MARY J. BLIGE
女王の風格が漂う感謝のニュー・アルバム

 よく考えれば90年代R&B屈指の傑作『My Life』(94年)から30年という節目を迎えていたメアリーJ・ブライジ。そうでなくても〈クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル〉の振る舞いは現在も女王の血肉に宿るわけで、前作『Good Morning Gorgeous』(2022年)から2年ぶりに登場したニュー・アルバム『Gratitude』もまた改めてその時代の雰囲気を呼び起こすものだ。なお、そのリリースに先駆けてファボラスを迎えたS・ドット製のシングル“Breathing”は全米アダルトR&Bのチャート首位を獲得してもいる。

MARY J. BLIGE 『Gratitude』 Mary Jane/300/Elektra(2024)

 アルバム冒頭に置かれたその“Breathing”からしてノトーリアスBIG“Kick In The Door”をネタ使いした直球のヒップホップ・ソウルだし、それに続いてジェイダキスを迎えたダークチャイルド勢の“Need You More”も同趣向でアン・ヴォーグ“Hold On”を用いて往時のノリを放っている。他にはケイトラナダやDマイル × DJキャシディら腕利きたちを制作陣に迎え、ジーン・カーン“My Love Don’t Come Easy”を華々しく用いた“Never Give Up On Me”のような大ネタ曲はもちろん、穏やかなグルーヴにゆったり揺らぐ余裕の歌唱ぶりからも女王らしいヒップホップ・ソウル感覚は強烈に感じられるはずだ。スロウやミディアムを固めた中盤以降では円熟した抑え気味のヴォーカルで女王の女王たる所以を改めて示す。

 ストレートに〈感謝〉を伝える表題からも推察できるように今回が彼女にとって最後のアルバムになる可能性もあるという。R&Bという大枠の含むものが多様化する時代だからこそ、その根本的な魅力を核に備え持った存在にはまだまだ作品を出していってほしいものだ。