このバンドじゃなきゃ出せない質感やフィーリングが重要だった

――いまの話を聞いておもしろいと思ったのは、このアルバムと接続したり、並べて比較することで、視野が拡がるような、いま、自分が聴いている作品やジャンルがあるかな?とぼんやりと考えてたんですけど。後藤くんのいまの話とはもっとも真逆の、ひたすら数値で打ち込んでいる音楽がそれだったんですよ。ここ最近はずっとトラップを聴いているんですね。いまさらなんだけど(笑)。で、BPMが60~70まで落ちてくると、際限なく刻める。ハットは32で刻んだり、かつ3連で刻んだり出来る。スネアの位置が32分の1の細かい範囲で前や後ろに持ってこれる。数値で計算して打ち込んだものなんだけど、曲ごとにかなり千差万別なグルーヴが生まれていて。それと生演奏で訛りをやっている人たちの音楽とが同時代的に生まれてて、何かしら共通する文脈を引くことの出来る可能性がある。それはそれでおもしろい発見だったんですね。

「それって、ロバート・グラスパーとかの界隈のでしょ?」

――いや、本当にメイン・ストリームの、トラップ以降のヒップホップとか、ポップス。

「でも、ああいう技術って、人間が追いついていく気がしますけどね。一回聴いちゃうと、どこかで身体に落とし込めるヤツがいるような気がして。グラスパーとかもそうだけど、それよりもうちょっと古いタイプのDAWが作り上げた複雑なビートを肉体的に落としていくことによって、どんどんミュージシャンが上手くなってきているからできるジャズもあって。田中さんが聴いている音楽も、いつの間にか身体に入れるヤツが出てくると思うんですよね。テクノロジーと人間の進化って、両輪ではあるから」

ロバート・グラスパー・エクスペリメントの2012年作『Black Radio』収録曲“Cherish The Day”のライヴ映像
 
トラップを採り入れたレイ・シュリマーの2015年作『SremmLife』収録曲“No Flex Zone”
 

――表現が進化する起爆剤というのは、想像力の進化か、身体性の拡張か、テクノロジーの発展か、その3つのうちのどれかでしかなくて。常にその3つが互いに競争し合い、せめぎ合ってる。

「複雑な布みたいになっているということですよね。それ、すごくわかります。それでたぶん、今回の僕らは、身体にフォーカスしている。自分たちがそれぞれに持っている文脈を、身体を通してこのバンドで編んでみたらどういうものになるのかなという興味が一番あったというか。だから、すっごく乱暴な言い方をしたら、実は今回は、曲なんて作らなくてよかったんじゃないかと(笑)」

――わかります、わかります(笑)。どこかのタイミングで確実にそういうふうに思ったレコードだよね。だから、最初とても意外だったのは、90年代オルタナティヴ的な側面というか、たぶん、後藤くんはソロじゃやらないだろうなと思っていた音楽的な要素が散見してたこと。でも、ソングライティング的な側面はむしろ重要なポイントじゃなかったんだな、っていう。

「本当にそうですね。自分のなかでは曲というよりも、質感やフィーリングが重要で。これはこのバンドという身体じゃなきゃ出せない、みたいなところに一番フォーカスというかピントが合っていたというか。そういう作品なんだと僕は思っていて。まあ、〈すごく乱暴だな、お前、この曲どうするんだ?〉と言われたらアレですけど(笑)」

『Good New Times』収録曲“Life Is Too Long”
 

――前提として曲はあるけれども、出来ることなら、演奏なり、音の質感なり、ニュアンスに耳をそばだててほしい。そういう思いがある?

「それもあるし、常に僕らの身体は違うところに向かっているから、ライヴに来てほしい。このアルバムというか、僕らがやりたい音楽は僕らが集まった身体にこそ集約されているから。もしこのアルバムを買うか、チケットを買うかで悩むのであれば、迷うことなくチケットを買ってくれよと(笑)」

――逆プロモーション、最高だね(笑)。

「酷いこと言ってますね(笑)」

2014年作『Live in Tokyo』のトレイラー映像
 

やっぱり俺たちに足りないのは言葉だと思う

――じゃあ、最後に、普通だったら、最初に訊いておくべきことを2つ。ひとつは、リリックという点において、日本語と英語というまったく響きの違う2つの言語を使った理由。もうひとつは、最終的に作品全体が発している、何かしらのメッセージを含んだフィーリングは何なのか? という乱暴な質問です。

「言語的にはいろいろあって。英語で歌ったのはユニヴァーサルなものを作ってみたいと思ったのがある。〈この国の人たち〉というのを限定して書きたかったわけじゃないというか。世界中でポップ・ミュージックを作っている人たちがいて、彼らと同じ気持ちで作ったつもりです。いま、何か広く伝えようと思ったら、やっぱり英語なのかなと思ったから。それが理由ですね。アルバムを作る前から英語にしたいという気持ちがあった。ただ、どうしても自分のマザー・ランゲージといったら日本語なわけで、やっぱり日本語が一番良く書けるわけだし、全部を置き去りにはできない。日本語と同じように英語も書ければ、だいぶ世界は違うんだろうなとも思うけど。でも、おもしろい発見で、南米の人たちは〈日本語で曲を書いてほしかった〉という声が多かった」

――あー、そうかー。そこは死角だったね?

「そうなんですよ。〈日本語だったらギリギリわかるけど、英語はまったくわからない〉という人が結構いる。だから、そこはひとつ心残りですね。このアルバムの曲を作っている段階でアジカンの南米ツアーに行ったんですけど、そういう明らかに違うレイヤーが南半球にはあって。スペイン語圏では、空港でコーヒーを頼むにしても英語だと通じないこともあるし。だから、英語はユニヴァーサルというのも思い込みかもしれないなと」

――KOHHくんの〈ありがとうトラップ〉が英語圏、フランス語圏で爆発的にウケたりっていう現象もあるしね。

KEITH APEが2015年に発表した楽曲“잊지마(It G Ma)で、4分20秒~の〈ありがとう〉からはじまるKOHHの日本語ラップ・パートが海外で爆発的にヒットした

「そうそう。で、このアルバムが発しているメッセージか……」

――言語には翻訳しづらい部分だっていうのもわかるんだけど。

「まあ、実際のところ、僕にもまだ上手く言い当てられないことを、ジャケット含めて、そのままみんなの前に出したような感じがしていて。ポジティヴなイメージをみんなで丹念に言い当てていけば、世の中はもっと良くなるんじゃないかというか。〈それをやるんだよ〉っていう」

――うん。

「でも、やっぱり俺たちに足りないのは言葉だと思う。(ジャケットの)複雑な生け花だったり、こういうフィーリングだったり、音だったりについて、それを言い当てていく言葉が圧倒的に足りてない。本当に面倒だけど、俺たちはどうにかして言い当てたりしていかないといけないんだな、と。なぜなら人間だから。そういう試みをやったということからすれば、メッセージというのとは違うのかもしれないけど、ある意味では成功だし、ある意味では失敗している。でも、やるしかない。そういう姿勢を、身をもって表わしたのがこのアルバムですね」

――誰もが言い当てていくというか、いや、むしろ言い換えていくのが何よりも楽しいアルバムですね。繰り返し言い換えていく。

「そうですね。だから、比喩なんだと思う」

――ある意味、アルバムのとっ散らかった部分を、リスナーがそれぞれの形で広げていってくれれば、最高だと。

「それはあると思います。みんながゲリラの一員になってくれなきゃという気持ちがあるから。表現って、そういうものじゃないかな」

 


SUMMER SONIC 2016
2016年8月20日(土) 大阪・舞洲サマーソニック特設会場
※大阪公演のみの出演
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Gotch & The Good New Times Tour 2016 “Good New Times”
2016年9月6日(火)東京・渋谷CLUB QUATTRO
2016年9月8日(木)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
2016年9月13日(火)宮城・仙台 Rensa
2016年9月16日(金) 福岡・DRUM LOGOS
2016年9月17日(土) 広島・CLUB QUATTRO
2016年9月20日(火) 石川・金沢 EIGHT HALL
2016年9月21日(水) 愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
2016年9月23日(金) 北海道・札幌 PENNY LANE 24
2016年9月27日(火) 大阪・BIG CAT
2016年9月29日(木) 東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
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