ソニー・ロリンズウェイン・ショーターに並ぶ伝説的なサックス奏者、チャールズ・ロイドが2017年1月12日(木)~14日(土)にブルーノート東京へ登場。30年ぶりにブルー・ノートから発表した2015年の『Wild Man Dance』に続いて、今年に入っても最新作『I Long To See You』をリリースするなど精力的に動く重鎮が、新ユニットのマーヴェルスを率いて来日する。そのマーヴェルスには鬼才ギタリストのビル・フリゼールに加えて、ルーベン・ロジャース(ベース)にエリック・ハーランド(ドラムス)という現代ジャズの実力派が参加しており、新年早々から凄まじいステージが繰り広げられることになりそうだ。今回は音楽評論家の村井康司氏に、現在のチャールズ・ロイドと来日公演の展望を解説してもらった。 *Mikiki編集部

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アメリカーナを探求する鬼才たちの邂逅

2016年の春、ブルー・ノートからリリースされたチャールズ・ロイドの新作『I Long to See You』をレコード・ショップで見つけたとき、参加メンバーを見て僕は驚いてしまった。なんと、わがフェイヴァリット・ギタリストのビル・フリゼールが参加し、フリゼールと何度も共演している名手グレッグ・リーズがスティール・ギターで加わり、リズム隊は2007年からロイドのバンドにいるルーベン・ロジャースとエリック・ハーランドなのだから。しかも、ウィリー・ネルソンノラ・ジョーンズが1曲ずつゲストで歌うというゴージャスな趣向だ。何のためらいもなくCDを買い、さっそく聴いてみた内容は期待以上の素晴らしさ。個人的には、2016年のベスト・アルバムはこれなのです。

CHARLES LLOYD & THE MARVELS I Long To See You Blue Note/ユニバーサル(2016)

メンバーと演奏もさることながら、選曲も実に興味深い。ボブ・ディランの“Masters Of War”(戦争の親玉)、伝説的フォーク歌手エド・マッカーディーの“Last Night I Had the Strangest Dream”(平和の誓い)といったプロテスト・ソングや、“Shenandoah”“All My Trials”(私の試練)“Abide With Me”(讃美歌39番〈日暮れて四方は暗く〉)“La Llorona”(泣き女)などアメリカのフォーク・トラディショナルの数々、ロイドの60年代のオリジナル曲、そしてビリー・プレストンが作り、ジョー・コッカーの名唱で知られる“You Are So Beautiful”。南部のブルースのメッカであるメンフィスに生まれ、アフリカン・アメリカン、チェロキー・インディアン、アイルランド、そして黄色人種の血も混じっているというロイドは、さまざまな人種が混在するアメリカという国を象徴するような音楽家だ。その彼がカントリーや黒人霊歌などのアメリカの伝承曲を採り上げるのは必然的なことなのだろう。

ボブ・ディランはアメリカのフォーク・ソング(伝承民謡)のことを、このように表現している。〈行動も美徳も昔のスタイルで、神の裁きが人の身にふりかかってくる世界。アウトローの女と強力な悪漢と悪魔崇拝者とキリストの教えの真実が織りなす文化〉(「ボブ・ディラン自伝」菅野ヘッケル・訳)。音楽評論家グリール・マーカスが言う〈古くて不気味なアメリカ(Old Weird America)〉の深みに、ロイドは自分なりの方法で降りていこうとしたのだろうか。

『I Long to See You』収録曲“Masters Of War”
 

そして、その果敢な試みのための最良にして最強の助っ人、それがビル・フリゼールだ。ジャズ、サーフ・ミュージック、ハード・ロック、アヴァンギャルド音楽、ブルース、そしてカントリー。フリゼールはありとあらゆるアメリカ音楽に精通し、それらのミクスチチャーを強烈な個性で表現する、まさに〈アメリカーナ〉なギタリストだ。ロイドとフリゼールは2013年に初めて共演し、フリゼールはロイドが66年に結成して当時のロック・ファンたちに熱い支持を受けたバンド(言うまでもなく、そのバンドには若き日のキース・ジャレットジャック・ディジョネットがいた)の大ファンだった、ということもあって意気投合したとのこと。

その当時からロイドの音楽は、モード・ジャズ、ロックやポップス、ボサノヴァ、フォーク・ソングなどの要素が入り混じったハイブリッドなものだった。70年代にスタジオ・ミュージシャンとしてビーチ・ボーイズなどの録音に参加していたことも含め、ロイドは長い時間をかけて彼自身の〈アメリカーナ〉を探究してきたとも言えるだろう。一見地味なこの2人の出会いは、実はジャズ界、いや音楽界における大きな事件なのではないかと僕には思える。

チャールズ・ロイド、キース・ジャレット、ジャック・ディジョネット、ロン・マクルーアによる68年のライヴ映像
ビル・フリゼールの2016年のソロ・パフォーマンス映像

 

実力派リズム・セクションが支える、アグレッシヴな最新モード

バンドを支えるリズム・セクションの2人は、現在のジャズ界の中核に位置する腕利きたちだ。ベースのルーベン・ロジャースは74年、ヴァージン諸島セント・トーマス生まれ。バークリー音楽大学を卒業後、マーカス・ロバーツジョシュア・レッドマンダイアン・リーヴスなどのバンドで活躍し、特にジョシュアとの活動でシーンを代表するベーシストのひとりと目されるようになった。ウッドもエレクトリックも弾くロジャースは、このマーヴェルスではエレクトリック・ベースを主に弾いている。

ドラムスのエリック・ハーランドは78年テキサス州生まれ。デイヴ・ホランドテレンス・ブランチャードテイラー・アイグスティアーロン・ゴールドバーグカート・ローゼンウィンケルクリス・ポッター、ジョシュア・レッドマン率いるジェイムズ・ファームなどなど、いまもっとも活きのいいジャズ作品に数多く参加しているファースト・コール・ドラマーのひとりだ。リーダー作も2作あり、2014年作『Vippassana』は幅広い彼の音楽性が全開になった傑作。なお、ハーランドのクァルテットは2017年3月に東京・丸の内コットンクラブで公演することが決まっており、こちらの公演も楽しみだ(詳細はこちら)。

この2人はピアノのジェイソン・モランと共に、2007年からロイドのグループで活動している。60年代にはキースとディジョネット、80年代にはミシェル・ペトルチアーニを見い出したロイドのタレント・スカウトとしての目利きぶりは、21世紀に入っても健在だ。

チャールズ・ロイド、エリック・ハーランド、ジェイソン・モラン、ルーベン・ロジャースによる2010年のライヴ映像
エリック・ハーランドの2014年作『Vippassana』収録曲“Relax”
 

ロイドとマーヴェルスのライヴは、2016年1月30日のNYはリンカーン・センターでの映像がYouTubeにアップされている。そこにはグレッグ・リーズも参加しているが、リーズのいない今回の公演ではフリゼールの役割がより大きくなり、スティール・ギターの役割も加味した変幻自在な演奏を聴かせてくれるのではないか。切れの良さと反応の速さが気持ちいいハーランドのドラミングも、2016年のライヴ活動を通じてさらにアグレッシヴになっているのでは、と思える。2017年の初頭からこんなにわくわくするライヴを体験できるとは、まったく〈こいつは春から縁起がいい〉であります。

 

チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルス featuring ビル・フリゼール
with ルーベン・ロジャース&エリック・ハーランド

日時/会場:2017年1月12日(木)~14日(土) ブルーノート東京
開場/開演:
〈1月12日(木)~13日(金)〉
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
〈1月14日(土)〉
・1stショウ:16:00/17:00
・2ndショウ:19:00/20:00
料金:自由席/8,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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エリック・ハーランド・クァルテット
- ヴォヤージャー –

日時/会場:2017年3月10日(金)~12日(日) 東京・丸の内コットンクラブ
開場/開演:
〈3月10日(金)〉
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:00/21:00
〈3月11日(土)~12日(日)〉
・1stショウ:16:00/17:00
・2ndショウ:18:30/20:00
料金:自由席/6,800円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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PROFILE
村井康司(むらい・こうじ)
音楽評論家。尚美学園大学講師。1958年北海道生まれ。ジャズを中心とした評論活動を行う。著書に「ジャズの明日へ」「JAZZ 100の扉」などがある。