第26回、つまりは1年半前に〈荒野の時代〉というテーマでお送りしていた当連載、まだまだ音楽は荒野の時代真っただ中。この原稿を書いている週末に行われるマルチネレコードのイヴェント名は〈砂丘〉です。今回はそんなイヴェントを控えた私の気分で3枚をご紹介。

 

宇多田ヒカル Fantome ユニバーサル(2016)

 そういえばこのお方のMVにも〈砂丘〉が登場していましたね。J-Pop界のトップ・ランナーが長い沈黙を経て復帰したフル・アルバム。ここでOBKR氏の起用や、歌い出しをKOHHにする大胆な采配はサプライズでした。シングルごとに追い立てられていたであろう時期からは脱して、アルバムとしての目線が強い一枚になっているように感じます。タイアップとかもありますが、単曲の強さというよりも全体の雰囲気。まさに〈気配〉とはやっぱりうまいです。先行シングル“桜流し”後半のカタルシスも、本作においては違って聴こえます。親切すぎないところがある意味とても親切。

 

SOLANGE A Seat At The Table Saint/Columbia(2016)

 こちらのMVにも一部砂丘。ビヨンセの妹なんてことはすっかり忘れて聴いていましたが、アルバム全体の静謐かつパッション溢れる仕上がり、MVの5億点超え感、言うことありません。“Don't Touch My Hair”でサンファが出てくるところ、めっちゃブチ上がってしまいます。けっこうビートにフォーカスが行ってるところであったり、現れては消えるシンセサイザーや生楽器のサウンド・デザインがとても素敵。

 

Campanella PEASTA MADE DAY MAIDER/AWDR/LR2(2016)

 イヴェント〈砂丘〉前にフランク・オーシャンの新作が世界を席巻(日本ではそこまで話題になったのかは謎ですが)していましたが、実はテンション的にわりと近いアルバムなんじゃないかと思っているのがコチラ。RamzaFree Babyronia両氏の、誰でも乗りこなせるようなものではないシンプルかつトリッキーなトラック。それを乗りこなすだけでなく、ちゃんとラッパーとして応えるCAMPANELLA氏のスキルが際立ちます。アルバム・タイトルが地元のショッピングモール〈ピエスタ〉の名前というのがまた。郊外のオアシス。

 


tofubeats(トーフビーツ)
90年生まれ、神戸在住のトラックメイカー。自身の『POSITIVE』はもちろん、G.RINASALUSMAP矢野顕子スカイラー・スペンスライアン・ヘムズワースらの楽曲を手掛け、Eテレで毎週土曜に放送のTVアニメ「クラシカロイド」ではモーツァルト曲をプロデュースしています。また、SUEMITSU & THE SUEMITHのニュー・アルバム『Bagatelle』(cutting edge)では“Pinocchio”のアレンジを担当。諸々の最新情報は〈https://tofubeats.persona.co/〉で確認を!