(C)2016 NADIE ES PERFECTO BLINDSTPOT

現代最高のフラメンコダンサーであり、異端児とも呼ばれるサラ・バラス
パリ、ニューヨーク、メキシコ、東京を舞台にフラメンコの女王の果てなき挑戦を映し出した、情熱のドキュメンタリー!

 風景と人物に楽器や靴などのカットを配し、抑えたトーンで交錯させていくテンポのよいカメラワークが、あたかも作品をひとつの舞台装置に見立てたような、独特の効果をもたらす。自然光に都市の灯り、最小限の劇場照明が醸す深い陰影。リハーサルや本番の音以外余計なものは足さず、ただ生身の声と、凄絶なまでに研ぎ澄まされたステップの打音、キャストの歌と演奏のみが響く。

 バルセロナのドキュメンタリー作家、ラファ・モレスとペペ・アンドレウが映し出す、トップ・フラメンコダンサーの虚飾なき実像。サラ・バラスは、現在もっとも影響力をもつダンサーだ。もちっと吸いつくような肌、経年劣化知らずの体形、眉間に皺を寄せてもなお損なわれぬ官能美。柔和な表情の奥に秘めた、強固な信念。映像からひしと伝わってくるのは、彼女の勇猛果敢なステージ作りに対する姿勢、飽くなき挑戦者としての誇りだ。

 2014~15年に行われた、彼女率いるカンパニーの『ボセス フラメンコ組曲』ワールドツアーを、制作段階からフィナーレまでつぶさに追いかける。カディスで初めてメンバーへ告げられた、新作の構想。しかも、初日パリ公演まで3週間しかないと、各人に覚悟を迫るサラ。夫のダンサー、ホセ・セラーノが「物語性のあるこれまでの作品とは違う」と補足。それは「亡き巨匠たちへ捧げる特別なオマージュ」であり、「彼らから学んだ、私たちみんなの感謝の声を、巨匠たちへ届けるのよ」と、彼女らしいシンプルかつ温かな言葉で全員を鼓舞する。

(C)2016 NADIE ES PERFECTO BLINDSTPOT

 構成は……天才ギタリスト「パコ・デ・ルシア“努力”」、舞台芸術の次元を塗り替えた舞踊手「アントニオ・ガデス“向上”」、フラメンコ舞踊を世界に認知させた「カルメン・アマジャ“反骨”」、歌の革命児「カマロン・デ・ラ・イスラ“自由”」、歌を知的創造へと導いた「エンリケ・モレンテ“決意”」、ヘレスの粋を凝縮したギタリスト「モライート“喜び”」。各パートのエッセンスを、サラのコメントや逸話、制作課程、メンバーらの証言を交え紹介していく。というより、映画を通して描かれるのは、サラ自身の生きざまにほかならない。

 場面はカディスからパリ、メキシコシティ、ニューヨーク、バレンシア、東京へと移る。彼女にとって、芸歴のスタート地点が東京だから。1990年、94年と新宿エル・フラメンコに出演。97年は女性ダンサー3人の競演で来日し、2000年に自ら立ち上げたカンパニーで初の単独公演を実現した。女王サラの創造との格闘が、ここに始まる。

『パッション・フラメンコ』
監督:ラファ・モレス/ペペ・アンドレウ
脚本:ラファ・モレス/ペペ・アンドレウ/ヴィクトル・チャルネコ
製作総指揮:ホセ・ルイス・ヒメネス
出演:サラ・バラス/ティム・リース/ホセ・セラーノ/ほか
配給:アルバトロス・フィルム (2016 年 スペイン 95 分)
◎ 8/19(土)よりBunkamura ル・シネマ他全国ロードショー!
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