FURIOUS MUSIC 8
[緊急ワイド]ワイルド・スピードの音楽
またも大ヒットが期待されるサントラを隅々まで味わってみよう

 


(C)UNIVERSAL STUDIOS

映画本編と不可分なサントラ

 最近だとひと頃ほどその傾向は目立っていないものの、映画のサウンドトラック盤が、本来のスコア集/使用曲集という意味合いから大きく拡大され、ある一群のショウケースやコンピレーションとして機能することは多い。一時は映画で未使用の音源が並んだ〈インスパイア盤〉のようなものも世に出ていたものだが、そうした傾向はそもそも90年代半ば頃から2000年代初頭にかけて顕在化してきたものだろう。当時はUSメインストリームにおいてR&B/ヒップホップが中核となりはじめた最初の時代。そんな背景ともシンクロする形で、多くのラッパーやシンガーが映画に付随したりしなかったりする〈サントラ生まれ〉のヒットを連発していたのだ(ウィル・スミスやLLクールJ、クイーン・ラティファなど、銀幕デビューを飾るラッパーが多かったこととも関係あるのかも)。

 そして、〈ワイルド・スピード〉のサントラが常に注目すべき内容になっているのは、そんな時代にシリーズが始まったからこそ、という背景もある。前のページで触れたように作品のアイデア自体がVibe誌(クインシー・ジョーンズが発起した、アーバン・ミュージック/エンターテイメント専門誌だった)の記事にあったことはともかく、シリーズ第1弾「ワイルド・スピード」(2001年)のサントラは飛ぶ鳥を落とす勢いだったマーダー・インクからのリリースで、本編には同レーベルの稼ぎ頭であるジャ・ルールも出演していた。続編となる「ワイルド・スピードX2」(2003年)では現在も〈ファミリー〉に名を連ねるR&Bシンガーのタイリース、ラッパーのリュダクリス(実質的な初の映画出演だった)も登場し、以降のシリーズでもバウ・ワウやドン・オマール、テゴ・カルデロンといったアーティストの出演が多いのは、作品全体の備えたストリート色が、その音楽と不可分なものだったからだろう。

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 だからして、〈ワイルド・スピード〉のサントラはレーベル・ショウケース的な作りであっても、作品のカラーから逸脱することはそうなかった。物語の舞台や内容によって傾向が変わることもありつつ、基本軸にあるヒップホップからラテン~レゲトン、EDMまで各時代ごとのフレッシュで刺激的なサウンドが単純に詰め込まれているのだ。その最上の形となったのがアトランティックにリリース元を移した「ワイルド・スピード SKY MISSION」(2015年)のサントラで、ここからはレーベル激押しの新人だったチャーリー・プースにフックを委ねたウィズ・カリファの“See You Again”がその年を代表する爆発的なロング・ヒットに成長。そこからプースの成功が始まったのは言うまでもないが、他にもヤング・サグやケヴィン・ゲイツら翌年ブレイクするアトランティック絡みの有望株がプッシュされていたことも見逃してはならない。ここでの成功が、今回の「ワイルド・スピード ICE BREAK」ではさらに追求されているのだ。

 

ラインナップされた今年の顔たち

VARIOUS ARTISTS The Fate Of The Furious Atlantic/ワーナー(2017)

 トラックリストを見ただけでもすぐに気が付くのは、ラッパーたちの豪華コラボが増えてさらにヒップホップ色が濃くなったうえ、その顔ぶれが一段とフレッシュになっていること。このページにはサントラ参加メンツのジャケを掲載しているが、ミーゴスやヤング・サグ、リル・ヨッティ、ポスト・マローンら現行シーンを代表する気鋭のスターをはじめ、ウィズ・カリファからG・イージーまですでに実績のあるトップ級の顔ぶれがズラリと並んでいることもわかるはずだ。ただ、それと同時に、USヒップホップを普通に追っている人なら、収録曲でキーとなる連中の何人かは、まだオフィシャル盤を出していなかったり、CDが未発だったりすることにも気付くかもしれない(掲載したヤング・サグのミックステープはアナログ盤だ)。そして、彼らの多くがアトランティック所属の新進ラッパーたちなのである。

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 まず注目すべきは“Go Off”でクアヴォ(ミーゴス)&トラヴィス・スコットとマイクを回すリル・ウージー・ヴァートか。フィラデルフィア出身のフレッシュマンである彼は、ヤング・サグやグッチ・メイン、エイサップらとの共闘で名を売ってアトランティックと契約し、ミーゴスの全米No.1ヒット“Bad And Boujee”でさらなる箔付けに成功。いまはまさにソロ・チューン“XO Tour Llif3”をヒットさせているタイミングでもあり、まさに最有望株のひとりなのは間違いない。

 で、同じフィリー出身ではPnBロックも外せない。彼は歌うようなフロウを武器に昨年の“Selfish”が愛され、今年に入って初のオリジナル・アルバム『GTTM: Goin Thru The Motions』(ジョデシィ好きらしい表題)をヒットさせてもいる人。“Gang Up”と“Horses”の2曲に参加している点からもアトランティックのプッシュぶりは明白だろう。

 さらに、その“Horses”に名を連ねるコダック・ブラックとア・ブギー・ウィット・ダ・フーディーもアトランティックが青田買いした有望新人だ。フロリダはポンパノビーチ出身のコダック・ブラックは“Tunnel Vision”もヒットしている弱冠19歳のトラッパーで、初のアルバム『Painting Pictures』を余裕で全米3位を叩き込んだばかり。一方のア・ブギー・ウィット・ダ・フーディーは、“My Shit”のヒットを生んだミックステープ『Artist』に前後してアトランティック入りし、今年の躍進が期待されるブロンクスの俊英だ。

 また、エクスクルーシヴではないものの、バトンルージュ出身のNBAヤングボーイ改めヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインによる“Murder(Remix)”も注目。これは昨年のミックステープ『Mind Of A Menace 3』が初出となる曲で、当の彼自身がまさに殺人罪で逮捕されて裁判中……という笑えないトピックまである。客演したアトランタの21サヴェージはドミニカ系のフレッシュマンで、今年に入ってエピックと契約したばかりだ。

 そのような新進も含め、サントラに並ぶのは今年のアーバン界隈を代表するであろう名前ばかり。最終トリロジーを迎えた映画本編は2019年と2021年に続きの公開が予定されているが、つまりはそれと同じスパンで刺激的なサントラが届けられるということでもある。まずは今作を堪能しつつ、楽しみにしていたい。 

主要キャストの最新アルバム。

 

関連盤を紹介。