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HOW TO MAKE POP MAESTRO
冨田サウンドを形成する音楽たち

 冨田恵一のルーツを遡ろうとすると、いの一番に挙がってくるのが名匠ヘンリー・マンシーニ。映画音楽がジャズやポピュラー音楽の要素を採り入れて作られるようになった時代に名を成した、代表的な作曲家だ。高度に洗練されたメロディーもさることながら、めくるめくハーモニーワークの美しさも冨田少年の心を捉えた。映画音楽系ということでは、GRPの社長だったデイヴ・グルーシンも冨田のお気に入りのひとり。デイヴがプロデュースしたフュージョン~クロスオーヴァー系の諸作品は、冨田の青春時代に多大な影響を与えている。

 〈冨田恵一は日本のバート・バカラック〉なんていうキャッチフレーズもかつては頻繁に使われていたように思うが、複雑なコード展開や特徴的なストリングスの使用方法などに相通じるところがある。そんな冨田サウンドのキモ=流麗かつエレガントな弦アレンジにおいて、もっとも影響を与えたと思われるのがクラウス・オガーマンだ。彼が手掛けたアントニオ・カルロス・ジョビン“Wave”やジョージ・ベンソン“Breezin'”などを聴けば、冨田サウンドの源泉を発見することができるだろう。

 プレイヤー面での重要人物なら、〈Mr.335〉の愛称で知られるラリー・カールトンが筆頭格。ギブソン愛が強い冨田のプレイからは、この名ギタリストへのシンパシーがひしひしと感じられる。ひょっとすると、マイケル・フランクスをちょっと下手にしたような繊細な味を醸すヴォーカルにも影響を受けているかもしれない。さらにフュージョン系ということでは、スティーリー・ダンの音楽も欠かせない。ポップス界の偏執狂とも言える彼らの完璧な録音作品は、冨田ラボの音楽を読み解くうえで必須のテキストとなるだろう。

 あとブラジル音楽についても触れねば。彼がフェイヴァリットとして名を挙げるのは、クインシー・ジョーンズが世界に向けて紹介したMPBの代表的アーティスト、イヴァン・リンス。複雑にして調和の取れたメロディーや魅惑のリズムなど、曲作りの面での影響が大きそうだ。

 そして最後に、日本のアーティストでは吉田美奈子を代表として挙げたい。特にジャズ~フュージョン系のミュージシャンをバックにソウルフルなサウンドを追求していた時代の彼女は、冨田の心をガッチリ捉えている。 *桑原シロー