“汚れた夜 ―暗夜行路篇―”

――次は青さんの曲で“汚れた夜 ―暗夜行路篇―”。これはラテン・ジャズですかね。

桜井「先に配信で出すものとアレンジが違うという。あの~、小幡洋子さんが歌った『魔法のスターマジカルエミ』の主題歌で“不思議色ハピネス”っていう曲があるんですけど、これがめちゃめちゃカッコイイんですね。80年代の真ん中ぐらいのアニソンだから歌謡曲じゃないけどロックでもない、すごくいい時代のポップスで、サビ始まりの構成も素晴らしいんですけど、それが小幡さんのソロ・アルバム(85年作『PEARL ISLAND』)ではジャズ・アレンジになっていて、もう大人の曲になっちゃってるんですよ。ああ、こういうのいいよねって。あとはちあきなおみの“夜へ急ぐ人”もそのパターンですよね。それで、うちも最初にあった配信用のアレンジに対してアルバムのほうはジャズにしてみよう!と思ったら、大家君が参加してくれたのが大きいと思うんですけど、ジャズというかラテンになったっていう(笑)」

――歌詞はわかりやすいですよね。春を売る方々が主役と言いますか。

桜井「単純に、男でも女でもあの手この手で身を切り売りして生きている人たちって、凄くがんばってるなっていう。大した理由とか意味はないんですけれど、僕、そういう人たち好きなので。この曲、ラテンな感じっていうのもcali≠gariでは珍しいんですけど、歌詞も自分らしくないことを書いてるんですよ。〈燃え上がれ!〉とかね。まあ、15周年じゃないですか。それでちょっと初心に戻って。みんな〈密室系〉とか言ってくれるけど、その正体ってよくわからない。何が密室系なんだかっていう。それで、昔の自分が書いてた曲とかを〈こんな感じだっけ?〉って思い出してみたり。歌い出しが〈ゲロにまみれた横町〉とか、うち以外はやらないんじゃないかって、そういうことを考えて作りました。あと、いろいろ小ネタは入れてありますよ。〈不幸せという名の猫がいる〉とか最高じゃないですか。ずっと使いたかったんですけど、もう〈ここしかない!〉と思って。浅川マキですよ」

 

“トイレでGO!”

――そんな“汚れた夜 ―暗夜行路篇―”と続く“トイレでGO!”がアルバムのリリース前に先行で公開される2曲です。

桜井「メジャーで15周年を迎えるにあたって、みたいな曲は誰もやらないだろうから、僕がやっといたほうがいいだろうっていう」

――高速スカ・ビートの、ずいぶんコミカルな猟奇ソングといいますか。

桜井「“君が咲く山”(2000年)とか“マグロ”(2002年)って今も人気じゃないですか。でも、ぶっちゃけ僕、ライヴではあんまりやりたくないんですよ(苦笑)。だけど、その流れの“トイレでGO!”はOKなんです。今の、復活したcali≠gariで作ったからいいのかもしれないですね」

――この路線の楽曲は久々ですけど、“トイレでGO!”を聴いたとき、他のお2人はどうでした?

石井「青さんの歌、超おもしろくないですか? 〈店員さん!〉のところとか。パイプの詰まり凄い効く〈やつ〉と物がよく切れる〈やつ〉って歌詞も最高すぎて。ここはちょっと歌いたかったなって思いましたもん」

――楽しそうに歌われてますよね。

桜井「あくまでもポップに。ホントは石井さんに全部歌ってもらおうと思ってたんですけど、無理だなと思って。だったら掛け合いっぽくのほうがおもしろいかな?って。あと、お客が楽しんでくれそうなレクリエーション要素も入れてるっていう。“アブラハムの子”とかは幼稚園の子たちが遊ぶときの曲だし、“あぶくたった”もそうだし。レクリエーションと言いつつ、“あぶくたった”はそのものが十分すぎるほど猟奇な歌なんですけど。食べちゃいますからね、人を」

――童謡は結構怖い曲も多いですもんね。

桜井「多いですよ。“はないちもんめ”もそうだし。まあ、そんな横道は置いといて、この曲はわかりやすいテーマですよね。リアルにあった話だし。ネタ的に、いろいろな事件を混ぜてるんで」

――はい、モチーフはさまざま浮かびますね。

桜井「〈なんて今日はいい日なんだろう!〉っていうところが、喜怒哀楽のどれで言ってるんだっていう解釈で意味合いが変わってくるっていう。歌詞はこんな感じだけど、当事者たちがどんな関係だったかで読み方が変わってくるので。今回、PVなんかはDVを受けていた主人公が耐えられなくて相手を殺してしまって処理する、っていう哀しいお話に出来てるんですけど、そういう設定じゃなければまた違う話になるかもしれないし」

――ああ~、そうですね。

桜井「あと、テーマは全然違うんですけれど、“トイレでGO!”を作るときにこの映画がすごい役に立ったんですよ。観て、〈ああ、これだ〉って思っちゃったの。『無垢の祈り』(平山夢明原作、亀井徹監督による2016年公開作品)。絶対映像化できないだろって言われてた映画なんですけれど。ヤバイですよ」

――公開時、絶賛の感想をあちこちで見かけた記憶があります。観るには勇気が要りそうで、私は未見なんですが……。

桜井「そんなにエロくはないです。普通のスプラッター程度です(映画の詳細な説明は途轍もなくR18のため割愛)。……で、〈これはキてる!〉と思って(笑)。cali≠gariだったらこういうシチュエーションもいいかもね、って。結果的に、そのあと八王子ホスト殺人とかが出てきたから全然“トイレでGO!”との関連性はないんだけれど、作るきっかけになったっていう」

 

“色悪”

――そして次は石井さんの“色悪”です。

桜井「いい歌詞ですよね。〈この惑星の闇に隠れた嘘のような悪夢/君だけの輝く宇宙に蠢いた色悪〉。すごいじゃないですか」

――大絶賛されてます。

石井「じゃあこの曲、青さんにあげます(笑)」

桜井「銀色夏生でもこれは書けないんじゃないかって」

――これは、石井さんのいつものテーマ、〈生きて死ぬ〉みたいな内容かなと。

石井「あ、そうです。いつでもそうです。こないだ青さんにも言われましたけど、〈また全部同じこと言ってるね〉って。そうなんですよ(笑)」

――そこは一貫してますよね。メランコリックなギターと秦野猛行さんの冷たいシンセが全編を引っ張っている曲ですが、音的な狙いどころはありました?

石井「アルバムの中心になるような強烈な曲は青さんが作っていたから、俺はアルバムの真ん中らへんに入るような普通の曲を一曲作ろうかなって感じですかね」

――今回のアルバムの石井さん曲は速めのものが多いなか、テンポもミディアムですし、この曲だけタイプが違うといいますか。

石井「そう、最初はもっと遅くて、ポーティスヘッドみたいな感じの曲にしようと思ってたんですよ。それが作ってくうちにだんだん変わってって」

――深めの音作りにその片鱗が残ってるかもしれないですね。

石井「あと、この曲は青さんが半分ぐらい歌ってますよ。Bメロとか、サビも」

――ファルセットの部分ですね。

桜井「はい。レコーディングのとき、その場で決められました。〈マジですか?〉って言いながら歌ってみたら難しかった(笑)」

――ギターも、歌いながら弾く部分が難しいってニコ生でおっしゃってましたよね。

桜井「それは文明の利器がなんとかするから大丈夫です」

 

“三文情死エキストラ”

――(笑)では、ライヴのときのお楽しみということで。で、次は“三文情死エキストラ”。これは詞が青さん、曲が研次郎さんと青さんの共作、編曲が研次郎さんということですが。

村井「そうですね。これはcali≠gari用に作ったもので。もう10年ぐらい、こういうのやってないじゃないですか。やらないまま歳取っちゃうのかなって。今のうちにもう一回やっといたらいいかなって」

――歌謡曲とビッグバンド・ジャズが混じったような曲ですね。

村井「ちょっとシャッフルでね。再結成してからはこういう曲、一曲もないと思うんですけど。90年代とかはいっぱいあったじゃないですか。スウィングしてる感じとか」

――この曲は林さんのピアノがとても効いてます。

村井「林さん、この春から渡辺貞夫グループの一員ですよ」

――あ、そうですよね。

村井「彼は10代からプロでやってて、cali≠gariでも“東京ロゼヲモンド倶楽部”(2002年作『第7実験室』に収録)とかで弾いてもらってるんですけど、ついに世界のナベサダのメンバーに抜擢って、俺、そんな人にこんな曲頼んでいいのかなって。“ゼロサムゲーム”とか、営業妨害にならないのかなって(笑)」

――(笑)。そして、作曲は青さんとの共作で。

桜井「まあ、いつもは研次郎君が持ってきたものを好きなように作り変えたりしてるじゃないですか。今回はほぼそのままなんですよ。ただ、研次郎君がいちばん最初に入れてきた仮メロが“ギャランドゥ”(西城秀樹の83年のシングル)で、あれ、ものすごくよく出来たメロディーだから、メロ作りは頭の中から“ギャランドゥ”を追い出すところから始めなくてはならなくて。だから、これはちょっとおもしろい作り方をしたんですよ。メロに合わせて、歌詞を同時に書いていくっていう。歌詞を一行書くごとにメロディーが決まってくんですよ」

――それって時間がかかりそうですね。

桜井「それが、そうでもなかったんですよ。書こうしてることは決まってたから、じゃあこのやり方でいいかなって。みんながライトに〈死にたい、死にたい〉って言ってるようなことを、書いてみましょうみたいな」

――モチーフは〈不倫と心中〉で。

桜井「単純に僕、某小説が嫌いなだけですよ(笑)。ハーレクインロマンスを難しく書いてるだけかなって。僕、太宰治って、作品は結構好きなんですけど、生き方にはまったく同調できないんです。まあ、自由だなとは思いますけど。いちばん笑える死に方したのって太宰治だと思ってるんで、その某小説のことは、太宰と同じようなことをまさかここでやるなんて、って。もう大爆笑じゃないですか」

――このあとの“一切を乱暴に”もそうですけど、cali≠gariの皆さんは〈死にたい、死にたい〉って言う人に物申したい感じなんですかね。

桜井「あとは〈忙しい、忙しい〉ね」

石井「なんか、そういうことばかり言ってる人って、精神的にすごい健やかで、楽しいんだろうなって思うんですよ。ホントに死んでしまうような人だったら、そんなこと言わないですよ」

――ああ、確かに本当に追い込まれたらむしろ言わない……言えないか。

石井「うん。自分がホントにしんどい場面になったときに、〈死にたい〉って言うかなっていったら、そういうことは絶対に言わないからね」

 

“一切を乱暴に”

――そして次は、作曲が研次郎さんと石井さん、作詞と編曲が石井さんという布陣の“一切を乱暴に”です。

桜井「研次郎君が最初に曲を出してきたときは、スラッシュ・メタルみたいな感じだったんですよね」

――スラッシュ感は残ってますね。

桜井「元曲はツーバスだったんですけど、それを違う感じに持ってって。これ、石井さんが詞とかメロとか作ってるじゃないですか。編曲もね。なのに、石井さんはドラム録りに来なかったんですよ」

石井「正直、ドラムはもう刻んで使おうと思ってたんで、何でもいいやと思ってたんですよ(笑)」

――ああ~、録ってもらったものを素材として使おうと。

石井「そうそうそう。だったんですけど、青さんから〈何々っぽい感じにする?〉って言われたんで、〈ああ、それがいいですね〉って。それで、最初に自分が考えてたものとは別のほうへ一気に向かって言ったんですよ」

村井「いっつもそうですよ。僕はこういうつもりで作ってるけど、あとの解釈任せますねって感じ。この曲も最初は〈GASTUNKっぽいよ〉って言って、渡して」

石井「とはいえ、その曲自体も解釈次第でどっちにも転ぶような感じだったんですよ。GASTUNKというか、メタルって言われりゃそういうふうにも聴こえるし、パンクと言われりゃそういうふうにも聴こえるみたいなね、そこの解釈が青さんに言われて変わったっていう」

桜井「そういうふうに最初の段階で言っておかないと、誰がギター弾くんだって話なんですよ。ドラムが〈ドコドコドコドコ!〉ってやってるところはギターも刻まなきゃいけないじゃないですか。そんなの私はできませんよ、って(笑)。自分のできる範疇に落とし込めるように、最初の段階で舵取りをしておこうみたいな感じですよね。それにしても高速すぎたんですけど(笑)。手がおかしくなりました」

――スラッシーなファストコアといいますか。

石井「速い曲ってだけでカッコイイですよね。〈cali≠gari、速い曲やってんだぜ!〉って(笑)」

――(笑)突然何を言い出すんですか。

石井「いや、歳取ってくると、どんどんBPMが下がってくんですよ。そこにきて、こんな速い曲やってるんですよ? 四十何歳とかで。カッコ良くないですか?」

――カッコイイです(笑)。あと、歌詞についてですけど……。

村井「これね、知人に聴かせたら凄い心配しちゃって。〈なんでこんなに怒ってるの?〉って」

石井「いや、そういうことではないですよ。なんか、〈死ぬ死ぬ〉って言いたい人に対して〈死ね死ね〉って言いたいみたいな。そういうのって健全じゃないですか」

――うん?

石井「えっとね、〈本当に死ぬまで何回でも死ね〉ってことを言ってるんですよ。さっきの青さんの話じゃないけど、〈もう死にそう〉とかみんな言うでしょ? それに対して、ホントに死ぬまで何回でも言ってろ、ずーっと言ってろってことですよ」

――ああ、つまりは逆に……。

石井「ずーっと元気で生きてねってことを言ってるんですよ、意味としては。〈暗い〉とか〈死〉とか〈13〉っていうのをパロったつもりのものですね」

――なるほど!