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プリンスはとにかくメンバーに厳しかった

――90年代に入ると、プリンスはまた変わっていったじゃないですか。それはどう見ていました?

沼澤「〈マイ・ネーム・イズ・プリンス~〉〈セクシ~・マザーファッカ~〉とかラップしていると〈えっ!?〉って一瞬なるんだけど、〈でもプリンスだから、うーん……OK!〉みたいな(笑)。黄色いBMWに乗って、マイクが銃になるのも……(渋い表情をして)まあOK!」

プリンス&ニュー・パワー・ジェネレーションが92年に発表した“Sexy Mf”のミュージック・ビデオでのワンシーン

一同「ハハハハハ(爆笑)」

沼澤「自分のなかではそんな感じでしたね。でも、“Willing And Able”みたいな曲は思い切りゴスペルで、そういうのを聴くと嬉しかったです」

プリンスの91年作『Diamonds And Pearls』収録曲“Willing And Able”
 

――その時代の前後で、バック・バンドもいろいろと変わっていますよね。

沼澤「僕が一番好きだったのは、やっぱりレヴォリューションかな。バンドが大きく変わるのが『Sign 'O' The Times』のときで、それまでは演奏が上手いかどうかよりもキャラクター重視だったのが、レヴォリューションが解散してからは衣装とかも含めて大きく変化していきましたよね。サンプリングを使い出したのもこの頃からだし、“Housequake”のようにドラム・マシーンのビートも細かくなって。そこから『Lovesexy』(88年)に向かう頃には、ミネアポリス・ファンクのお約束であるアナログ・シンセの〈ブワーン〉もやらなくなった」

――基本的には多重録音しながら、一人で全部できるタイプの人じゃないですか。

沼澤「『Lovesexy』まではほとんど全部自分で演奏していたけど、ニュー・パワー・ジェネレーションからバンドを強調するようになりましたよね。マイケル・B(ドラムス)やソニー・T(ベース)がたっぷり演奏したり」

――エリック・リーズの兄、アラン・リーズはもともとジェイムズ・ブラウンのツアー・マネージャーで、その後はプリンスやディアンジェロとも携わった人ですけど、そのアランが〈プリンスは何でも自分で演奏できるけど、サックスだけはやらないから弟は生き延びているんだ〉と語っていて。

※1952年生まれのサックス/フルート奏者。『Parade』以降のプリンス諸作やツアーに参加した

沼澤「エリック・リーズの前任がエディ・Mだったんですよね。『Around The World In A Day』でもサックスを吹いていますけど、〈あれっていつ録音したの?〉と彼に訊いたら、『Purple Rain』のツアー中にレコーディングしていたと。まだペイズリー・パークが出来る前の話で(87年設立)、ツアー中に曲が出来たらすぐに録音へ取り掛かっていたみたいです」

――行く先々のスタジオで録っていた。

沼澤「そうそう。プリンスはあまりLAにいなかったので、僕は残念ながら会ったことがないんですけど、逆にシーラ・Eはベイエリアの出身なので、しょっちゅう一緒にいて。彼女は地元のミュージシャンを自分のバンドに起用していたんですけど、プリンスはそのバンドが好きだったので、自分の曲を練習するときにも使っていたんです。それを録音したブートもありますけど、『Around The World In A Day』の収録曲を延々やらされたとキャット・グレイが言ってました」

※シーラ・Eは『Purple Rain』と『Parade』のツアーでプリンスの前座を務めた

――さっきのアラン・リーズの証言によると、プリンスはとにかくメンバーに厳しかったそうですね。細かい指示も多いし、何か気に入らないことがあるとすぐに文句を言われた。その一方で、ディアンジェロはジェイムズ・ブラウンやプリンスに比べると寛容だったみたいで。

沼澤「プリンスは罰金制度も凄かったみたいですね。ステージ上で誰かが演奏を間違えると、〈ブーツ一足も~らい〉とMCで言ってたとか(笑)」

「タカさん(沼澤)から聞いた話ですけど、ジェイムズ・ブラウンもそうだったみたいですね。これを出したらブレイク、これを出したら(音量を)落とせ、上げろとか。その(合図となる)キューを見落とすと、物凄い罰金を払わなくちゃいけない。バンドもただ演奏するだけじゃなくて、常にフロントマンのほうへ注意を向けてないといけなかった」

沼澤「それは、アメリカのソウル・バンドにとっては基本中の基本だったかもしれない。僕が(87年に)ボビー・ウーマックのツアーに参加したときも、例えばライヴ中にブレイクの合図が出るじゃないですか。それでキリのいいところで止まったら〈キューを出したら、その瞬間にブレイクしろ!〉と、あとで新幹線の中で怒られたんですよ。〈え、サインが出たら「3、2、3、4/4、2、3、4、ハイ!」と入るんじゃないんですか?〉と言ったら〈それだと遅い!〉って」

「ハハハハ(笑)」

沼澤「そんなにすぐ行かなきゃなんだ!っていう(笑)。しかも、そのキューもボビーが歌いながら背中を向けてるときに(腰元で指を鳴らすしぐさをして)こんな感じなんですよ。そんな細かい仕草すら、見逃すわけにはいかなかった」

――日本でそこまでシビアな現場はないですよね?

沼澤「絶対にないです、見たことがない(笑)」

――そう考えると、ディアンジェロが寛容だったのは自分の仲間たち(ソウルクエリアンズ)とレコーディングしていたのが大きかったのかもしれないですね。エレクトリック・レディ・スタジオで。

沼澤「そうそう、感覚がだいぶ違うんじゃないですか。クエストラヴも、たぶんルーツのメンバーに罰金は課してなかったでしょうし(笑)。彼がプリンスについて語ってるインタヴューは全部おもしろい。とにかく影響を受けていたので、プリンスがやったことは全部やらないといけないと思っていたそうですね。特に音楽制作がそうで、プリンスが他のアーティストについて語っていたら絶対にチェックしていたとか。ディアンジェロもそうですよね。最近はジェシー・ジョンソンがバンドに参加しているし、ライヴを観てもプリンスになりたがっている様子が見え見えで。これだけでも、プリンスとミネアポリス・ファンクが今日のブラック・ミュージックにもたらした影響は明白なんじゃないですか」

※タイムのギタリストとして著名な1950年生まれのギタリスト。近年はディアンジェロ率いるヴァンガードに参加

クエストラヴがプリンスにまつわるエピソードを振り返った〈Okayplayer〉のインタヴュー映像(英語)

 

日本人のミュージシャンだけ集めても、絶対にわからない感覚がある

――最後に、改めてNBTFの話を訊かせてください。森さんは一緒に演奏してみてどうでしたか?

「変な言い方ですけど、沼澤さんやNBTFのメンバーと会う以前から、ライヴやレコードを通じて、自分が信じてやってきたことがあったんですよ。特にグルーヴに関して。けど、日本人のミュージシャンと〈その感覚〉で演奏すると、僕だけズレてしまって。なんて言ったらいいのかな……」

沼澤「いや、わかるよ」

「演奏していると〈アレ……?〉ってなるけど、自分が見聞きしてきたアレやコレは確かにこうだったよなと。そんな違和感を抱きつつ、30歳を過ぎるまで〈その感覚〉を信じてやってきたんです。そこからShikao & The Family Sugarに沼澤さんが参加することになって、初めてスタジオでリハーサルして音を出したときに〈これだ!〉となって」

沼澤「俺は間違えてなかったと(笑)」

「うん、最初にそう言いましたもんね。本当に言葉にしづらい、プリミティヴで本能的な感覚で……要するに〈ファンキー〉ってことだと思うんですけど」

NBTFの2003年のライヴ映像
沼澤と森のユニット=DEEP COVERの2012年のライヴ映像
 

沼澤「僕は逆に、なんでこの人は日本で音楽をやってきたのに〈その感覚〉を知ってるんだろうと思いましたね。僕が日本に帰ってきたときも、それまではアメリカ人とばかり演奏してきたから、こっちのライヴに参加すると違和感を覚えてしまって。森くんは、外国人が集まったバンドで演奏するほうが全然やりやすそうだったもんね」

「そうなんです。もちろん海外のスタジオでレコーディングをしたことはあるけど、そういう話ではなくて」

沼澤「語弊があるかもしれないけど、そういう音楽ができそうな日本人のミュージシャンだけを集めても、絶対に〈その感覚〉はわからないんですよ。本人たちのなかに入らないと掴めない。ブラジル音楽だってそう。マルコス・スザーノとも共演しましたけど、そうやって現地のミュージシャンと交わらなければ絶対にわからないことがある。別に日本が劣っているとかではなく、世界各国で(感覚の)スタンダードがそれぞれ違うという話ですけどね。でも、森くんはなんで〈その感覚〉がわかったんだろう?」

「なんか……子どもの頃からそうだったみたいで(笑)。自分でもよくわからないんですよ」

沼澤と森、マルコス・スザーノの共演ライヴ映像
 

沼澤「僕ら2人だけでは〈その感覚〉を出せないんだけど、カールやエディ、レイモンドの誰か一人でも入っただけで途端に変わるよね。それを佐藤竹善はSing Like Talkingでやろうとしていた。メンバーを雇って楽曲を作り、LAで録音した『togetherness』(94年)というアルバムがあるけど、日本語で歌ってるのにサウンドの言語は英語になっていたからね」

※キャット・グレイが共同プロデュースを担当し、13キャッツやネッド・ドヒニーエモーションズなどがゲスト参加

――日本の若いミュージシャンの間でも、ブラック・ミュージックからの影響を採り入れようとしている人たちが増えているみたいですね。

沼澤「もしそういう人がいるなら、日本人だけで集まってやろうとせずに、とりあえず一人で向こう(アメリカ)に行ってみたほうが、やりたいことができると思いますね。僕や森くんが特別なわけでもないし、向こうのミュージシャン達に加わって演奏していれば自然とできるようになるんじゃないかな」

「NBTFと一緒に演奏するのは楽なんですよ。自分が素のままでいいから、変に力を入れなくてもいい」

沼澤「みんな凄いメンバーなので、ブラック・ミュージックが好きな人なら誰でも上手く演奏に入っていけそう。例えば自分がドラマーだとしたら、そのドラムスを何倍にも格好良く聴かせてくれるミュージシャンの集まりなんだよね。良い歌や演奏がお互いを引き立てたりするのと一緒で、そこにいるとラッキーというか」

――よくわかります。そんなNBTFのメンバー紹介がそのまま公演の見どころになりそうなので、ぜひお願いできますか。

「レイモンド・マッキンリーが出すボトムのグルーヴ、これこそ僕はファンクネスだと思っていて」

沼澤「教会でひたすらゴスペルをやってきた人なので、譜面を読むといった素養はゼロなんですよ。トニ・トニ・トニパティ・ラベルといった教会系のブラック・ミュージックに携わって、プリンスがLAでバンドを集めるときは彼がベースを弾いていた」

「さっきタカさんが言ってた喩えのように、彼がベースを弾くことで、タカさんが叩いているドラムスをバネみたいにしちゃうんですよ。〈ド、パ、ド、パ〉だとバウンスしてないじゃないですか。でも、そこにベースが入ることで〈ジョッ! パッ! ジョッ! パッ!〉にしてしまう。これ、活字に起こすと全然伝わらないと思うんですけど(笑)。とにかくNBTFのライヴは、このグルーヴを体で感じてほしい」

沼澤「あのベースは日本人じゃ無理だよね。まったくアカデミックじゃないのに、なんであんな音楽的にできるんだろう。ゴスペル育ちなので、ミネアポリス・ファンクを親指で弾くようなプレイは特に凄いですよ」

「そういうファンキーなグルーヴって、アメリカのリズム&ブルースにおける長い歴史のなかで、昔からずっと培われてきたわけじゃないですか。そういう1本の長く太い線を、レイモンドのベースを聴くことで感じられると思う。天才ですね」

沼澤「カール・ペラーゾは、サンフランシスコのミッション・エリアで育ったイタリアン・メキシカン。だからラテン音楽がルーツにあって、プリンスのことは実際に知り合うまで全然知らなかったそうです。そのあと、カールと彼の奥さんは特別気に入られて、プリンスからいつも食事に誘われるようになるんですけど、きっと変に特別視してなかったのが良かったんでしょうね。サンタナの右腕として、25年間もバンドに君臨している世界最高峰のラテン・パーカッショニストなので、今回のライヴでもソロを叩くシーンは当然ハイライトになるはずです」

「エディ・Mは、ライヴ前にプリンスから〈今日は音を2つしか吹くな、それで客を全部持って行け〉と言われて、本当に持って行った男です」

沼澤レスター・ヤングマイケル・ブレッカーメイシオ・パーカーの系譜だよね。それに、プリンスから一番最初に気に入られた管楽器プレイヤーというだけあって、華やかなステージングも見どころ」

「もし〈ド・レの2つしか吹くな〉と言われたら、メロディーやフレーズにこだわったソロを吹いてる場合じゃなくて、リズムと音色、音の長さで勝負するしかない。だから、エディのサックスはリズムがとんでもないですよ。サックスも打楽器だと言わんばかり」

沼澤ジョエル・ベールマンネイト・マーセローの2人は、現在のシーラ・E・バンドに参加しています。ジョエルはベイエリアで知り合って以来の仲間で、自分でジャズのバンドを率いたり、ラテンにも精通しているホーン・プレイヤーで、トランペットとトロンボーンが両方できる。ネイトはまだ20代だけど、そうは思えないほどルーツ・ミュージックに詳しくて、しかもライバンクスみたいな最近のオルタナティヴ系にもガッツリ関わっているんですよ。そういえば以前、ミコ・ウィーヴァーリーヴァイ・シーサーJrといったプリンス/シーラ・Eのバンドの歴代ギタリストが集まってトリビュート・ライヴのリハをやったときに、ネイトが全員やっつけたと言ってました(笑)」

ジョエル・ベールマンとネイト・マーセローが参加したシーラ・Eのライヴ映像
 

――これはライヴを観たいという気にさせられますね(笑)。

沼澤「いまのブラック・ミュージックが好きな人にもぜひ観てほしいですね。ヒップホップをそのまま演奏するわけじゃないけど、ルーツに触れる機会になると思いますし」

「そもそも、ファンクとヒップホップは親戚みたいなものですからね」

 

NOTHING BUT THE FUNK
JAPAN TOUR 2016

10月13日(木)、16日(日) Billboard Live TOKYO
開場/開演:
〈10月13日(木)〉
・1stステージ:17:30/19:00
・2ndステージ:20:45/21:30
〈10月16日(日)〉
・1stステージ:15:30/16:30
・2ndステージ:18:30/19:30
料金:サービスエリア/7,800円、カジュアルエリア/6,300円
★公演詳細はこちら 

10月14日(金) 広島CLUB QUATTRO
開場/開演:18:0/19:00
料金(1D別):前売り/6,900円
★公演詳細はこちら

10月15日(土) Billboard Live OSAKA
開場/開演:
・1stステージ:15:30/16:30
・2ndステージ:18:30/19:30
料金:サービスエリア/7,900円、カジュアルエリア/6,900円
★公演詳細はこちら