独自の輝きを発するアユニ・Dのバンド・プロジェクトが4つの世界観で綴った衝動的な感情――心を覆う憂鬱も感傷も生きづらさもPEDROの音楽は肯定する!

衝動人間に憧れて

 「『THUMB SUCKER』は初めてちゃんと自分のやりたいことを口に出して出来上がったもので、今回のEPはそれよりもいろいろ考えて作れたんじゃないかなって思います。怒涛の夏を越えて、多少は落ち着いていろいろ冷静に考えられる時期に、自分の表したいものを前より的確にというか、追い詰められずに形にできたんじゃないかなと思いますね」。

 BiSHの活動と並行して始まったアユニ・D(ヴォーカル/ベース)のソロ・プロジェクトながら、いまやその域に止まらない彼女の表現場として独自性を強くしているPEDRO。フル・アルバム『THUMB SUCKER』のリリースと初のツアー〈DOG IN CLASSROOM TOUR〉やフェス出演などが続いた〈怒涛の夏〉を経て、新たな季節を迎えたアユニはより自覚的に変化を遂げている。アインシュタイン稲田の加入~脱退というエイプリルフールの企みも挿みつつ、このたび完成した初のEP『衝動人間倶楽部』は、引き続き田渕ひさ子(toddle/NUMBER GIRL他:ギター)、毛利匠太(ドラムス)をサポートに迎え、収録の4曲それぞれが魅力を放つ意欲作となった。

PEDRO 衝動人間倶楽部 ユニバーサル(2020)

 制作のスタートは昨年の暮れ。本人は「追い詰められず形にできた」とは言うものの、BiSHのホール・ツアーと重なる多忙な時期に作業を進めていたことになる。

 「余裕はないですよ、いつだって(笑)。余裕はないですけど、前回はフル・アルバムで一気に13曲もあったんで、それよりは短いスパンで淡々とやりましたね。今回はEPなので4曲で4つ別々の顔を見せられたらいいなと思ってて、いただいたデモからまったく違う世界観の曲を選んでいきました。世の人々はどういう歌詞が好きなのか考えたり、ライヴで演奏してる姿を想定しながら作ったところもありますね」。

 全体のバランスを考えながらリスナーからの反響やライヴの反応をフィードバックするのと同時に、受け手を意識してより大きく変化したのは、作詞のアプローチだ。

 「今回はまず書き方を変えたいっていう思いが強くて。いままで私が書いた歌詞って〈ホント自分にしかわかんないな〉っていうもので、PEDROの前作とかBiSHで作詞した曲を聴いてて、〈コイツは何を言ってるんだ?〉って感じたんですよ。ひねくれた言い回ししかできない、そんな自分が嫌になって。もともとは歌詞も音として入ってくるような曲が好きだったんですけど、いろんなバンドを聴くようになって、やっぱり言葉として意味が入ってくるものにいちばん感情が動くんだなって。別に独特な言い回しとかワードをあえて入れなくても、わかりやすい言葉でこんなに感情を動かされるんだって気付いて、今回は変な言い回しをしないように、ストレートに思ったことを書けるように意識して書きました」。

 具体的な影響源を訊ねると、コンテンポラリーな生活や石風呂の頃から好きだというネクライトーキーの朝日や、PEDROでツーマン経験もある2の古舘佑太郎、そして向井秀徳(NUMBER GIRL)らの名が挙がってきた。

 「朝日さんや古館さんは、自分の中にあるけど言い表せない感情とか自分の中で動いている何かを言葉にしてて、〈わっ、自分の気持ちはこういうことか〉みたいに感化されることが多くて。向井さんは言葉から風景を感じられるのが凄いし……まだまだ無知なんで、いろいろ聴くなかでいろんな音楽に影響されてると思います。あと、ホントに衝動だけでやってるみたいな方々っているじゃないですか。上裸で演奏してる人とか、そういうバンドも最近聴くようになって。歌詞が凄いストレートでカッコイイと思ったので、そういう面を出したかったんだと思います」。

 そうした現在のアユニのモードは『衝動人間倶楽部』というタイトルにも直結するものだ。

 「衝動的に生きてる人とか、衝動的に物を作ってる人とか、それこそ衝動的にライヴをしてる人とかに、憧れを強く抱いてて。自分は昔から怒られるのが苦手で、学校とかでも目立たないように生きてきたので、いつもバカなことして怒られてるけど先生にめちゃくちゃ可愛がられてる人とか羨ましかったし、おもしろいことを率先して勝手にやってる人は凄いなと思ってて。そうやって衝動的にやりたいことを貫いてる人はカッコイイし、そういう人たちを見て自分も〈こんな世界でも生きていくか!〉って勇気を貰うので、このタイトルにしました」。