UKダブ界のパイオニアであるエイドリアン・シャーウッドによる公演が渋谷WWW Xで開催となる。
リー・スクラッチ・ペリーを筆頭に、プライマル・スクリーム、スリッツなど時代やジャンルを跨ぎ様々なアーティストたちの楽曲を手掛け、イギリスでもっとも先鋭的なレゲエ〜ダブを送り出してきたレーベル、On-Uサウンドの総帥エイドリアン・シャーウッドは、今年の春にリー・ペリーの『Rainford』を共同プロデューサー/ミキサーとして世に送り出した。
リーのシンガーとしてのユニークな魅力を引き出し、それまでになかったパーソナルな面も見せた傑作と評価されたが、そのダブ・アルバムとなる『Heavy Rain』がリリースされる。こちらはブライアン・イーノなども参加し、さらに『Rainford』未収録の新曲も披露するなど、単なるダブ・アルバムの枠を超えた作品となっている。
リーとエイドリアンの出会いは80年代半ばに遡り、『Time Boom X De Devil Dead』(87年)や『From The Secret Laboratory』(90年)といったOn-Uの傑作を生んできた。そして今回の来日公演は、そのリーとの過去35年間の冒険を総括するライヴと銘打ったもの。オリジナルのマルチ・トラックなどマスター音源を用いて、『Time Boom X The Devil Dead』『From The Secret Laboratory』から『Dubsetter』(2009年)、『Rainford』、そして最新作『Heavy Rain』、さらには伝説的なアップセッターズの作品群に、リー・ペリーのブラック・アークの音源にまで潜り込み、生ダブ・ミックスを行う。そして、サポート・アクトとして日本のダブ・バンドもいろいろ出演する中、長久保寛之を中心としたExotico De Lagoのライヴでは、それもエイドリアンが生ダブ・ミックスしていくそうだ。
この見逃せないダブ体験となる11月22日(金)の公演を前に、来日したエイドリアンに話をしてもらった。
エイドリアン・シャーウッドとリー・ペリーの35年を祝うアニヴァーサリー・ライヴ
――今回の公演は〈リー・スクラッチ・ペリーとの過去35年間の冒険を総括するライヴ〉とのことで、今まで彼と作った名盤を生でダブ・ミックスしていくそうですね。どんなライヴになりそうですか?
「ステージの上に自分のスタジオを持ってくる、そんなライヴになるよ。32チャンネルのミキシング・デスクを置いて、そこにバス・ドラム、スネア、ハイハット、タムタムなど、ドラム・セットやギター、ピアノなどあらゆる楽器の音を仕込んで、いつでも自分が欲しいときにその音を出せるようにするんだ。CDの音にそれら楽器の音を合わせて、さらにノイズやリヴァーブをかけたりいろいろ変化させていく。かなり実験的なライヴになると思うけど、バックのヴィジュアル映像もそれに合わせたものを用意して、トータルで楽しめると思うよ」
――そうなると様々な機材を日本へ運んでくるのも大変ですね。
「いや、持ってきたのは小さなメモリー・スティックとハード・ディスク、ケーブルやノイズ・マシン程度で身軽なものさ(笑)。あとは全部日本でレンタルしたもので大丈夫だよ」
――こういったスタイルのライヴはイギリスではよくやっているのですか?
「いや、今回が初めての試みで、来年の2月にロンドンのジャズ・カフェでもやる予定だよ。今週末に東京でやって、来週は香港でやる予定だったけど、残念ながら香港はデモなどで今ああいった状況だからキャンセルになってしまった。来年はロンドンを皮切りに6、7か所でUKツアーをやることになっている」
――そもそもこうしたライヴをしようと思ったきっかけは何ですか?
「とにかくこの35年を祝うアニヴァーサリー的な、楽しくて面白いライヴにしたいと思ったからさ。リー・ペリーへのリスペクトを込めたものにしたいという気持ちも強いね。来年はこのスタイルで10~12回くらい公演して、その後On-Uの40周年を祝うイヴェントもやりたいと考えている」
日本にはいろいろな友だちがいるんだ
――さらに今回はあなた自身のご指名で、長久保寛之を中心としたバンドのExotico De Lagoも出演し、そのライヴも生ダブ・ミックスしていくそうですね。このセッションはどんなアイデアから生まれたのですか?
「日本にはいろいろと友だちもいて、Audio ActiveやDRY&HEAVYなど仲良くしているバンドもある。レコード会社のBeatinkともいい付き合いをしていて、Exotico De Lagoも彼らからの推薦なんだ。いいライヴにしたいねとBeatinkのスタッフとも話し合って、そんなところから生まれたアイデアだよ」
――Audio ActiveやDRY&HEAVYの名前が出ましたが、日本のダブ・シーンやアーティストについてはどう感じていますか?
「世界中について言えるけど、ダンス・ミュージック・シーンの主流は今もテクノやエレクトロ、EDMとかで、それははっきり言って自分の好きなものじゃない。でも、日本ではきちんとダブのライヴ・プレイが行われていて、実験的なことも認めてくれる土壌があると思う。それはとてもいいことだよ。
UKにいるときもそうなんだけど、常に自分にとって衝撃を与えてくれるサウンドを求めているんだ。でも最近はそうしたものに出会うことが少なくなってしまっていて、残念なことだよね。Audio Activeとかが出てきたときは自分でもよく覚えているけど、それはもう革命的なサウンドだったんだ。これからも彼らのようなバンドが出てくることを望んでいるよ」
――逆に今のUKの若いダブ・アーティストで面白いことをやっている人はいますか?
「正直なところ今のUKには面白いアーティストがいないけど、そうした点で面白いのはフランスだね。UKや日本では今レゲエやダブについてそれほど大きな関心が注がれているわけではないけど、フランスではとても盛り上がっている状態で、若い人たちが伝統的なレゲエやダブに非常に興味を持ってくれているんだ。ダブに影響を受けたテクノやハウスは世界中に広がっているけど、純粋な意味でのダブが今一番受け入れられている国はフランスだと思う。
今の時代はダブの音楽構造を使っていろいろ新しいものが作り出されているけど、これからもそういった具合に若い人たちがダブから新しいものを生み出していってほしいね」
リー・ペリーは複雑で面白い男
――この来日公演に先駆け、今春に発表されたリー・スクラッチ・ペリーのアルバム『Rainford』のダブ・アルバムである『Heavy Rain』がリリースされます。あなたがリーと共にプロデュースとミックスを手掛けたこれら作品についても伺います。まず『Rainford』について、あなたは〈これまでのリーの作品の中でもっともパーソナルなもので、フレッシュな音楽的アイデアが詰まっている〉と述べています。リーとは長いつきあいですが、あなた自身は『Rainford』にどのように取り組みましたか?
「リーはとても面白い男で、ステージではとってもクレイジーなことをやっていたりするけど、実に複雑でいろいろな引出しを持っているんだ。彼のことを知れば知るほどいろいろな面が見えてきて、とてもたくさんの層が積み重なってリー・ペリーという人間ができていることに気づかされる。
たとえばリーの母親はアフリカのブードゥーの血筋から来ていて、彼もその影響を強く受けている。〈悪魔〉とか〈戦い〉とかのフレーズがそうで、音楽にもブードゥー教の教えが表われることがあるんだ。
だから『Rainford』はリー・ペリーと言うよりも、本名のレインフォード・ヒュー・ペリーをそのまま引き出そうと作っていったよ。これまでのアルバムでは皆が見たことのなかった彼の姿を、この『Rainford』では見せられたらと作ったんだ。昔カントリー歌手のジョニー・キャッシュをリック・ルービンがプロデュースしてアルバムを出していたけど、あんな具合にね※」