ダーティ・プロジェクターズやジュリアナ・バーウィックなど、USインディー・シーンの人気アーティストを数多く輩出してきたデッド・オーシャンズ。そこに新たに加わったのが、NY在住のミツキ・ミヤワキによるソロ・ユニット、ミツキだ。音大在学中にファースト・アルバム『Lush』を発表した彼女は、これまで3枚の作品をリリースしてきた。そんななか、レーベル移籍第1弾となる新作『Puberty 2』は、初めて本格的なスタジオでレコーディングされたものである。

MITSKI 『Puberty 2』 Dead Oceans/HOSTESS(2016)

 「これまでは台所や寝室にマイクをセットしたり、通っていた大学のスタジオや教室を借りて、時間がある時に少しずつレコーディングしてきました。ちゃんとスタジオを借りて、決められた期間で作ったのはこのアルバムが初めて。〈さあ、時間がないから要領よく録音しよう!〉と集中して作業しましたね」。

 レコーディング期間は、2015年の年明け早々の2週間。「それまでの1年間はツアーに出っぱなしで、その後も1年くらいツアーをすることになっていて。アルバムを作るなら、みんなが新年を祝っているこの時期しかない!」と考え、スタジオに入ったらしい。ツアーの勢いや限られた時間での緊迫感が、作品に張り詰めた空気をもたらしている。

 「アルバムの全体像を思い描くよりは、各曲にとって何が必要かを優先する派」と彼女は言うが、ノイジーなギターやサックス、打ち込みのビートなどを効果的に使った、オルタナティヴな感性の光る生々しいサウンドが全編で鳴り響き、アルバムは不穏なムードに包まれている。また、「70年代の日本のポップスが好き」と語るだけあって、日本的な情緒を感じさせるメロディーも魅力的だ。そうしたミツキ・サウンドを作るうえで重要な人物が、大学時代に知り合い、過去の全タイトルにも関わってきたパトリック・ハイランド。すべての楽器を彼とミツキの2人で演奏している。

 「楽器の演奏だけではなく、ミキシング、マスタリング、ジャケットのデザインまで、私たち2人以外の誰にもタッチさせませんでした。最近、ビジネスやツアーの関係で周りに人が多くなっていたから、〈音楽だけは誰にも触れられたくない〉という気持ちがあったのかもしれませんね。パトリックは実力があるだけでなく、私のことを良くわかってくれているし、だからずっと一緒にアルバムを作り続けられたんだと思います。音楽を作る時はまず私が身をさらし、不完全なものを何度も表に出してから、ようやく必要なものを見つけ出し、意味のあるものにしていく……というプロセスを踏むのですが、その過程を誰にでも見せられるほど私は人を信用していません。信頼関係は重要で、同時に私ひとりの空間を保つこともとても大事。彼はそんな私を好きにさせてくれるんです」。

 パトリックという信頼できるパートナーの全面サポートを得て、自分のすべてをさらけ出し、作り上げた『Puberty 2』。その真ん中にあるのは獰猛さと繊細さを併せ持った歌声だ。ビョークや椎名林檎をフェイヴァリット・シンガーに挙げる彼女に、ヴォーカル面で心掛けたことを訊ねてみると、こんな答えが返ってきた。

 「自分はいま何を言っているのか、いったい何を表現しているのか、それをはっきりと理解して、そのことだけに集中して歌うようにしました。ただ綺麗な声を出すだけというのはしたくないから」。

 自分の音楽を自分でコントロールし、綺麗事よりもリアルな感情を大切にする。そんなミツキはFacebookで〈生き急ぎ上等!〉と日本語で啖呵を切っているのだが、彼女にとってロックは世界と闘う唯一の武器なのかもしれない。

 


ミツキ
日本人とアメリカ人の血を引くNY在住のシンガー・ソングライター。父親の仕事の関係でコンゴやマレーシア、中国、トルコなどを行き来しながら幼少期を過ごす。その後、パーチェス大学に進学し、19歳の時に作曲活動をスタート。Bandcampで音源を発表しながら、2012年にファースト・アルバム『Lush』を、2013年には2作目『Retired From Sad, New Career In Business』を自主でリリースする。卒業後の2014年にダブル・ダブル・ワミーから3作目『Bury Me At Makeout Creek』を発表。同作がNMEやPitchforkなどで賞賛され、知名度を上げる。このたびデッド・オーシャンズに移籍して、ニュー・アルバム『Puberty 2』(Dead Oceans/HOSTESS)をリリースしたばかり。