ボブ・マーリーよりも先に、世界的にその名を知られることになったジャマイカ音楽のスター、デズモンド・デッカー。彼というと、やはりレスリー・コングがプロデュースを務め、トロージャンがライセンスした“Israelites”(68年)や“007 (shanty town)”(67年)だろう。なかでも“Israelites”はレゲエとしてUKチャート初の1位を獲得。日本でも〈イスラエルちゃん〉という邦題でリリースされた。だが、可愛らしいタイトルとポップな曲調とは裏腹に、リリックの内容はラスタファリアニズムの教えとルード・ボーイの美学に貫かれたハードなもの。朗らかな歌声に騙されがちだが、その奥にはジャマイカの厳しい現実が刻み込まれているのだ。
ジャマイカ国外ではアイランドからリリースされた出世作“Honour Your Mother And Father”(63年)や、こちらもUKチャートを駆け上った“It Mek”(69年)などクロスオーヴァー・ヒットも多数。イギリスへ移住後、80年代にはパンクや2トーン勢との距離を縮めるなど活発な活動を展開した。
活動歴の長いアーティストだけに、再演も含めてリリース楽曲は膨大な数に上るが、“Israelites”で始まり、スペシャルズとの“Jamaican Ska”(トロージャンからの93年作『King Of Kings』収録)で締められる今回のベスト・アルバムは、まさにデズモンド・デッカーの代表曲を網羅した決定盤。世界中の少年少女が熱狂したその歌声をいま改めて堪能したい。 *大石
齢80を迎えた偉大なるジャマイカン・ミュージックの革新者、リー“スクラッチ”ペリー。ジャマイカのシーンにプロデューサーとして頭角を現した60年代後半には、ロックステディからアーリー・レゲエへの橋渡しを行うようなサウンドを、70年代になるとボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズと共にルーツ・レゲエをある種定義するような作品群を作り上げた男である。
73年に自身のスタジオ=ブラック・アークを設立した後は、〈ポスト・ルーツ・レゲエ〉とも言えそうな、サイケデリックなダブの音響的実験に繰り出した。今回のベスト盤には、こうした年代の楽曲が収録されている。ロックステディからアーリー・レゲエ期の代表作である“People Funny Boy”やアーリー/スキンヘッド・レゲエ期のインスト・クラシック“Return Of Django”、そして70年代初頭のレゲエにおいてレベルやラスタファリアニズムといったトピックを強く印象付けた、ジュニア・バイルズの楽曲もまたリー仕事では重要だ。
そして彼がもっともプロデューサー/エンジニアとして成熟したブラック・アーク期の音源としては、マックス・ロメオの代表曲“Sipple Out Deh”(“War Ina Babylon”のジャマイカ・オリジナル版)を筆頭に、ヘプトーンズやジュニア・マーヴィンのナンバーをぜひとも聴いていただきたい。
70年代末にブラック・アークは失火で焼失してしまうのだが、その直前のズブズブにサイケデリックなダブの英知を知りたければ、コンゴスの楽曲や、DJハーヴィなどのプレイによってハウス界隈でも話題になった“Disco Devil”あたりを。80年代以降はシンガーという側面が強くなる彼の、プロデューサーもしくは音響実験家としての60年代後半~70年代のサウンドが楽しめる、そんな音源集だ。 *河村祐介