たった一人で世界へ飛び出して25年、やり残していた挑戦=日本語ラップに向き合う時が訪れた。現役の伝説が磨いてきた刃を閃かせ、若き才能たちと描く『軌跡』とは……

どこか未練があった

 MURO、DJ GOらを従えて80年代後半に結成したKRUSH POSSEの解散を機にソロへと転じ、いち早く世界に活路を見出してから四半世紀。DJ KRUSHは孤高の道を行き、大いなる賞賛を集めてきたが、それでもなお彼にはまだ成し得ていない夢があった。全編にラッパーをフィーチャーしたニュー・アルバム『軌跡』は、そもそもの活動の始まりであった日本語ラップで彼がやり残したその夢の落とし前、いわく「歩んできた道の清算」である。

「もともとMUROなんかとやってた当時に〈日本語のラップ・アルバムを出してそこでスクラッチしたい、日本語のラップを世界中のラジオで流したい〉っていう大きな夢があったんだけど、当時はできなかった。でも、一人になってからもずっとその夢はあったし、どこか未練があったんですよ。〈日本語だけのアルバム一枚作りたいな〉ってことはもう何年も周りのDJには言ってたし。それが今回ようやく形になったんです。自分的にも世界中を一周した感じがあって、足元を見たときに、やれバトルだなんだって日本のヒップホップ・シーンも熟してきてるんで、基本に戻りたいなとも思った」。

DJ KRUSH 軌跡 Es・U・Es Corporation(2017)

 タイトルの〈軌跡〉は、アルバムのテーマとしてKRUSHがラッパー勢に投げたワードでもある。その解釈をラッパー個々に委ね、KRUSH自身は己の内なるヒップホップを鳴らした。

「僕は80年代、90年代をリアルに生きた人間なんで、デジタルっぽくないブレイクビーツ主体の荒い音をぶつけたかった。各々がイメージの湧くオケを作れてるかってことと、そこにDJ KRUSHって個性を入れることにはいままでにない難しさとプレッシャーを感じたけど、俺が描く世界にみんな対峙して、寄り添ってくれたかな」。

 イントロに続き、オリエンタルなネタ使いで口火を切るトラックは、OMSBを迎えた“ロムロムの滝”。威風堂々としたビートに、〈サファリパーク〉たる街の現実を映すOMSBのラップが、幕開けを勢いづける。

「OMSB君は関西で関係者からデモCDをもらって頭に残ってて、音もブッ飛んでるし、いずれやりたいなと思ってた。ブレイクビーツ主体の音だけど、彼は自分の作品でも荒いハードな俺好みのやつをやってるから、楽勝で乗りこなしてるよね。リリックの中でトライブ(・コールド・クエスト)のフレーズを入れてきてるのも嬉しくて、DJ心が疼いてちょっと後で音を足したりしたんだ」。

 続く“バック to ザ フューチャー”では初めてKRUSHの音楽に触れた11年前の記憶と現在を繋ぎ、チプルソがラップ。“若輩”ではR-指定(Creepy Nuts)が、迷いもがく歪な自分自身を〈今日も白いページを黒く彩る〉というラインと共に描き出している。

「チプルソ君は僕らの曲を聴いてくれてた世代だし、あの声質と、枠にハマってない独特な世界観にシンパシーを感じた。こういう歌を聴くとやっててよかったって感じだよね。自分の曲も誰かに何かを与えてんだなって、逆に力をもらうし。R-指定君はあの瞬発力と上手さね。Creepy Nutsとは全然違うヒップホップ的なルーツの音を当てたらどうなるかな?っていう興味があった。このタイトルをラップで言えるってのは骨があるし、なかなかできないですよ。カッコつけちゃうじゃないですか、普通。ダテにチャンピオン張ってないなって」。