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KING TUBBY The Best Of King Tubby Trojan/HOSTESS(2016)

キング・タビーことオズボーン・ルードックは、60年代末にはテスト・プレス用のアセテート・レコード(=ダブ・プレートと呼ばれていた)のカッティング技師、そしてサウンドシステム(ジャマイカの大衆音楽における消費の中心たる移動型のディスコ)のオーナー/サウンドマンとして活動していた。本業はミュージシャンでもプロデューサーでもなく、電気屋である。

そこで、ある種のサウンドの実験がサウンドシステムに集まる人々を熱狂させることを知っていたタビーは、70年代初頭にはいつしか自宅裏にあった小さな小屋の4チャンネル・ミキサーで、ダブ・プレート用の音源に手を加えていく。ベースやハイハットを強調し、その他の素材を抜き差しした隙間を、エコーやリヴァーブでさらに広げた、いわゆる〈ダブ〉の誕生である。

ジャマイカでは80年代中頃にその歴史はほぼ途絶えてしまったが、ポスト・パンクからディスコ、クラブ・ミュージック、さらにはポスト・ロックまで、ゲットーの小屋で電気屋が生んだポップ・ミュージックの革新的な概念は、いまだに世界の音楽のDNAに入り込んでいる。『The Best Of King Tubby』は彼がまさにダブの〈キング〉として君臨していた73年あたりから、70年代末くらいまでに仕立てた珠玉のダブが収録されている(ちなみにダブとは、上記のようなリミックスの元祖なので、それぞれオリジナルのシンガーによる歌ヴァージョンも存在する)。

“V/S Panta Rock”“Dub Organizer”といったリー・ペリーとタビーによる世界初のダブ・アルバム『Upsetters 14 Dub Black Board Jungle』(73年)からの音源、さらにタビーとの黄金タッグで知られるバーニー・リーナイニー・ジ・オブザーヴァーのような、当時のジャマイカのトップ・プロデューサーとの共演曲が満載。ま、ともかくサウンドシステムで生まれた音楽ですから、ヴォリュームはデカめでお願いします。 *河村

 

HORACE ANDY The Best Of Horace Andy Trojan/HOSTESS(2016)

クラブ・ミュージック以降の世代にとっては、マッシヴ・アタックのフィーチャリング・ヴォーカリストとして知られているのではないだろうか。ホレス・アンディは70年代の始まりと共に、ジャマイカのキングストンで活動を開始したレゲエ・シンガーだ。そして同時代の多くのシンガー同様、彼はジャマイカ音楽を60年代初頭のスカの時代からリードする、コクソン・ドッド率いるスタジオ・ワンの出身である。

マッシヴ・アタックの98年作『Mezzanine』収録曲、ホレスが参加した“Angel”
 

スタジオ・ワンからリリースした大ヒット曲“Skylarking”は彼の代名詞とも言えるナンバーで、街をぶらつく失業した若者たちを歌っており、ストリートからのレベル・ミュージックであるルーツ・レゲエをいち早く捉えた楽曲と呼ばれている(このベスト盤にはカヴァー・ヴァージョンを収録)。

本作はトロージャンに残されたルーツ・レゲエ期の音源を中心にコンパイルされており(終盤の4曲は80年代中頃以降のダンスホール期のサウンド)、いわばスタジオ・ワンを辞めて以降に組んだプロデューサーたちとの邂逅が楽しめる。多くを占めるのは、前述のスタジオ・ワン期の代表曲“Skylarking”や“Ain't No Sunshine”などをルーツ・レゲエのロッカーズ・スタイルでリメイクしたもの、またセルフ・カヴァーもしている人気の“Money Money”を手掛けたバニー・リーとの楽曲群だ。

さらには、そのライヴァルであるナイニー・ジ・オブザーヴァーとの“Materialist / Poor Man Style”などに加え、こちらもホレスの代表曲となる名将デリック・ハリオットとタッグを組んだ“Lonely Woman”、ゲットーの歯科医キース・ハドソンとの“Don't Think About Me”などが収録されている。ずっしりとヘヴィーなルーツ・レゲエのリズムとホレスのハイトーン・ヴォイス。この取り合わせのモダンなアップデートとして、マッシヴ・アタックのサウンドがあることは明白だ。 *河村

 

THE MAYTALS The Best Of The Maytals Trojan/HOSTESS(2016)

強烈に塩辛いトゥーツ・ヒバートの歌声を最大の武器として、60年代のスカ時代からヒットを連発(変名グループでのヒットも多数)。現在も活動を続ける大御所中の大御所、(トゥーツ&ザ・)メイタルズ。『The Best Of The Maytals』は、長い活動のなかでもレスリー・コングと共に代表的な名曲を数多く残していた、60年代後半から70年代初期の音源を中心に構成されている。

スペシャルズやエイミー・ワインハウスもカヴァーした“Monkey Man”(オリジナルは69年にビヴァリーズより発表。同年にトロージャンから英国盤が出ている)、クラッシュキース・リチャーズのカヴァーでも知られる“Pressure Drop”、現在まで数多くのリメイク・トラックが作られた“54-46 That's My Number”、レゲエ・ムーヴィーの古典的名作「ハーダー・ゼイ・カム」でも印象的に使われていた“Sweet & Dandy”などなど、非レゲエ・リスナーにも知られているであろう楽曲ばかりだ。ジャマイカの音楽史上初めて〈Reggae〉という言葉を歌詞に盛り込んだ記念碑的な楽曲“Do The Reggay”(68年)ももちろん入っている。

繰り返すようだが、最大の聴きどころはやはりトゥーツ・ヒバートの歌声。かつては〈ジャマイカのオーティス・レディング〉などとも呼ばれたその歌声には、噛めば噛むほど味が沁み出してくるスルメ系の味わいがある。今回のベスト盤では、レゲエが本質的に〈ジャマイカン・ソウル〉であり、スカが〈ジャマイカンR&B〉だったことを改めて教えてくれることだろう。 *大石

 

KEN BOOTHE The Best Of Ken Boothe Trojan/HOSTESS(2016)

いまでも現役で歌い続けるジャマイカの国民的シンガーで、昨年も素晴らしい来日ショウを行ったケン・ブース。彼はスタジオ・ワンからその輝かしいキャリアをスタートしている。60年代中頃のスカ時代にトップ・シンガー、ストレンジャー・コールとのコンビでヒットを飛ばしていた(収録曲“Artibella”はまさにそうした時代の楽曲のリメイク・ヴァージョン)が、60年代後半にシーンの趣向がスカからスロウでソウルフルなロックステディへと変化していくなかで、その才能を発揮させた。

そしてソロ・アーティストとしてスタジオ・ワンからヒットを飛ばしてブレイク。〈ミスター・ロックステディ〉と呼ばれるほどの人気者となる。スカからロックステディへの変化はアメリカのソウル・ミュージックからの影響が強いと言われているが、まさに彼の感情的なシャウトと、ねっとりと歌い上げる伸びやかな歌声のミックスは、ジャマイカン・ソウル・ミュージックとしてのロックステディを象徴していると言えるだろう。このベスト盤にはまさに脂の乗り切った時期、68年にスタジオ・ワンを離れ、ロックステディからレゲエへと至る70年前後の音源が中心となっている。

この時期はUKのトロージャン全盛期とも言える時代(直後に失速)。US西海岸のソフト・ロック・バンド、ブレッドのカヴァーでUKチャート1位となった“Everything I Own”はまさにその象徴で、同名のUK版アルバムの収録曲もいくつか収められている。そのほかの聴きどころでは、キース・ハドソンによるプロデュース初期のヒットとなった69年の“Old Fashion Way”、Audio Activeもカヴァーした、70年代後半のバニー・リーによるロッカーズ・サウンドの“You're No Good”あたりも。 *河村

 

 

JOHN HOLT The Best Of John Holt Trojan/HOSTESS(2016)

設立当初のトロージャンを支えていたのは、ジャマイカのトップ・レーベルとして数多くのヒット曲を保有していたトレジャー・アイルだった。そして、そんなトレジャー・アイルの看板としてロックステディ時代を中心に大活躍したヴォーカル・グループがパラゴンズジョン・ホルトはそのパラゴンズのリード・ヴォーカルとして活躍し、ソロ移行後もコンスタントにヒットを放った名シンガーだ。

ブロンディをはじめ無数のカヴァーが作られた“Tide Is High”(67年)から“On The Beach”(67年)、“Happy Go Lucky”(67年)、“Ali Baba”(69年)などパラゴンズ~ソロの名曲をバランス良く配置しているのが今回のベスト盤のキモだろう。

また、世界的にはもっとも知られているであろう“Tide Is High”ではなく、74年の“Help Me Make It Through The Night”をオープニングに持ってきているところは何ともトロージャンらしい。カントリー系歌手、クリス・クリストファーソンのカヴァーであるこの曲は、イギリスを中心にヨーロッパでは大きなヒットを記録したポップ・レゲエの名曲(同曲が収録されたトロージャンからのアルバム『Volts Of Volts』もヨーロッパでヒットした)。いわば本作はヨーロッパ視点からのジョン・ホルト名曲集であり、ジョン・ホルト=パラゴンズというイメージが比較的強い日本ではフレッシュに受け止められるはずだ。

ほんのりと滲む哀愁と決してディープになりすぎない歌声。トロージャンがめざしたものを体現していたシンガーのひとりがジョン・ホルトだったことは間違いない。もちろん“Police In Helicopter”などここに収められていない名曲も多いが、まずはここから。 *大石