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カニサレスをはじめ現在第一線で活躍するアーティストが集結した発掘音源

 1989年に録音されたままお蔵入りし、昨年初めて盤の形で陽の目をみたという、極めつけのレア・アルバム。ジョアン・アルベルト・アマルゴス(key)、サルバドール・ニエブラ(ds)、セルジ・リエラ(b)、ヒネサ・オルテガ(cante)、カニサレス(g)。 メンバーはいずれもバルセロナを拠点とする、その後シーンの第一線に羽ばたいたアーティスト。かの時代らしい実験バンドだが、湧き出すアイディアを一気に詰め込んだような凝りに凝ったサウンドの濃密さは、いったいなんなんだ!? 軍事独裁政権の崩壊に伴う検閲制度の廃止、一気に開いた風穴のお蔭で、いかに多くの自由な創意が音楽人にもたらされ、新サウンドへの希求が高まっていたことか。

IBERIA Flamenco Challenge PLANKTON(2016)

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 ローレ&マヌエルが放った天衣無縫な気風、アンダルシア・ロック勢による文化再融合の試み、ルンバ歌謡のポップ展開、パコ・デ・ルシアのジャズとの親和性に対する挑戦……75年以降のシーンに急浮上した、それら刺激的な潮流すべてを踏み台にして、いかにもバルセロナっ子らしい知性が存分に発揮されるイベリア・チームの分厚い音は、ある意味、過渡期のエネルギーの産物と言えるかも知れない。

 ブレリア、ルンバ、タンギージョ等の伝統フラメンコリズムをきっちりキープしつつ、87年頃大流行した民謡セビジャーナスのナンバーが数曲。アマルゴス好みのやたら壮大な作風の片鱗も窺えたりして、思わずニヤり。作詞はすべて、ヒネサ・オルテガの手になる。バンド結成は82年だが、個々の活動も並行していたから、必ずしも全員がイベリアに集中したわけではなさそうだ。近年大注目のカニサレスは、85年人気ポップ・バンド、ウルティモ・デ・ラ・フィーラのサポートメンバーに抜擢され、89年まで参加。イベリアには88年から89年末の解散時まで在籍し、同時に89年9月より天下の(!)パコ・デ・ルシア・トリオが始動。つまり彼の転換点にあたる貴重な録音なわけで、その輝きは言わずもがなだ。