新時代のジャズ・ガイド「Jazz The New Chapter(以下JTNC)」で旋風を巻き起こした気鋭の音楽評論家・柳樂光隆が、人種/国籍/ジャンルなどの垣根を越境し、新たな現在進行形の音楽をクリエイトしようとしているミュージシャンに迫るインタヴュー連載。登場するのは、柳樂氏が日本人を中心に独自にセレクト/取材する〈いまもっとも気になる音楽家〉たちだ。
連載第2回はスペシャル企画。これからもっとも注目すべき3人の若手ジャズ・ドラマーが一堂に会し、柳樂氏を交えてのスリリングなロング鼎談が池袋の素敵なカフェ・ギャラリー、KAKULULUにて実現した(お店のサイトはこちら)。次代を担う彼らの本音がたっぷり詰まった言葉の節々には、音楽的なルーツや旺盛な好奇心、共演への憧れや将来の展望に加え、閉鎖的なジャズ業界への問題提起も込められている。ほぼノーカットとなる1万字超え×2の超濃厚トーク、今回はその前編を公開する。(Mikiki編集部)
今日、刺激的な音楽に触れたければ、ジャズ・ドラマーから目を離すわけにはいかない。 海外のシーンに目を向けると、テイラー・マクファーリンがマーカス・ギルモアを、ディアンジェロがクリス・デイヴを、そして、フライング・ロータスがロナルド・ブルーナーJr.やジャスティン・ブラウン、さらにはケンドリック・ラマーまでもがロバート・スパット・シーライト(スナーキー・パピー)といった名ドラマーを起用し、作品を成功へ導いたのは記憶に新しい。いま挙げたアルバムには、ほかにもロバート・グラスパーやサンダーキャットをはじめとした、多くのジャズ・ミュージシャンが関わっている。彼らがその場のインスピレーションで瞬時に紡ぎ出すビート、即興演奏がいままさに時代を切り拓いているのだ。
マーク・ジュリアナ、エリック・ハーランド、ケンドリック・スコットといった面々も新鮮なリズムを供給し続けている。ジャズやそれ以外の音楽でも、彼らの名前がクレジットされている作品はそれだけで聴く価値があると言い切れそうなまでの活況だ。では一方で、世界屈指のモダン・ジャズ消費国として知られる日本の音楽シーンではどうなっているのか。その答えを求めるために、上述したドラマーたちと同世代のキーマンに集まってもらうことにした。
自身が立ち上げたバンド、Yasei Collectiveで早くから〈クリス・デイヴ以降〉のリズムを提示してきた松下マサナオ。テイラー・マクファーリンから、坪口昌恭や日野皓正といった日本のジャズ・レジェンドも共演者に指名する若手最強ドラマーの石若駿。そして、10代で渡辺貞夫と共演し、ジャズ・シーンの誰もが認めるトップ・ストレート・アヘッド・ドラマー、横山和明。おそらくジャズの枠を超えて、日本のあらゆるシーンを刺激していくであろう若手ドラマーに話を訊こう。

◎松下マサナオ
長野県飯田市出身。17歳でドラムを始め、大学卒業後に渡米し、現地の優れたミュージシャンたちと演奏を重ねながら2年間武者修行する。帰国後はストレート・アヘッドなジャズからパンク・ロックまで様々なジャンルで活動。エレクトロ、ジャズ、ロック、ヒップホップなどが融合されたNY音楽シーンのサウンドを国内で体現するべく、2009年にYasei Collectiveを結成。コラボレーションも精力的に行なっている。Mikikiでヤセイのメンバーによるブログ〈ヤセイの洋楽ハンティング〉を連載中。
【3人それぞれの転機と、意識する海外のプレイヤー】
――今日は3人ともスタイルが違うドラマーが集まっているので、それぞれがいま気になっているドラマーと、なんでそれを好きになったかをまず聞かせてほしくて。
松下マサナオ「俺は最近ルイス・コール(*)にハマってるんですよ。知ってます? LAのドラマー。ジェネヴィーヴ(・アルタディ)って女性ヴォーカルと2人でやってる」
――ノウアーでしょ? 「Jazz The New Chapter 2」にも載ってますよ。
松下「さすが。あいつはヤバい。マーク・ジュリアナとネイト・ウッドとキース・カーロックを足して、スクエアプッシャーで割った感じ。ダフト・パンクのカヴァーとかもやっていて、テクニックもあるし、エレクトロにも強いから機材のこともよくわかってる」
LA在住のシンガー/ドラマー/マルチ・プレイヤー。ブラッド・メルドー、故オースティン・ペラルタら一流ジャズメンとの共演歴を持つドラマーとしての顔 をはじめ、LAビート×ブライアン・ウィルソン的な宅録ポップのソロ作『Album 2』(2013)を発表したり、エレポップ・デュオのノウアーとしても活動するなど、さまざまなスタイルを使い分けて活躍する才人。
――松下くんがその辺を好きになり始めたのは、どういうきっかけで?
松下「全然ロックからですよ。最初はTHE YELLOW MONKEYが大好きで。未だに吉井和哉さんのバックでやるのが俺の夢ですから。いまでも別に、ジャズやってるっていう感覚も、ロックやってるって感覚もないんですよ。この2人(横山と石若)とは違うフォーマットでいま活動してるからってのもあるんですけど、俺が思うにジャズ・ドラマーよりいまのジャズを聴いてると思うし。まぁこの2人は別としてね」
――でもやっぱり、ジャズがやりたいって思ってた時期もあるんでしょ?
松下「いまでもやりたいですよ。ジャズ大好きですもん。でも別にジャズだけってわけじゃなくて、音楽全体のなかのカッコイイ一部みたいな感覚。カウント・ベイシー(*)とか最近よく聴いてますよ、メチャメチャカッコよくて」
〈スウィングの王様〉としてデューク・エリントン等と並び称される、ビッグバンド・ジャズの巨匠。84年没。(参考動画はこちら)
――(大学卒業後に)アメリカに行ってた頃って、どういうドラマーが好きだった?
松下「実は、最初からジャズをやろうと思っていたわけじゃなくて。最初の目標はスタジオ・プレイヤー。ジェフ・ポーカロ(*)みたいになりたかったんです。それでジェフ・ポーカロの父親について1年間習って、モーラー奏法っていうのをメチャクチャ勉強したんですよ。でも結局それは俺にはあまり必要ない事に気づいて、それ(演奏のクセ)を抜くためにもう1年アメリカに残りました」
TOTOの一員として著名なアメリカ人ドラマー。セッション・ミュージシャンとして10代から名を馳せ、その膨大なキャリアをまとめた「ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事」(DU BOOKS)も今年2月に刊行された。(参考動画はこちら)
――〈モーラー奏法が必要ない〉っていうのは、どういう意味で?
松下「スピードとか瞬発力とかと真逆なんです。もちろん使いますが一定のアクセントを持ったフレーズ叩くとき以外はほぼ使えません。あくまで俺の感覚ですけど。日本で教えてる〈嘘モーラー〉はもっとたち悪いですけどね」
――なるほど。
松下「それでアメリカにいたとき、エリック・ハーランドがジョシュア・レッドマンのトリオで(ベースの)ルーベン・ロジャースと一緒に演奏しているのを観たんですよ。まだ日本ではそんなに有名じゃなかった頃だと思うけど、それがもう、〈足速いやつっているんだな〉みたいな感覚が度を超えてましたね。演奏がもう、マラソンを100m走のタイムで走るやつが3人も同時にいるみたいな感じで。そのときの録音を聴くと、〈あぁ……〉〈うわぁ……〉とか俺が言ってる声がずっと入ってるんですけど(笑)、本当にそれくらい衝撃的でした」
――わはは。
松下「で、その週に立て続けにマーク・ジュリアナとかブラッド・メルドーのトリオとかのライヴも観て、〈俺こっちかも〉と思ったんですよ。そこからゴスペルのミュージシャンとも付き合いはじめて、こういう(ジャズへの)方向に行ったんです」
★「ヤセイの洋楽ハンティング」第1回 〈マーク・ジュリアナ編〉はこちら
★「ヤセイの洋楽ハンティング」第2回 〈ブラッド・メルドー編〉はこちら

◎横山和明
85年静岡県生まれ。幼少の頃より音楽に親しみ、3歳からドラムを始める。高校在学中にジュニア・マンス、渡辺貞夫と共演。2002年、渡辺貞夫カルテットの全国ツアーに参加した事をきっかけに本格的にプロ活動を開始する。高校卒業後に活動の拠点を東京に移し、以後、数多くのツアーやレコーディングに参加している。2004年より約10年に渡り、バリー・ハリスの来日公演のドラマーを務める。そのほかに、レッド・ホロウェイ、シーラ・ジョーダン等とも共演。誠実で落ち着いたドラミングには定評がある。
――横山くんがその辺に興味を持ったきっかけとそんなに遠くないね。横山くんも最初はエリック・ハーランド(*)でしょ?
横山和明「はい。最近のジャズ・ドラマーに興味を持ったのは、たぶん人より遅い方なんですよね。そういうものに対して壁を作るタイプだったから。ちょうど10年くらい前かな、エリック・ハーランドがアーロン・ゴールドバーグとルーベン・ロジャースとトリオで来日した時に観に行って。当時みんな〈エリック・ハーランドって凄いらしい〉って騒ぎ始めてたから、ふーんってノリで観に行ったら〈いままでごめんなさい〉って帰ってきました(笑)。当時の我が家にはパソコンもなかったし、世間から浦島太郎的に置いていかれてたんですけど、それからハーランドだけは、チャールズ・ロイドのバンドとかも好きだったし追いかけるようにしてました」
――そうなんだ。
横山「それで、我が家にもやっとパソコンが来てインターネットが出来るようになったから〈クリス・デイヴ(*)って人が凄いらしいから、ちょっとYouTubeで観てみるかー〉って調べてみたら、また〈いままでごめんなさい〉って。そこからロナルド・ブルーナーJr.とか、いろんなドラマーの演奏が関連動画に出てくるから色々と観ているうちに、〈凄い時代になったなぁ、いろいろ聴かなきゃだめだな〉って思い知らされましたね。ちょうど自分もそれまでやってきたこと以外の、外の物事に対して興味を持ち始めた時期だったのかも」
78年生まれでテキサス州ヒューストン出身(生まれ年と出身のどちらもロバート・グラスパーと同じ)。チャールス・ロイドやマッコイ・タイナーといった巨匠に寵愛される一方、ジョシュア・レッドマン、カート・ローゼンウィンケル、SFジャズ・コレクティヴなど現代ジャズのトップとも共演。 さらに昨年発表されたリーダー作『Vipassana』では〈『Black Radio』以降〉のアーバンなグルーヴも導入してみせたりと、今後も目が離せないジャズ・ドラマー。
73年生まれでテキサス州ヒューストン出身。今日におけるジャズ・ドラムの方向性を決定づけた、超絶テクニックを誇るドラマー。ロバート・グラスパー・エクスペリメント(現在は脱退)、ディアンジェロのバンドであるヴァンガードに参加するなどジャズ~ヒップホップ界で目覚ましい活躍を見せるほか、アデルの世界的大ヒット作『21』でも演奏している。自身が率いるバンド、ドラムヘッズのリーダーとしても活動中。
――いま名前を挙げてくれたドラマーの、どの辺が凄いと思った?
横山「まず、ドラムが死ぬほど上手い。ロナルド・ブルーナーの動画を見た時とか早回しかと思いましたもん。クリス・デイヴもそうだけど。それまで僕は技術的なことに興味/関心がなくて、自分の出来る事を少しずつ磨いてよくしていきたいってタイプだったんです。とりあえずいま持ってるものを何とか活かせたらと思っていて、まずはよいグルーヴ、よいスウィングってことしか考えてなかった。手足が速く動くとか、凄いフィルが叩けるってことには、10年前は本当に興味がなかったんですよ。なぜかっていうと、音楽的な部分と技術が直結してない人が多かったんですよね。手足はよく動くんだけど全然カッコよくないというか、自分達がやってる音楽と関係ない言葉で喋っちゃってるような感じ。音楽で必要とされてることと技術のバランスが上手くいってない。そういう人をよく見かけたし、だから僕には必要性が感じられなかった」
――なるほど。
横山「でもハーランドとかロナルド・ブルーナーは、ちゃんと音楽で必要なことをしているんですよ。例えばハーランドは、技術的な面ではフュージョンを通過してきた感じがするけど、だからって演奏はフュージョン臭い感じじゃない。彼がストレート・アヘッドなジャズをプレイしているときも、そういう素養を消化した上で、もう1~2段階も先のことをやろうとしているのは凄く伝わってくるんです。むやみやたらに新しいことをしようって人は彼らが登場する以前にもいたんだけど、長い音楽の歴史とかフィーリングをちゃんと踏まえた上で次にすべきことに取り組んでいる人がやっと出てきたのかなって、僕は当時思ったんですよね」
テンプテーションズやダイアナ・ロスらと共演した世界的ジャズ・ドラマーのロナルド・ブルーナー・シニアを父に、サンダーキャットことスティーヴン・ブルーナーを弟にもつ凄腕ドラマー。ロイ・ハーグローヴ、スタンリー・クラーク、ケニー・ギャレットら巨星との共演歴を誇りつつ、弟のソロ作にフライング・ ロータスやケンドリック・ラマー、カマシ・ワシントンの最新作など、LAシーンの最前線でもジャンルを超えて大きく尽力している。
――僕が〈JTNC〉を作ろうと決心したきっかけもそれなんですよ。「ジャズ・ミュージシャンって凄いんだぜ」みたいに堂々と書ける説得力が出てきたというか、テクニカルに偏った人達の芸じゃなくて、音楽のカッコよさとずば抜けた演奏力がきちんと繋がっているプレイヤーがようやく出てきたと思ったから。
横山「いろんなものが繋がったというか、そんな感じしますよね」
松下「俺らは教則ビデオの世代だけど、(石若)駿とかの世代との一番大きな違いはYouTubeですよ。下手したら昨日終わったばかりのスモールズとか55Club(NYの有名ジャズ・クラブ)のライヴ動画だって観れるわけでしょ。それって凄いアドバンスだからメチャクチャ羨ましい」

◎石若駿
92年北海道清里町生まれ、札幌市出身。13歳からクラシック・パーカッションを始め、2006年以降は日野皓正、渡辺香津美や山下洋輔といった大御所と共演を果たす。2009年に奨学生としてバークリー音楽院に留学。2012年放送のアニメ「坂道のアポロン」では川渕千太郎役でドラム演奏/モーションを担当。平成生まれの日本人ジャズ・ドラマーを代表するホープであり、クラシック/現代音楽の演奏も数多く行なっている。2015年に東京藝術大学音楽学部器楽科を卒業。
――石若くんはいま22歳でしょ。ドラムを始めた頃には、クリス・デイヴとかが既に活躍していた世代なわけだ。
石若「僕は小学校の高学年で札幌のビッグバンドに入ったんですけど、そのビッグバンドが結構コンテンポラリーで新しめな事をやるバンドだったんですね。それで流行ってるジャズを聴こうと思って、タワレコとかでリサーチしたりしてました。まだ自分が小学生とか中学生の頃から、〈もしかしたらジャズの長い歴史の最先端に、自分達はついていってるのかもしれない〉みたいな感覚で、自然とやってましたね」
――そのビッグバンドではどういうことをやってたの?
石若「マリア・シュナイダーとかそういうことじゃないんですけど、ビッグバンドの為に作曲してる人達の新しい作品を毎年アメリカから取り寄せてやってましたね。だから逆に、(ビッグバンドの定番レパートリーである)カウント・ベイシーとかデューク・エリントンの曲は本当にちょっとしかやってなくて」
――留学中はどんな感じだったの?
石若「高校2年のときにバークリー音楽院に短期で留学したんですけど、そこにはゴスペルのチームがいたり、コンテンポラリーなフリージャズ寄りの人達がいたり、イエロージャケッツ(81年LA結成の有名フュージョン・バンド)のアンサンブルがあったりして。その景色を前にしたとき、自分はこの歴史の最先端にくっついていけるんじゃないかって思えたんです。ちょうどその頃にニューポート・ジャズ・フェスティヴァル(54年に初開催と長い歴史を誇り、ロードアイランド州ニューポートで毎年8月に催される野外ジャズ・フェス)に行く機会があって、ヴィジェイ・アイヤーのトリオやジョシュア・レッドマンのダブル・トリオをそこで観ました。その当時は、YouTubeとか〈Drummer’s World〉っていうジャズ・ドラマーのサイトをよくチェックしてましたね。だから、〈この人達と一緒に自分も成長してるんじゃないか〉っていう身近な感覚も抱きやすかったと思います」
松下「やっぱり俺らの世代とは全然ちがうね」
【参考動画】ヴィジェイ・アイヤー・トリオ、2014年来日時のライヴの模様。
ドラマーのマーカス・ギルモアは、テイラー・マクファーリンのアルバム/ライヴにも参加している。

【共演への憧れ、他ジャンルへのフックアップ】
――石若くんは去年の9月にテイラー・マクファーリンが来日したとき、サポートで一緒に演奏したのもかなり話題になったよね。最初にブレインフィーダーのイべントでテイラーが来日(2014年5月)したときはマーカス・ギルモアと一緒にライヴしたんだけど、2回目の来日公演では石若くんに白羽の矢が立った。なんで自分が選ばれたのか聞いた?
石若「(2回目の来日が決まった時)テイラーのほうで〈日本に誰かドラマーはいるのか?〉みたいな話になって、黒田卓也さんに相談がいったみたいなんですよ。それで黒田さんが候補を何人か挙げてくれて、テイラーがYouTubeでいろいろとチェックして。それで僕がアーロン・チューライっていうピアニストとデュオでやっている動画をたまたま彼が見て、〈これが今度のライヴでやりたいことに一番近い〉と判断して依頼に至ったと聞いてます」
ボビー・マクファーリンを父に持つサラブレッドで、ビートメイカー/ヒューマン・ビート・ボクサーとして活躍する俊英。2014年にアルバム『Early Riser』をブレインフィーダーより発表、グラスパーやサンダーキャットも参加するなど、最新のジャズ・シーンともリンクした同作は各所で絶賛された。(インタヴュー記事はこちら)
ホセ・ジェイムズのバンドでも活躍し、日本人で初めてブルーノートと契約したトランぺッター。2003年にNYへ渡り、ホセやグラスパーらとも交流をしながらジャズを学んだ。2014年にアルバム『Rising Son』を発表。(インタヴュー記事はこちら)
ドラムはマーカス・ギルモア
――あのときみたいに、もっと普段のフィールドとは違うところで演奏してみたいというモチベーションはある?
石若「メチャクチャありますね。〈ジャズ・シーンのいちドラマー〉っていうよりは〈石若駿〉として見られたいというか。自分を面白いドラマーと評価してくれるんだったら、いろんなところでコラボレーションしていきたいと常に思ってます」
――松下くんも、最近はジャズ・シーンの中にも入ってかき回してる感があるよね。
松下「そんな事ないですよ。実際、俺は柳樂さんが(〈JTNC〉を通じて)やろうとしているのと同じことをやりたいと思っているんです。たとえばジャズっぽいスタジオ仕事があると、絶対にちょっとフュージョン齧ってるみたいな連中に話がいくんですよ。そうじゃなくて、この2人みたいにガチなミュージシャンを本当は呼ぶべきじゃないですか」
――そうなんだよね。
松下「それがいま、そういう方法論というかルートがないんですよ。なぜなら、こういうガチな人達との繋がりがないから。ジャズ業界自体が外へフックアップされようって意識がなくて」
――横山くんも、いままでは硬派なジャズ・ドラムをずっとやってきたわけだけど。
横山「でも僕だって、言ってしまえば自分が好きなものは全部やりたいですよ。ただ僕は自分に自信がなさすぎるから、外の世界を覗いてはいるけど自分から積極的には行けないんですけどね。それは今後の課題として」
松下「覗き見はしてるよね」
――外の世界とあまり接点がないっていうのもある?
横山「そうですね。ジャズのコミュニティーにいるとその中は凄く狭いので。なかなかそこから外に繋がりにくいっていうのはあるとは思います」
――でも、そういう野心を持ち始めてるのは凄くいい流れだよね。
松下「絶対大事だよ。駿とかも外に出たいっていう野心の塊だし。だから、早くジャズ・シーンの外も見た方がいいと思う。何をどんなに自由にやっても絶対にジャズ界はこの人たちは干せないと思うし。この2人を干したら、ほかにサブがいないんですもん」
――そうかもしれない。たとえば、テイラー・マクファーリンが音楽ファンのあいだで騒がれて、サカナクションの山口(一郎)さんとかも最近のお気に入りに挙げて、それで気になってテイラーのライヴに行ったら石若くんが叩いてた。それでライヴが終わったあとに、「あの石若っていう日本人ドラマーは凄い!」って、ネットとか口コミで話題になる――そんな感じで、実力のあるジャズ・ミュージシャンがフックアップされるルートを僕は作りたいんですよ。今日持ってきたCDでも、ディアンジェロにフライング・ロータスやケンドリック・ラマーと、彼らの作品ってそういう繋がりがすごく機能しているじゃないですか。
★ディアンジェロ特集【from BROWN to BLACK】記事一覧はこちら
★コラム「FLYING LOTUS 『You're Dead!』再び“ジャズ”にフォーカス!多彩な音に溢れたロータス・ワールド」はこちら
★コラム「コンプトンで羽化した希望、ケンドリック・ラマーが新作『To Pimp A Butterfly』で伝えたいこと」はこちら
――ダフト・パンクの『Random Access Memories』もそう。70~80年代の音が出したいからオマー・ハキムをあえて使う、この音色でこのリズムが欲しいからこの人を使う、みたいなのが海外のハイエンドだとあるじゃないですか。日本もそうなってほしいし、そうなったときに〈使える〉ミュージシャンが誰かっていうことをジャーナリスト側としては名前を出して強調していきたいと思っていて。
松下「マスが小さすぎるんですよ。どのシーンももっと外に目を向けたほうがいいと思う。でっかい枠が海外にはあるんだから、たぶん」
――でも、少し状況も変わってきてるのかも。少し前に、mabanuaさんがくるりのツアー・ドラマーに決まったでしょ。その前にはGotchさんのバンドにも参加してたけど、いままで日本ではこういう動きってあんまりなかった。売れっ子のスタジオ・ミュージシャンが起用される機会は多かったけど、「いまコイツが面白いんじゃない?」って人を単独でピックアップしてバンドに入れるって動きがようやく出てきて、そういうのって健全だと思うんですよ。
松下「そうですね。というか、今後は純粋なスタジオ・ミュージシャンっていう存在そのものがたぶんなくなるんじゃないかな。昔は職人といえば村上"PONTA"秀一さんとか青山純さんとかだったけど、いまって2小節をグリッドにきっちり合わせて叩ける人が職人なんですよ。あとはコピーしてペースト。俺の知り合いにも何人かいるん ですけど、そんなのバーナード・パーディー(*)の音源を使った方が全然いい。その2小節のループを作る職人が、俺よりちょっと上の世代で2、3人いて、その人達が大御所のツアーとかも結構回してる。そのもっと上の世代には、〈上手い=フュージョン〉みたいな人達がいるわけで。あの層がもっと色々理解してくれたなら、日本の音楽はもっと良くなるかも!」
60年代から数多くの歴史的名盤に参加してきた、セッション・ドラマーの代名詞的存在。そのプレイは今日、サンプリング・ネタとしても広く愛されている。(参考音源はこちら)
――たしかに。mabanuaさんがピックアップされるような動きを見てると、「俺もやりてぇな」って思うでしょ?
石若「すげぇ思います」
――石若くんは、そのうち外から引っ張りだこになりそうですけどね。それこそ、くるりとかGotchさんみたいな感じでピックアップしていくバンドはこれから増えていくと思うし。
松下「惜しかったよな(笑)」
石若「そうなんですよ。僕くるり大好きなんですよね」
松下「知ってるよ。少し前に呑んだとき、〈俺、くるりに入りたいんですよ!〉って言ってたんだけど、そのときに俺はもうmabanuaが入ることを知ってたからさ(笑)」
石若「え、そのとき言ってくださいよ!」
松下「可哀そうだな、言えねぇなって思いながら〈いけるよ絶対!〉って言ってた
(笑)」

【グラスパーの衝撃、 ジャズ・ドラムの進化過程、日本と世界のあいだの時差】
――少し話は戻るけど、フライング・ロータスやディアンジェロ、ケンドリック・ラマーの新作ってみなさん聴きました?
松下「アメリカにいた頃からロータスは聴いてたけど、あの周辺の動きもジャズメンを起用したりでかなり面白いですよね。もう死んじゃったけど、オースティン・ペラルタのトリオもよく観に行ってました。ドラムがロナルド・ブルーナーJr.で。ツアーでドラムを叩いてるショーン・ホートンとはアメリカにいた頃にツイン・ドラムでセッションしてたんですけど、一昨年にサンダーキャットが来日した時も代官山UNITのライヴに呼んでくれて。やっぱり全然感覚が違う。ライヴハウスであんなに爆音で叩いたら、ホロウ・ボディーのベース使ってるしハウリングするに決まってるじゃん? でも叩くんですよ。それでハウるからベースを調整しているうちにライヴが終わる。そんな感じなんだけど、それも全部カッコよく見えちゃうんだよね。そういう連中が、普通にジャズ・ギグもやるっていうね」
ドラムはロナルド・ブルーナーJr.
――ディアンジェロの新譜のドラムとかはどう?
横山「僕はあんまり考えて聴かないからなぁ。良いアルバムだなぁって」
石若「やっぱりみんなJ ・ディラ好きだなって感じですよね。ループしてる感じを表現したいというか」
――フライング・ロータスも、凄く雑に表現すると〈レディオヘッド+J・ディラ〉みたいな感じありますもんね。
松下「たしかに。彼が日本でまだ売れてない頃のアルバムとかそんな感じですよね。リトル・ドラゴンも、最初に出てきた時は同じ枠組みで俺は見てました。ああいうバンド日本にいないからな。いまはまた違う感じでやってるけど、今度この3人でスリーマンやる時(※詳細は後述)のバンド、Za FeeDoはたしか〈リトル・ドラゴンの感じを日本でもやろうよ〉ってところから始めたバンドなんですよ」
グラスパーも好んでカヴァーする一曲で、『Black Radio』日本盤にもボーナストラックとして収録。
(キーボードはグラスパー、ドラムはロナルド・ブルーナーJr.)
――ケンドリック・ラマーの最新作もジャズメンがガンガン絡んで面白いことになってるじゃないですか。グラスパーも弾いてたし。
松下「俺のなかでは、グラスパーはやっぱりクリス・デイヴと一緒じゃないとダメなんですよね。グラスパーって〈ハービー・ハンコックの現代版〉とか色んな言われ方をしてますけど、あいつが凄いのってメンバーの起用とかそういうところにあって。もちろんグラスパーのプレイも凄いんだけど、やっぱりクリス・デイヴがいた頃が破壊的で全部良い。アラン・ハンプトンが入ってた頃のトリオも良かったし」
石若「最初はYouTubeもあの動画しかなかったですもんね」
アップロードされたのは2008年の3月31日。
松下「最初にエクスペリメントが日本に来た時って(2009年、会場は)コットンクラブだったでしょ。ウチのメンバー全員で観に行って、デリック・ホッジがベースを〈ボォッ〉て一音弾いたら、もう音がジャズのライヴハウスじゃなかった。すげぇ出てて。そこからはもう4人釘付けで観てましたね。あれ以降は一時期本気で追っかけたけど、ドラムが(マーク・コレンバーグに)代わってからはエクスペリメントではないんですよね。グラスパー・トリオでいいんじゃない、みたいな。クリス・デイヴが走っちゃうのをデリックが抑えて……みたいなのがやっぱりよかった」
横山「いまはそういうバランスの関係ではないですよね。もっとシュっとしてる」
松下「やっぱり猛獣がいないとつまんないんだよな。それは俺がドラマーだからじゃなくて、バンドの面白さとして。クリス・デイヴのドラムヘッズも、ライヴ中はドラムしか見えないんだよね。あのバンドが面白いのは、ピノ(・パラディーノ)はクリス・デイヴのほうを(演奏中)絶対に見ないじゃん。あれは本当に凄い。それで、曲が終わった後にニヤッとして。目視しても追いつけないのをわかってるから、全部耳で聴いてやってるんだろうな」
ジェフ・ベックやフーなどロック・レジェンドとも共演し、ディアンジェロなどネオソウル勢とも深い交流をもつセッション・ベーシスト。ホセ・ジェイムズがネオソウル的な意匠に接近した13年作『No Beginning No End』のプロデュースを手掛け、ディアンジェロの新作にも参加している。クリス・デイヴのバンド、ドラムヘッズの一員でもある。
――ドラマーが代わってからのエクスペリメントは、いまのアメリカのR&Bにアジャストしてる感じがするね。音色とかがジャネル・モネイとかのほうに向かって。(ドラマーが代わってから録音された)『Black Radio 2』は、たしかに演奏もシュッとしてる。
松下「やっぱり『Double Booked』が凄かったよ」
石若「もうめっちゃ聴きましたよ。登下校のときに」
松下「登下校で『Double Booked』? すげぇ、俺なんてトンボ追っかけてたわ(笑)」
――2009年のアルバムだよね。それは高校生の時?
石若「そうですね。高校2年生かな」
松下「最後の曲(“Open Mind”)とか凄いですよね。もうほとんどライヴじゃないですか。あのアルバムは本当に凄い」
――プレイヤー的には、あの曲はやっぱり衝撃ですよね。
石若「そうでしたね、(2007年の前作)『In My Element』の後で」
松下「大きく変わってたよね。J・ディラ色が強くなってたし、4ビートの曲はほとんどない」
石若「エクスペリメントが日本に来る前辺りに、ミュージシャンのあいだでグラスパーのバンドに、マーカス・ストリックランドとハーモニカのグレゴリー・マレットとかが入ってる隠し録りの音源が出回ってたことがあって。それも聴いて衝撃を受けましたね。先にあれを聴いたあとだったから、『Double Booked』ですら少しシュっと感じたくらいで」
――その話、前に丈青さんも同じこと言ってましたよ。やっぱりミュージシャンのあいだでは、(『Black Radio』が出た2012年ではなく)その頃から〈グラスパーすげぇ!〉ってなってたんですね。
松下「あのアルバムで完全に変わったよね。ていうか、全然いまの音楽じゃん。実際いまでもよく聴くし。アップデートされていくものと別に、いつまでも凄いものっていうのはあると思うんだよな。ドラミングは特にそういうのがあって、ソニー・ペインをいま聴いても凄いんですよね。系譜的に黒人でいうとソニー・ペイン、トニー・ウィリアムス、デニス・チェンバース、クリス・デイヴっていう流れは絶対ある。ジャズの人達は(こういう流れに)デニチェンとか入れたがらないから抜くんだけど、でもあんなふうに叩ける人なんて当時いなかったし、いま聴いてもフォーマットがフュージョンでちょっとダサいだけでプレイは凄いんですよ。あいつが3点セットとかクリス・デイヴと同じセットとかで叩いたら、クリス・デイヴよりも全然凄いはず。でも、そこは時代っていうのがあって。当時はああするしかなかった。だからこそ、クリス・デイヴもパイオニアだと思うし、マーク・ジュリアナも白人の系譜からいうとパイオニアですよね」
松下「俺なんてアメリカから帰国する前、2008年頃からずっと〈マーク・ジュリアナが凄い〉っていろんなところで言ってきて、いまでこそドラム雑誌からマーク・ジュリアナのレビュー執筆とか頼まれますけど、やっぱ日本は遅すぎなんですよね。そういうふうに、アップデートもしていて尚且つこれから残っていくものってどんどん出てきてるから。日本のシーンが必ずしもそれに従うことはないけど、せめてフォローはしないと」
――単にマネするわけではなくて、そういう存在を知ってる前提でそれぞれがオリジナルな音楽を作っていくと、たぶん日本人のリテラシーも上がるんだよね。
松下「あとはバケモンだって諦めるヤツがほとんどなんですよ。同じ人間だから絶対に追いつけるはずなのに。バディ・リッチみたいな、バケモンの中の本当のバケモンみたいなのもたまにいるけど、ビニー・カリウタとかデイブ・ウェックルは練習したらたぶん出来るんですよ。デニチェンとかはマネ出来ない。マーク・ジュリアナも練習したらたぶんマネ出来る。アイディアとそれまで聴いてきた音楽、一緒にやってるメンバーといったところでいろいろと(マーク・ジュリアナの)派生がこのあと出てくるんじゃないかな。誰と一緒にやってたかが問題だと思うんですよね。マーク・ジュリアナがアヴィシャイ・コーエン(ベース)とずっと一緒にやってたら、 いまのような音楽はやらないでしょうし。そういうところに日本人である俺らも身を置こうと思えばいけるんですよ。俺は(そういう環境が)なかったから自分で作って、ヤセイとかZa FeeDoみたいな一緒にやる仲間を集めたけど」
――〈JTNC〉が出たときに、(評論家で柳樂のレコード店勤務時代の元同僚でもある)矢野利裕くんがele-kingに書評を寄稿したあと、さらにブログでも書評の続きを書いてくれたんですけど、そこに「5年ほどまえに友人のジャズ研の演奏を観に行ったとき、そのバンドのドラムがやけにヒップホップ的だと感じたことがある(中略)終了後に話しかけてみると、案の定、クエストラヴやJ・ディラといった名前が出てきた。」ってくだりがあるんですよ(全文はこちら)。気になって矢野くんに訊いたら、その友人というのが(Yasei Collectiveの)別所和洋さんで、要するにドラムは松下さんのことで。これが5年前の話だから、松下さんはまさに日本でそういう事を最初にやろうとしてるパイオニアのひとりって感じですよね。
松下「超圧力かかりましたけどね。2014年に俺が書いたクリス・デイヴのビート分析みたいな原稿が『リズム&ドラム・マガジン』に掲載されたんですけど、それを読んで初めてクリス・デイヴやケンドリック・スコットの存在を知ったって人が結構いたみたいで。ドラマー業界ですらやっとですからね。で、マーク・ジュリアナが去年の12月に来日したときにドーンと話題になって、ちょっとずつだけど認知されるようになった。LAに行ったら同じくらい叩けるヤツが死ぬほどいるし、NYにはもっといる。でもジュリアナにはピックアップされる天性があるんですよね」
――自分のサウンド以外の部分もちゃんとコーディネートできてる人ですもんね。フォトジェニックだし、音楽に対するリテラシーも高いし、インタヴューでもちゃんといいこと言うし。
松下「あとマーク・ジュリアナは、〈こんなの、絶対生ドラムで出来ないじゃん〉っていう演奏表現に挑戦する姿勢が好きなんですよ。ジョジョ・メイヤーみたいな、少し前の世代とは全然違うスタイルでエレクトロに対決してるっていうか。ルイス・コールとか、クリス・デイヴもある意味そう。J・ディラのビートを完全に生ドラムで再現するっていう、クエストラヴには出来なかったことをやってるわけだから。しかも、それがきちんとグルーヴしてる。グルーヴって言うと日本だと〈一定のリズム〉だって感覚が勝手にあるでしょ」
石若「ありますね」
松下「グルーヴ・ドラマーといえば、未だにスティーヴ・ジョーダンとかジム・ケルトナーみたいなさ。もちろん2人とも最高だしむっちゃくちゃ尊敬してるけど、日本人ってそれとは別に起こってる新しいことに対する感覚が遅いんだよね。例えばミニマルな音楽でもグルーヴってあるじゃないですか。日本だとrabbitooとかが好例だと思うんだけど、ああいう音楽に対してグルーヴっていう言葉を使えない状況にあるから色々根付かなかったんですよ。バックビートがないとグルーヴじゃないのかっていう」
横山「そういうのありますよね」
松下「スウィングなんて最高のグルーヴじゃないですか」
横山「でも、ああいう表現に対して〈グルーヴ〉って言葉はほぼ使われない」
松下「〈スウィング〉って言うでしょ? そのお国柄とこういう音楽が馴染まなかったっていうのは絶対に関係あると思うんですよね」
★後編はこちら

★最も注目すべき日本人ドラマー、横山×石若×松下が参加したスリーマン・ライヴを柳樂光隆が企画。〈JTNC〉以降のジャズにも精通したスペシャリストたちが、いま聴くべきリズムを叩く!
〈Mitsutaka Nagira & drummers presents “Hang out”〉
日時/会場:6月23日(火)渋谷UNDER DEER LOUNGE
開場/開演:18:30/19:00
出演:ZaFeeDo、石若駿 & The成吉思汗Band、横山和明Trio、柳樂光隆(DJ)
チケット:前売り/2,500円 当日/3,000円
問い合わせ:03-5728-2655(会場)
http://www.under-dl.jp/schedule/?tribe_events=ask-info-284%2F
