ハイチ生まれカナダ育ちの新鋭プロデューサー、ケイトラナダが先日発表したファースト・アルバム『99.9%』が素晴らしい(日本盤は6月10日リリース)。ヒップホップやジャズ、ハウスにディスコ……と横断していくその手腕に、アルーナジョージリトル・ドラゴンバッドバッドノットグッドクレイグ・デイヴィッド(!)まで集結した豪華ゲスト陣。多彩なビートと戯れながらも作品自体は統一感があり、これからの季節に似合うメロウな音像がすこぶるキャッチーだ。

KAYTRANADA 99.9% XL/HOSTESS(2016)

そんな奇才の魅力を伝える『99.9%』収録曲のミュージック・ビデオが2本公開されているので紹介しよう。まずは“Lite Spots”。このMVでは、ケイトラナダ青年がみずから制作したロボットに、B-BOYダンスを教え込むことで生まれた友情ストーリーが描かれている。ガル・コスタの歌声を早回しした軽快なトラックに乗せて、喜怒哀楽を浮かべながら踊り弾ける光景は思わずほっこりしてしまう。

もう一つは“Glowed Up”。こちらは一転、J・ディラ以降の流れを汲んだ不穏なナンバーで、最新作『Malibu』も話題のアンダーソン・パックを起用している(紹介記事はこちら)。ベースの重低音や引きつったビートが響く前半と、内省的でメロディアスな後半の2部構成から成るナンバーを、パックは表情や声色を使い分けながら鮮やかに乗りこなす。パーティーの雰囲気に馴染めず、ぼんやり天井を眺めるケイトラナダの寂しげな表情が胸に迫るMVも印象的だ。

片やアンダーソン・パック『Malibu』収録曲の“Lite Weight”にケイトラナダが制作に関与するなど、アルバム・デビュー前後で築き上げたプロデュース/リミックスのキャリアも見逃せない。『99.9%』にはいまをときめくジ・インターネットシド・ザ・キッドも参加しているのだが、彼らの2015年作『Ego Death』のリード・トラック“Girl”をプロデュースしたのも他ならぬケイトラナダである。モブ・ディープタリブ・クウェリなど大御所ラッパーにも携わりつつ、それと同時期にディスクロージャーやアルーナジョージのリミックスを手掛けるなどUKのシーンとも交流を持つ。

ここまで挙げた楽曲だけでも同じ人間が作ったとは信じ難い仕上がりだが、彼のポテンシャルはそんなものではない。『99.9%』収録曲の“Bus Ride”で、リヴァー・タイバーと共にフィーチャーされているのはカリーム・リギンス。もちろん彼がドラムを叩いているわけだが、このよれたリズムは思い切りロバート・グラスパー以降の現代ジャズど真ん中だろう。その一方で、昨年にはマドンナのツアーでオープニングDJを務めるなどメインストリームからの注目も急上昇中。ここまで自由自在にジャンルやシーンを越境できる感性はどこから授かったのだろう。何はともあれ、いいヤツそうなので応援するしかない!