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ハッキリ言って、出演者の水準はメチャクチャ高い

――オーニソロジーにWONKと若い男子が集まった初回に続いて、5月の第2回となる〈LADY'S PAY DAY〉ではイヴェント名の通り、市川愛さん、ものんくる、けものと女性がフロントを務める3組が登場します。まず今回、菊地さんの出番はどうなりそうですか?

「けものwith菊地成孔として、青羊さんのバックで出演します。僕はプロデューサーとしては、自分の趣味で全部作っちゃうタイプではないんですよ。どちらかというと何もしない型で、スタジオに行って〈やってるやってる〉と聴いて、〈いい調子だね〉と伝えたら帰っちゃう(笑)。ポスト・プロダクションとか、この曲カヴァーしてくれとか、そういう方向性は決めるけど、一曲一曲に〈ここはこうで〉という指示はしない。で、けものも任せっぱなしにしたら、向こうから要請が来た(笑)。彼女の新しいアルバムでは、僕がサクソフォンで3曲、デュエットで3曲とガッツリ携わっていますが、思いのほか出来が良くなって。それで今回のライヴも(出演時間は)50分くらいだし、6曲に参加したら(セットリストの)ほぼ全部に参加することになるから、せっかくだし一緒に歌ったりサックス吹いたりしようかなと」

けものの2013年作『LE KEMONO INTOXIQUE』収録曲“Fish京子ちゃんのテーマA”
 

――第1回でも、オーニソロジーやWONKの演奏に飛び入りされていましたし、今回も忙しくなりそうですね。

「まあいずれは、僕は司会として〈次のバンドはこういうバンドです〉とMCだけして引っ込んでいくようにしたいんですけどね(笑)」

――お話に出たように、ものんくる、けものは菊地さんがプロデュースした新作も控えているんですよね

※ものんくる『世界はここにしかないって言って』が7月12日、けもの『めたもるシティ』が7月19日にそれぞれリリース

「ハッキリ言って、音楽の水準はメチャクチャ高いです。僕のプロデュース作としては、けものが今度出るアルバムで2枚目、ものんくるが3枚目と長い付き合いで。どちらもポップスの世界では決して若いとは言えないけど、今ちょうど(レヴェルが)上がっているところなんですよ。だから、ぜひ新作を聴いてみてほしい」

――(取材時点で)どちらの新作も、間もなく完成しそうなんですよね?

「そうですね。ちょっと前までJAZZ DOMMUNISTERS、けもの、ものんくる、ガンダム(『機動戦士ガンダム サンダーボルト』サントラの続編)を4枚同時並行で進めていて、〈死ぬかな?〉ってヤバさでしたけど(笑)、やっと収束して。これは選曲家として言いますけど、どれも内容的には欧米や韓国にまったく引けをとらないクォリティーになっています」

――今回のイヴェントは、そんな新作からのナンバーがいち早くお披露目される機会になりそうですね。市川愛さんはどうでしょう?

「彼女は長いことジャズ歌手をやられていて、バイリンガルだから英語でジャズ・スタンダードを歌っていたんです。それなのに、JAZZ DOMMUNISTERSのレコーディングに顔を出したことで、ひょんなことからラッパー・デビューすることになって。I.C.Iという、〈リアルな初音ミク〉みたいなキャラクターを確立するという(笑)。僕はジャズ歌手としての市川さんにはノータッチで、I.C.Iのときだけ面白半分に楽しくやっていたんです。でも、そんな市川さんが、このたびジャズ歌手をきっぱりお辞めになるというか、転向されるんですね」

I.C.I がフィーチャーされたJAZZ DOMMUNISTERSの2013年作『BIRTH OF DOMMUNIST』収録曲“XXL”
 

――今後はどのような方向に?

「彼女の神様は、浜田真理子さんなんですよ。大雑把に言うと70年代のシティー・ポップ、日本語のAORとかフォーク系が好きなんですって。ちなみに、けものの新作もAORやシティー・ポップに向かっていて、ジャズ色がまったくないんですよ。頭のおかしいメンヘラのシティー・ポップというか」

――それは興味深い(笑)。

「でも、市川さんは全然病的な人じゃないですし、スタイルやルックスはもちろん歌声も素晴らしい。そんな彼女から〈これからは、こういうのをやっていきます〉と、日本語で歌ったデモ・テープをもらったんですよ。1曲は浜田真理子さんが市川さんのために作った曲で、もう1曲は市川さんのオリジナル。それがあまりにも良くて、すぐにTABOOから出しましょうと伝えました。まだ亀の歩みではありますけど、来年か再来年にソロ・アルバムをリリースするつもりです」

――じゃあ市川さんは、今回もそういう路線のライヴになるんですか?

「そうなりますね。あとは僕が作ったデュエット用の曲もやりますし、今後の方向性をプレゼンするものになるかなと。で、ものんくるは、ホーンがたくさん入ったビッグバンドではなくて、普通のバンド形式です。いわゆるスティーリー・ダン・スタイルですね。中心に(角田隆太と吉田沙良の)2人がいて、実力派のミュージシャンがガッチリ脇を固めて、難しい曲を大変なスキルで演奏していくという。しかも、(吉田の)歌もクソ上手いし、ソングライテイングも物凄く巧み。ものんくるが狙っている(リスナーの)射程はすごく貪欲なんですよ。今は彼らが一番ヘルシーに貪欲ですね」

市川愛の今年4月のライヴ映像
 
ものんくるの今年3月のライヴ映像
 

「それに比べると、けものは高等遊民(笑)。金やフェイムがほしいというより、自分の世界をやれればいいっていう。青羊さんは漫画が大好きなんですよ。ラッパーで言うところの元ネタが漫画なの。一昔前だと、シティー・ポップと漫画は相容れなかったじゃないですか。でも、今のオシャレ女子は漫画も読みますよね。とっくの昔に、漫画は〈オタクの読む汚らしいアイテム〉ではなくなっている。そういう感受性の在り方、漫画好きがシティー・ポップをソウルフルにやるキャラとして、青羊さんが自己更新されると。市川さんも自己更新されるし、ものんくるもサウンド的に自己更新する。その3つを束ねて、2回目の〈HOLIDAY〉をやります」

――華やかなイヴェントになりそうですね。

「そうですね、これが当レーベルの実力ですって感じで(笑)。どのバンドも熱狂的な太いファンを持っているので、その人たちにも一同に集まってもらって。あとはドワンゴさんとのシェイクハンドで、前回に続いてニコニコ生放送で中継もします

※当日は、ビュロー菊地のニコニコ動画アカウントにて生中継