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いつも〈初めてやるのか? 俺たち〉というムードになるね(塚本)

――ところで、3人が初めて会ったのはいつになるんですか?

小島「『二十歳の恋』の時。23歳でした」

塚本「ASA-CHANGがプロデューサーだったからね」

ASA-CHANG「第三者的なまとめ役としてやってくれないかと話が来て。当時スカパラを辞めて何もない頃でしたね」

小島コーネリアスとかもやってた頃だよね?」

ASA-CHANGネオアコ時代のコーネリアスをサポートしていました。『二十歳の恋』の頃は、新大久保のスタジオにこもってアルバムの音を作ってましたね」

小島「とっぽいお兄さんでしたよ。いまと比べると痩せてたね」

コーネリアスの95年作『69/96』収録曲、ASA-CHANGが参加した“MOON WALK”
 

ASA-CHANG「あの頃の小島さんは自分自身の音へのこだわりがすごく強くて、好みじゃない演奏をする人はシャットアウト……〈帰って!〉というぐらい厳しかった。逆に好きな演奏だった場合は〈好き!〉〈もっとやって!〉と。そういう様子を〈これが小島麻由美なんだな〉と思いながら見ていましたね」

小島「新人だったからね。いまはもう好きなミュージシャンばかり集められるから流石にそうならないけど」

ASA-CHANG「小島さんの音楽は、初めて会った人がいきなり、そう簡単にできてしまうはずがないわけで。でもあの頃はそういう戸惑いが如実に表れていたね」

小島「すごく上手いスタジオ・ミュージシャンが来て、リハではドカスカドカスカ格好良い16ビートを叩いたりしてるんだけど、いざ〈お願いします!〉となると、トッテントッテン、ってリズムになるもんだから〈あれ、違うなぁ〉って(笑)」

ASA-CHANG「小島さんの世界は本当に難しくて、そのへんに売っている絵の具とは違う色を使わないとできなかったりする。上手いからできるっていうもんじゃないんだよ。小島さんがカシオトーンで作ったとてもチープなデモ音源がめちゃくちゃ格好良くて。格好良いんだけど、すごく闇が広がってるんだよね(笑)。〈カシオトーンのあの音色からなんでこんな暗い音楽が出来るんだろ?〉と思うぐらい、なんかドロンとしたものが横たわっている。それがすごく魅力的なんだけど」

小島「私はそこに全然満足できなくて、生のトランペットの音なんかを想像しながら、〈こうしたい!〉という理想を追い求めていたんだけどね。当時はなかなか思うようにはならなかったですけど」

小島麻由美の2010年作「BLUE RONDO LIVE! DVD+CD」トレイラ―
 

ASA-CHANG「小島さんのデモテープって、いつも〈サーーー〉っていうヒスノイズと生活音が入ってる。イントロが始まる前からすでにもう小島さんが匂い立ってるんだよね。聴くたびにいつも〈これなんだよなぁ〉と思ってたよ。その〈サーーー〉は映画で言えば〈カシャカシャカシャ〉っていうフィルムの輪転音と同じで」

小島「そういうのを最初におもしろがってくれたのがASA-CHANGなんです。受け取る人によっては、これかぁ……と思う人もいるわけで」

ASA-CHANG「プロデュースをするにあたっては、この音を生楽器で置き換えたとしても、果たして小島麻由美の世界が上手く出来上がるのかという不安はありましたよ。僕のほうも〈こんなの気に入ってもらえるわけがない〉とドキドキしながら作っていたから。何やってもこのデモテープの格好良さには敵わないと。だから、小島さんから〈ASA-CHANG、何かもっと格好良くして!〉って言われるのは重圧でしたよ(笑)」

小島「アハハ(笑)。ASA-CHANGはパーカッションですべて問題を解決してくれるから、それが気持ちいいんですよ」

ASA-CHANG「でも、僕の一番大きな仕事は小島さんの世界を理解することができるミュージシャンをコーディネートすることでしたね」

小島「つかもっちゃん(塚本)も含めてね」

塚本「俺はASA-CHANGに呼ばれて参加したから。ピラニアンズから一緒にやっていて」

ASA-CHANG「そうだったっけ? 忘れてた」

小島「え~覚えてないの?」

ASA-CHANG在籍時のピラニアンズのパフォーマンス映像
 

ASA-CHANG「もう最初からずーっといたような気がして(笑)。でも今回の“GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN”のアレンジを手掛けた松本治さんや、菊地成孔を紹介したのも俺でしたね。その人たちと(小島が)上手くコミュニケーションが取れたら、そこで僕の役目は終わりというか」

小島「なんか代理店みたいな人だよね(笑)」

ASA-CHANG「打楽器も叩ける斡旋業者ですね」

――ハハハ(笑)。塚本さんの小島さんに対する最初の印象はどうでしたか?

塚本「ASA-CHANGから〈いまこういうことをやってるんだ〉と話は聞いていて。その頃からASA-CHANGの感覚がすごくおもしろいと感じていたから、彼がプロデュースするということで引っ張られて入っていきました。もともと僕は女性ヴォーカルというか、女の子チックな世界とは無縁な音楽をやっていたので……」

ASA-CHANG「ミシシッピ・ブルース、みたいな感じだったよね。中央線国立ブルースというか。あの頃の国立の音楽コミュニティーは強力だったよね」

塚本功擁するネタンダーズの95年作『ネタンダーズ』、98年作『MOO DOO』収録曲“おお!恋人よ”
 

塚本「そうだね。それとあの頃の小島さんがビッグバンド・アレンジをやっているのを見て、すげえなと思っていました。でも小島さんって当時は危険なムードがものすごくあったよね」

ASA-CHANG「あったあった。小島さんと初めて会ったのは、渋谷CLUB QUATTROでライヴを観に来てくれた時だったけど……」

小島「あの時はもう〈全員が敵!〉って感じでした(笑)。〈みんな大嫌い!〉と思ってた(笑)」

ASA-CHANG「もう渋谷の街全体が敵状態(笑)。そもそも渋谷に来ること自体すごく苦労したみたいで、初対面の時、壁に張り付くようにしてたもんね」

――まるで忍者みたいに(笑)。

小島「とにかく何から何まで思い通りにならないことばかりで、相当鬱屈としていたからね」

ASA-CHANG「かなりのこじれ具合で、楽曲よりも歪んだ現実があった(笑)」

小島「当時はかなりの音楽馬鹿で、朝から晩まで音楽のことしか考えていない生活を送っていたんです。でもいま振り返ると、その頃使っていたのがかなり良いスタジオばかりで、そこで良い音で録音するから、思った通りの音になるはずがないんですよね。私が好きな、カセットみたいなガシャガシャしている世界とは程遠い」

ASA-CHANG「だからそこのいい機材を使って、どれだけ宅録っぽい音を作るかということを追求していた」

塚本「今回の“GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN”もカセットで録った音を作家さんに聴かせてプレゼンしたんでしょ? 小島さんっていまでもカセットでリハを録るんですよね」

小島麻由美の2014年作『渚にて』収録曲“泡になった恋”
 

――やっぱり基本は変わらないんですね。それにしても3人のやりとりを眺めていて、仲が良いことを実感させられっぱなしなんですが、前と比べて変わったなぁと思うところなどあります? 例えばレコーディング作業のスピードが昔と比べて速くなったとか、作業の面での変化はあったりするんでしょうか?

小島「変わらないよね」

塚本「ただ、いつも〈初めてやるのか? 俺たち〉というようなムードになるね。〈これをどうやってやればいいんだろうか〉と迷うことばかりで。〈あの時のあれみたいにやろう〉、みたいな感じで簡単にまとまることはまずない」

――どうしてそういう雰囲気になるんでしょう?

塚本「いろいろなことで、あたふたしてるんですよ」

小島「ゆとりがなくて、すぐいっぱいいっぱいになっちゃうんですね(笑)。常に崖っぷちな状態ですから」

 

“ポルターガイスト”あたりの楽曲は死んでも忘れないだろうと思う(ASA-CHANG)

――お2人の生み出す音色やリズムがこれまで小島麻由美さんのサウンドの血肉となってきたことは間違いないわけですが、ASA-CHANGさんは小島さんの音楽においてどんな役割を担っていると思いますか?

ASA-CHANG「太鼓係とかリズム隊というんじゃなくて、自分の立場って〈鬼〉みたいな存在だと思っていますよ。小島さんの音そのものが常に鬼というか、モンスターみたいなものを欲しがっているんです。ガーッという〈歪み〉みたいなものと言えばいいのか」

小島「個性というかアクセントというか……パンチを上手く付け加えてくれるようなね。決して普通に、大人しくまとめたりはしないから」

ASA-CHANG「大人しく綺麗にまとまりそうなところに、〈全然小島さんじゃないじゃん!〉っていう絵具を激しく投げてみたりする。あえてそういうハプニング的な要素をぶつけてみたりして」

塚本「ピラニアンズの時からそうなんですけど、ASA-CHANGから出てくるアイデアってことごとくすごいんですよ。ドラムじゃないものを用いてリズムを構築したりね。小島さんのところに来ると、瞬時にそういうアイデアを出さなくてはならないことが多いんです。〈昨日こんな曲を作ったんで、これからすぐ録ります〉みたいなこともよくあるから」

ASA-CHANG「よく声が聞こえてきてたもんね。〈これやって~〉って(笑)。有無を言わさず〈できるでしょ?〉と言われちゃう」

塚本「“ポルターガイスト”(2003年作『愛のポルタ―ガイスト』収録)のあのドラム・パターンもスタジオで作ったんだよね」

ASA-CHANG「そうそう。でもそういう状況にワクワクさせられるんだけど」

小島「そんな無理な要求に瞬時に応えられるんだから。プロってすごいね~(笑)」

ASA-CHANG「〈すごいね~〉ってあなた(笑)。だからさ、そういうやり方が性に合わない人だっているわけですよ」

――そういうやり方をお2人は楽しめるタイプだったということですよね?

小島「そうですよね。これまで一流のミュージシャンとばかり仕事をしてきたんだなぁと思います。ありがたいですねえ」

塚本「フフフ(笑)。でも小島さんの周りには変わったミュージシャンが多いよね」

小島「変わったミュージシャンのほうが断然いいよね。変わったことがないと何か足りないような気がして。もう皆さんクセのカタマリだから。でもこの2人とは本当にハマったんだと思います」

ASA-CHANG「最近はスパイス役というか、汚し屋的な役割で参加することが多いかな。僕がすごく僕であって、小島さんが超小島さんだなって思えるのは、“ポルターガイスト”や“眩暈”あたりの曲だという印象があります。あまりにハマりすぎていて、死んでも忘れないだろうと思う」

ASA-CHANG&巡礼の2016年作『まほう』収録曲“告白”
 

――ヤバイぐらい同化していた感じがあったと。

塚本「いちばんバンドになっていった頃だよね」

ASA-CHANG「そうそう。ゴリゴリとしたスウィング感というか、ひとつの完成形があそこにはある」

――この3人の関係性ってこの先もまったく変わらなさそうですね。

小島「変わらないでしょうね」

ASA-CHANG「変わるとしたら、誰かが死んだ時じゃないですかね(笑)」

小島「ASA-CHANGはメイクもやってくれるから、もうトータル・プロデュースですよ。ヴィジュアル的なアドヴァイスも的確だから」

ASA-CHANG「だって小島さん、取材でも何でも日常のままで来ちゃうんですよ。〈このまま出ちゃおうかしら〉と言うから、〈ちょっとお化粧したほうがいいんじゃない?〉ってくらいは言いますよね。でも小島さんのなかではいろんな波があって、今回の“GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN”でも、こういったスウィング系のものがまた来てるんじゃないかなと思いました」

小島「確かにちょっとまたスウィングがおもしろいなと思いました」

ASA-CHANG「そういうなかで、これからも僕はジャングル・ビート的というか小島スウィング的なものの助けになれたらいいなと思います」

――また近いうちにこの3人が揃ってくれるとすごく嬉しいです

※9月20日に行われる小島麻由美の『二十歳の恋』再現ライヴで集結する予定。詳細はこちら

小島「そうですね。またいろいろやってみたいですよね」

ASA-CHANG「真ん中に一本通ってるつかもっちゃんのギターというのも小島さんの声と同じぐらいの役割になってるしね。だからギターが変わったら一番変化がわかるんじゃないかな。あまりにもずーっとそばでやっているし、あんな不思議な音はほかの誰にも出せないから」

塚本「もし新しいものを作ろうということになったら、俺がいなくなるのがいちばん早いかもしれない(笑)」

――いやいや(笑)。でもいなくなるというイメージが湧かないですよね。

塚本ミック・ジャガーキース・リチャーズのように思ってもらえたら嬉しいですね」

 


~小島麻由美からのお知らせ~

HMV GET BACK SESSION 「二十歳の恋」LIVE

自身の作品を曲順通りに演奏する名盤再現ライヴ〈HMV GET BACK SESSION〉
96年9月20日から20年の時を超えて『二十歳の恋』が、ハタチを迎える記念日(誕生日)に実現!

日時:9月20日(火)
場所:東京・渋谷CLUB QUATTRO
開場18:45/開演19:30
出演:Drums:ASA-CHANG
Wood Bass:長山雄治
Guitar:塚本功
Keyboards:Dr. kyOn
Flute:国吉静治
Pianica:ピアニカ前田
Horns:勝手にしやがれ Horns(Trumpet 田中和/Tenor Sax 田浦健
and more!!
F.O.H.:Dub Master X

★詳細はこちら

 

~ASA-CHANGからのお知らせ~

ASA-CHANG&巡礼7年ぶりのオリジナル・アルバム

ASA-CHANG & 巡礼 まほう Pヴァイン(2016)

 

~塚本功からのお知らせ~

9月7日にニュー・アルバムがリリース!

塚本功 ARCHES TINKER(2016)