音楽がもたらす無限の広がりを感じさせる傑作!
アルゼンチン人のペドロ・アズナールやカメルーン出身のリチャード・ボナをはじめ、パット・メセニーは過去意外性のある逸材を自己グループに入れてきた。そして、ヴェトナム生まれ/米国シアトル育ちのトランペッターであるクォン・ヴーもまた、メセニーの趣味の良い広がりを認知する上で欠かせない人物と言えるだろう。ヴーはメセニー・グループの『スピーキング・オブ・ナウ』(2002年)と『ザ・ウェイ・アップ』(2005年)で“淡い狂気”の主張を淡々と遂行。この後、両者は表立って交わることはなかったはずだが、なんとその10年後にこんな再邂逅盤を作ってしまうのだから、音楽家の心地って本当におもしろい。
メセニーが契約する、ノンサッチからのリリース。ベースの武石務、ドラムのテッド・プアという、クォン・ヴーがずっと組んでいるトリオにメセニーが入るという内容を持つ。楽曲は、クォン・ヴー作が5曲、メセニー作が1曲、ヴーと親しいアヴァン系リード奏者であるアンドリュー・ディアンジェロ作が1曲という内訳。誰の曲だろうと、強い衝動に貫かれた越境の精神と詩情ある響きが幾重にも交錯しあうような演奏が並んでいるのは間違いない。メセニーも雄弁にギターを咆哮させ、その様は彼のヴーに対する親愛を知らしめるか。そして、その総体は見事に静謐な現代冒険ジャズとして結実する。いや。コレって、かなりの傑作じゃない? こんなにいい感じでソロを取るメセニー参加作もそうはないんじゃない?
ところで、クォン・ヴーというと思い出されるのは、彼が2005年にイントキシケイト・レコードから発表した『残像』というアルバムだ。実はそれ、本作と同じ顔ぶれのトリオにビル・フリゼールが入ったものだった。別な言い方をすれば、『残像』のフリゼールをメセニーに置き換えたのが本作と言うことも可能か。その2つを聴き比べると、音楽の広がり方って本当に無限であることを思い知らされるはず。