベー ス)の強力布陣を率いてステージに立つ。そこで今回は、共に来日するマーク・ド・クライヴロウに取材をオファー。LAシーンの陰のキーマンとなった名プロデューサー/DJに、今日的な視点からハーヴィーの魅力と公演を見どころを語ってもらった。 *Mikiki編集部
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ハービー・ハンコックの『Head Hunters』(73年)をはじめ、トップ・ドラマーとして数々の録音/ライヴを行い、また『Marching In The Street』(75年)を皮切りに自身のソロ作でも素晴らしいグルーヴを作り出し、ジャズ、ファンク、ソウル、フュージョン、そしてヒップホップやクラ ブ・ミュージックにまで多大な影響を与えてきた、最高のグルーヴ・マスターの一人、ハーヴィー・メイソン。現在もボブ・ジェイムズやリー・リトナーとのフォープレイとして活動を続ける一方で、2014年にリリースされたアルバム『Chameleon』では、カマシ・ワシントンやクリスチャン・スコット、 マシュー・スティーヴンスやクリス・バワーズ、クリス・ターナーなど注目の若手ジャズ・ミュージシャンを多数起用して、その嗅覚の鋭さを示している。
ハーヴィーがカマシたちを従えて来日した2013年の公演も記憶に新しいが、今度は同じく『Chameleon』に参加していたマーク・ド・クライヴロウを引き連れて来日を果たす。長らく西ロンドンのブロークンビーツと呼ばれたシーンで活動を続けてきたキーボード奏者/プロデューサーのマークは、数年前にLA へ移住。そこでミゲル・アトウッド・ファーガソンら多くのミュージシャンと出会い、出自であるジャズ・ピアニストとしての資質を刺激され、ミュージシャンやDJとダンサーたちが融和的に混じり合っていくパーティー〈Church〉をスタートさせた。その後、NYでも開催されるようになった〈Church〉 には、クリス・デイヴやクエストラヴ、あるいはDJスピナやガスランプ・キラー、さらにはハーヴィー・メイソンその人まで、実に多彩な面々が参加してきた。 そのパーティーの一つの成果と言えるのが、マークのアルバム『Church』(2014年)だった。
LAでハーヴィーと出会うべくして出会ったマークに、今回ハーヴィーについてのインタヴューを試みた。さまざま音楽シーンや世代をクロスオーヴァーさせてきたLAという土地で、マークはハーヴィー との演奏を通してどんなことを感じ、学んできたのか、そこを尋ねたかった。そして、彼らが現在のLAのシーンを活性化させている様子も改めて知りたかった。もちろん、今回の来日公演の良きガイドにもなるインタヴューである。

――なぜハーヴィーのバンドに参加することになったのか、その経緯から教えてください。
「ハーヴィーは、コンコードで新しいアルバム・プロジェクトに取り掛かっていたんだ。そのコンコードのA&Rであるクリス・ダンが僕の作品を気に入ってくれていて、僕のアイデアを彼のプロジェクトに取り込むことを、ハーヴィーに勧めてくれたのがきっかけだよ」
――ハーヴィーのバンドに参加するのはどんな気持ちでしたか?
「最高だよ! だって僕にとってのヒーローと一緒にプレイして、一緒にアイデアを生み出せたんだから。そして、共に音楽を探索し合うことができた。とっても感激しているよ」
――ハーヴィーと初めて一緒に演奏したときのことを教えてください。
「一番最初にプレイしたのは、LAにあるディズニー・ホールでのことだった。ビル・サマーズがパーカッション、カマシ・ワシントンがサックス、ジミー・ハスリップがベース、ジョン・ビーズリーと僕がキーボードだった。夢のようなギグだったね、LAのなかでも僕にとって一番意味のあるハコで、僕の大好きなビル・サマーズとも共演できたんだから!」
――あなたにとって、ハーヴィーと彼のドラムはどういう存在でしたか?
「ハーヴィーは、ジャズとファンクを一緒に発展させた人なんだ。彼 の感覚とフレーズの魅せ方はとてもユニークだよ。例えば、マイゼル・ブラザーズのプロジェクトからヘッドハンターズ、CTIレーベルの作品に至るまでね。しかも、70年代のジャズ・ドラムのコンセプトだけにフォーカスせず、90年代のヒップホップも柔軟に採り入れているしね! ハーヴィーのドラムには、いまやクラシックにまでなったグルーヴが感じられるし、それを無数のヒップホップ・プロデューサーたちがサンプリングしてきたんだ。もちろん、彼のドラムは 僕のプログラミングにも影響を与えている。だからいま、一周回って一緒にプレイできるなんて本当にわくわくするよ」
――ハーヴィーの活動を振り返って、彼のアルバム、または参加したアルバムで特にお気に入りのものを教えてください。
「ハービー・ハンコックの『Head Hunters』が一番だな。このアルバムは色褪せないし、影響力も大きく、かつクラシックと言える作品だ。ハンコックやベニー・モウピンが素晴らしいのはもちろん、ハーヴィー、ポール・ジャクソンとビル・サマーズから成るリズム・セクションの絡みは、これまで一度も聴いたことがないものだった。スペシャルなトラックは他にもたくさんあるよ。ハンコックの『Mr.Hands』(80年)というアルバムに入っている“4AM”、マイゼル・ブラザーズの“N R Time”もそうだし、ハーヴィーのダンスフロア・クラシック“Grooving’ You”もDJで回すのが大好きな曲だ。『Marching In The Street』も素晴らしいレコードだね。これはハーヴィーの世界観のすべてを捉えていると思うよ」
――ハーヴィーはあなたも属しているLAの音楽シーンに、どんな影響を与えてきたのでしょう?
「いや、ハーヴィーは全世界のシーンに影響を与えているんじゃないかな。彼の影響力は国境を越えるね。だから僕らにとっては、ハーヴィーのような人がLAにいるだけでとてもラッキーなんだ。彼はみんなの恩師であり、インスピレーション源だよ。それに彼は、次の世代のミュージシャンを常にチェックしている。それも素晴らしいことだね」
――前回の来日公演では、『The Epic』をリリースする前のカマシ・ワシントンを連れていましたし、若いミュージシャンを積極的にフックアップしているようですね。
「そうそう、『Chameleon』というアルバムはまさにそんな一枚だね。若い世代のミュージシャンが生み出すエネルギーやヴァイブを採り入れている。ハーヴィーにとっても、(彼らと一緒にプレイするのは)胸が高まる瞬間だと思うよ。いつも次に何が来るのか、アンテナを張っているからさ」

――2014年にあなたが来日した際に長いインタヴューをさせてもらいましたが(「Jazz The New Chapter 2」に掲載)、ロンドンからLAに移って、ふたたびピアノをプレイするようになったと話していたのが印象に残ってます。
「僕はピアノを習いながら育ったんだけど、ロンドンに住んでいた10年間は弾くことを止めていたんだ。その間はイギリスの西ロンドンで、ブロークンビーツのシーン と共に過ごしたんだ。リミックス、ダンス・パーティーでのプレイ、スタジオでのセッション……とても有意義な時間だった。そしてLAに移って、ジャズのルーツと僕がロンドンで培った経験をミックスさせるのは、2つの物語を一つにするいいチャンスだった。LAという土地は、僕とピアノをふたたび結び付ける役目を果たしてくれたよ」
――LAにはハーヴィーのようなヴェテランと、若いミュージシャンを結び付ける文化があると思います。またDJやビートメイカーと、演奏者の結びつきも密接です。他の都市や国と比べて、特にどんなことを感じますか?
「LAには確実に〈サムシング〉があると思うよ。世代もバラバラで、属しているシーンやジャンルも異なる人たちが、お互いのショウへ足を運び合ったり、音楽をシェアしたり、一緒にコラボしたりとか。大きい都市ではよく見受けられることかもしれないけど、僕が知る限りでもLAではそこら中で起こっているんだ。わかりやすい例を一つ挙げると、ハービー(・ハンコック)がテラス・マーティンやサンダーキャットと一緒にスタジオに入ったりとかね」
――あなたが主催するパーティー〈Church〉に、ハーヴィーが2014年に出演したときはどんな感じでしたか?
「ハーヴィーを〈Church〉に招待できたのはとても光栄だったよ。彼はパーティーのコンセプトにもオープンだったし、楽しんでくれたみたいだ。特にハコのなかでダンサーたちが飛び跳ねながら踊って、カポエラ・プレイヤーとブレイク・ダンサーが円になってダンスの掛け合いをしているときなんて、とてつもないエナジーがあったね」
――いまLAであなたが注目するアーティスト、ミュージシャンは誰でしょう?
「僕がいまハマってるのは、J・デイヴィ(J*Davey)のプロデューサーのブルック・ドリュー(Brook D’Leau)、ロウ・リーフ、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、ラス・G。NYならマーカス・ストリックランドに、ニュージーランドのマイエレ・マンザンザもね。あとはもちろん、僕の友人で協力者でもあるジオロジー(Ge-Ology)だね」
――今後の予定や、いま進めているプロジェクトについて教えてください。
「ちょうどいま〈Blue Note Remixed〉のプロジェクトを終えようとしているところなんだ。ブルー・ノートのカタログからサンプリングしたり、ライヴ・リミックスや、何人かヴォイス・ゲストを招いたりしているよ。それに、恐らくライヴ・レコーディングになるであろう次のアルバム・プロジェクトにも取り掛かっている。ちょうどこの前、LAであった2公演を録音し終えたところだよ。この音源を聴くのが楽しみでしょうがないね」
――最後に、今回のハーヴィーのステージの見どころを教えてください。
「きっと新しい、フレッシュなものになると思うよ。ここ何十年かを遡った、論理的な進行部分と新しいものへ向かっている部分を同時に観ることができる。テクノロジーを駆使しながら、ハーヴィーと一緒にプレイするのが本当に楽しみだ。ライヴ・ルーピングやサンプリング、バンド・メンバーの音を操作したりね。キース・マックケリーとマイルス・モズレーもたくさんの音とテクスチャーを奏でるだろうし、ハーヴィーの独創的なアイデアも莫大なエネルギーをバンドにもたらすはずだよ。毎回、僕たち自身も彼のプレイを聴くのが楽しみなのさ!」
ハーヴィー・メイソン “カメレオン”
featuring マーク・ド・クライヴ・ロウ、キース・マックケリー&マイルス・モズレー
【ブルーノート東京公演】
日時:2016年4月5日(火)、6日(水)
開場/開演:
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/8,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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【コットンクラブ公演】
日時:2016年4月8日(金)、9日(土)
開場/開演:
〈4月8日(金)〉
・1stショウ:17:00/18:30
・2ndショウ:20:00/21:00
〈4月9日(土)〉
・1stショウ:16:00/17:00
・2ndショウ:18:30/20:00
料金:自由席/8,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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ハーヴィー・メイソン
ドラム・クリニック&ミート・アンド・グリート
日時:2016年4月4日(月)
・DOOR OPEN: 7:00pm
・BUFFETT TIME: 7:00pm-
・TALK & DRUM CLINIC: 8:30pm - 9:30pm
・CLOSE: 10:00pm
会場:東京・神田cafe104.5
料金:4,500円(ミニブッフェ&2ドリンク付)
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