3月26日、メジャーでの初アルバムとなる『I’m happy, walking down “jalan”.』が、キングレコードから発売された田中裕一。ジャズ・ギタリスト、コンポーザーとして活躍する新進気鋭のアーティストである彼は、物腰柔らかな、シャイな雰囲気を醸し出す好青年だ。
「ギターを始めたのは中学生のころ。奥田民生さんがテレビで《息子》を弾き語りしている姿を見て、うわーカッコいい!って衝撃を受けたのがきっかけ(笑)。そう、ビジュアルから入ったんですよ。動機が相当不純でしょ?(笑) その後大学に入ったとき、公認の音楽サークルがジャズ研と合唱部しかなくて、消去法的にジャズ研に入ったんです。ジャズに出会ったのはそこが初めて。それまではほとんど聴いたことがなかったんです。在学中に紹介されて習い始めたギターの先生がたまたまジャズ・ギタリストだったり…そんな風にだんだんと導かれるようにしてジャズに流れていったんです」
デビュー・アルバム『I’m happy,walking down “jalan”.』には“おとなのひるのおんがく”というキャッチコピーがつけられている。
「ジャズといえば“都会の夜、お酒を飲みながら楽しむ音楽”みたいなイメージがあると思うんですが、当時の自分ではなんとなく実感がわかなくて…。窓から燦々と太陽の光が差し込む中、ジャズを習ったり練習したりしていたので、昼間の景色のほうがしっくりくるんです。ジャズという音楽に対峙した最初の刷り込みがそうだったので、じゃあ僕はジャズで“おとなのひるのおんがく”を作りたいな、と」
その言葉の通り、確かにどの曲も一般的に考えられているジャズとはひと味違った印象を受ける。このアルバムを聴くと、青空を眺めているときのような、ゆったりとした気持ちになり、聴き終わったあとには日溜まりのような温かい感覚が体に残るのだ。
「ビル・フリゼールというギタリストが参加しているポール・モチアンのアルバムを聴いたとき、これもジャズなんだ、こんな形式にとらわれないジャズがあってもいいんだ!って思ったんです。そういう経験が新しい“おとなのひるのおんがく”のジャズを作る発想につながっていったんだと思います。今回のアルバムはその集大成になったかな?」
タイトルにもある“jalan”とは道、プロセスなどの意味を持つインドネシア語で、2回続けてjalan jalanというと“散歩する”という意味になるそうだ。このアルバムにピッタリな言葉であることを、聴いた人はみな感じるだろう。