インタビュー

モダン・レコーディングス(Modern Recordings)、パット・メセニーからヴァン・ダイク・パークスまで扱う新鋭レーベルのヴィジョンとは?

主宰者クリスチャン・ケラーズマンが語る

Christian Kellersmann
2019年12月に設立のBMG傘下のレーベルModern Recordingsは、クラシック、ジャズ、エレクトロニック・ミュージックなどを扱うレーベルとして誕生した。主宰するのは、過去にDeutsche GrammophoneレーベルのRecomposed Seriesに携わるなど、ジャズとクラシックの世界の名プロデューサーとして著名なクリスチャン・ケラーズマンだ。パット・メセニー、ロバート・エイムス、クレイグ・アームストロング、ヴァン・ダイク・パークスなどジャンルも国籍も違う一流のアーティストの作品を手がける、音楽の未来に向けた彼のヴィジョンを伺った。

 

――パット・メセニーの新譜は、サプライズのあるアルバムでした。なぜなら作曲家としての彼がフォーカスされているからです。ジェイソン・ヴィオーとロサンゼルス・ギター・カルテットが演奏家としてクレジットされていて、メセニーはほとんど弾いてません。

 「このアルバムを演奏者も作曲家もわからないままブラインドテストさせても、リスナーはこれがメセニーの音楽だとすぐ気づくのではないでしょうか。ファンがこの作品を聴いたらどう反応するかとてもエキサイティングです。彼のファンはギター・ファンであり、彼の演奏に深く親しんでいるから、作曲家としてのメセニーを受けいれられるか、それが大きな関心事でしたが世界中のファンから高い評価を頂きました。ジャンルとしては、クラシック音楽、ジャズ、ボサノヴァや、フラメンコなど多くの要素が含まれており、まさにメセニーの音楽なんです。これらの要素が有機的に強く組み合わされている、それがこのアルバムの特徴なのですね。そして契約時に彼は新たなインスピレーションを探していたのだろうと思いますが幸運にも私たちとパットの相性はよく合いましたね。彼の次のプロジェクトがどのようになるかはわからないけれど、それこそがまさに才能があって重要なアーティストであることを強く示していると思います」

――ロバート・エイムスについてですが、指揮者としての彼は、フランク・オーシャンやジョニー・グリーンウッドらとも共演していますし、一般には難解と言われる現代音楽も深く理解しています。

 「クラシック音楽は保守的なジャンルになりがちですが、彼はとてもモダンで将来を嘱望されているアーティストの代表的存在です。クラシック・シーンは、かつて考えられなかった新しい要素をクラシックへと繋げた存在として多くの恩恵を受けることでしょう。現在は一つのジャンルに限定されることなく、幅広い音楽に触れるのが自然な時代で、ロバートがマックス・リヒターやフランク・オーシャン、ジョニー・グリーンウッドなどと共演し異なるジャンルに対して理解があることはとても重要なのです。

 私は学生の時、ドイツ滞在時のリゲティが教鞭をとったハンブルグ大学でのセミナーに参加したことがあるのですが、彼の作曲作品はリゲティの作風に似ているところがあります。クラシック音楽にアンビエントや電子音楽の要素が入っていますが、ジャンル分けは困難です。いわゆるネオクラシカル的な音楽にはない、作曲家としての深い芸術性があるものになったかと思います」

――ヴァン・ダイク・パークスの作品がベルリンのレーベルから出ることに驚きました。

 「4つのトラックが入った10インチレコードの形で出ます。私はヴァン・ダイク・パークスにも何年にもわたって深く影響を受けました。彼は2、3回ベルリンに来たことがあり、いつも連絡を取り合っていました。彼は歌手のヴェロニカ・ヴァレリオと何かできないかと言ってきました。ロックダウンされているこの御時世なので、簡単なプロジェクトではなかったと思います。メキシコとLAでそれぞれレコーディングが行われ、素晴らしい出来になりました。彼はもう80歳近いのですが、アメリカの伝統はもちろんのこと、メキシコの伝統も取り入れています。また、アートワークを手がけているのはクラウス・フォアマンで、ドイツでは音楽家であり画家でもある伝説的存在なので言わばドリーム・プロジェクトなのです」(注:フォアマンはビートルズ『リボルバー』、ジョン・レノンの『ジョンの魂』のデザインでも知られる)

――クレイグ・アームストロングの次作品はどのようなものになるのでしょう?

 「タイトルは『Nocturne For Two Pianos』となります。9月初頭にリリース予定です。良い作品が多くて、4、5枚のシングルを出すことになりました。彼も音楽的なレジェンドの1人であり、彼がマッシヴ・アタックと仕事していた時からフォローしてました。70年代のキース・ジャレットたちのように、2004年の『Piano Works』でソロ・ピアノ音楽を更新した存在と言えます。そしてあらゆるジャンルにとてもオープンな人なのです。ロックダウン期の作品となる今作は、自宅でレコーディングしたものです。2台のピアノを使用するので、もう1人ピアニストに演奏させようと思ったのですが、彼自身の演奏が良すぎるので彼のみが演奏する作品になりました」

――クリスチャン・ヤルヴィの魅力とはなんでしょう?

 「クリスチャンは現在最も興味深い指揮者の一人です。一度ベルリン・フィルハーモニーで彼の指揮による休憩なしで1時間半強続く演奏会を聴きました。それもプログラムや譜面なしという条件の中で、音楽の多数の様式が交わり合うものだったのです。観客は緊張感を持って集中して鑑賞し、演奏家も没頭していました。それはクラシック音楽を見せるときの新しい基準のように思えましたね」

――メレディについても教えてください。

 「メレディはアルメニアのルーツを持ち、ベルリンで作曲、ミュンヘンで映画音楽を勉強しました。私は前衛音楽に反対しているわけではないのですが、現在クラシック音楽は感情的な側面が必要とされている気がします。それは前衛にはないもので、彼女はそれをよく心得ていて、クラシックで養った知識と、パーソナルでアーティスティックな側面を生かし、クラシック音楽を更新することができる力の持ち主なのです。またアルメニア出身というのも彼女のバックグラウンドとして重要なのです」

――パンデミックの影響は今も深刻なのでしょうか?

 「毎日のように変化します。コンサートやショーの計画は不可能で、夏まで待たざるを得ません。家でのリスニングは少し増えたけれども、ライヴはとても困難な時期です。2週間前にベルリン・フィルハーモニーで1000人の観客の前で公演が行われました。結果はまだ出ていませんが気になるところです」

――拠点であるベルリンの魅力とは何でしょう?

 「ここ20年で劇的に変わりました。世界中からアーティストが集まり、高めあう。そんな国際的なシーンがある特別なところなのです。私はリオデジャネイロに一年いて、ブラジル音楽を中心にたくさんの音楽を吸収したことがあります。なのでリオの良さも存じていますが、それでもベルリンが特別な場所であることに変わりはないですね。坂本龍一とも近いアルヴァ・ノトがいますしね。また、物価もそれほど高くなく、大きな都市です」

――日本の音楽ファンに一言お願いします。

 「非常に詳しい音楽ファンが多く尊敬しています。日本盤にしか見当たらないCDやLPをたくさん持っています。来日時はレコード店でのレコード探しに没頭してます。また、YMOのファースト・アルバムはオールタイムベスト5に入るほど、私に影響を与えましたね」

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