2016大和田夏祭り 坂田明「平家物語」
渋谷で蘇る平家物語

 CD盤『平家物語』は坂田明の、多重録音も含む完全ソロ作品。DVD盤『平家物語』は演奏がクインテットになり、さらにライヴ・ペインティングを加えた彩り豊かな作品となった。8月に渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホールで行なわれる予定の『平家物語』はDVD盤と全く同じメンバーでの公演となる。

坂田明 平家物語 doubtmusic(2011)

坂田明 平家物語 実況録音 映像篇 doubtmusic(2013)

 さてこの坂田明『平家物語』の観どころ・聴きどころはどの辺にあるかという話である。読者の皆様にそれを強要するようなことはしたくないし、この文章を読むことによって観客の動員が減少する事態も避けたいものである。難しい問題である。

 そもそもCD盤『平家物語』の録音はdoubtmusicには珍しい多重録音となっている。坂田明の頭の中には『平家物語・坂田明ヴァージョン』の完成形がすでに存在していた。そしてそれを実現するにはアイデアがあり過ぎてソロの一発録りではその完成形に至らず、オーバーダブを重ねたのである。また、最初期の録音はヴォーカル・ブースで朗読を終えた後に、坂田がピアノまで歩いて行き(その足音も特殊マイクできっちり録音)、ドシャグシャポロリンと感覚に任せたピアノを弾くという録音も存在する。これはボツテイクになったが、坂田の頭の中にはヴォイスとサックスの音のみならず様々な「平家物語」が鳴っており、しかし一人で同時に出来ることはせいぜい二つか三つ。しかも本業のサックスを吹きながら語ることは不可能。というわけでオーバーダブという手法が致し方なく採られたが、頭の中で鳴っていたものが現実化~完成形に至ったのは翌年のDVD版である、とは言える。ソロ版『平家物語』(CD)の強度も凄まじいものがあるが、クインテットの演奏の強度もそれに勝るとも劣らない、わけのわからないものである。

 田中悠美子(義太夫三味線、ヴォイス)と福原千鶴(小鼓、ヴォイス)による日本の伝統楽器の音色がある郷愁をもって響いた次の瞬間には、坂田のサックス、ジムのエレクトリック・ギター、そして達久のドラムの音色が心を揺り戻す。揺れ動かないのは坂田の語りと絶叫とデス・ヴォイス。

 実はこの『平家物語』CD/DVD化する話が決まるまで私は『平家物語』を読んだことがなかった。決まってから(現代語訳で)読んだのだが、坂田明によってセレクトされた章の内容も興味深かった。公演で演奏されるのを聴けばお分かりになると思うが、それはここではあまり掘り下げては語るまい。公演に足を運んでいただき、その辺のことも注意して聴かれることをオススメします。

2013年のパフォーマンス映像
 

LIVE INFORMATION
2016大和田夏祭り Live Performance SHIBUYA
坂田明「平家物語」

○8/2(火)19:00開演 
会場:渋谷区文化総合センター大和田(6F)伝承ホール
出演:坂田明(a-sax,ほか)、ジム・オルーク(g)、田中悠美子(義太夫三味線、語り)、福原千鶴(小鼓)、山本達久(ds)、中山晃子(ライヴ・ペインティング)
監修:高平哲郎
www.shibu-cul.jp