インタビュー

〈今もっとも気持ち悪い男〉が鳴らす、SNS映えしない音楽―松永天馬(アーバンギャルド)が初ソロ作を語る

松永天馬『松永天馬』

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自分は自分になるために表現するし、みんなもそうなるためにこの歌を聴いてほしい

――あと、“ラブハラスメント”はサウンド的にもファンキーで取っ付きやすいですよね。ロキシー・ミュージックみたいな雰囲気もあって。

「最初はファンクだとか80sのダンス・サウンドを織り交ぜて、ダサいけどカッコイイみたいなコンセプトで作っていこうと思ったんです。途中からEDMに入ってるようなシンセベースを入れたら意外に馴染んでしまって、僕のヴォーカルの臭みみたいなものを上手く中和できましたけど、歌詞を聴くとオヤッ?て」

――そこのバランス感はおもしろいですよね。

「例えばマイケル・ジャクソンの“Billie Jean”という曲は世界的なポップスの代名詞ですが、歌詞は自分の子供を妊娠したと主張する女性に対して、そんな子のことは知らないっていういわば〈認知〉についての歌なんですよ。洋楽ってそういうドメスティックな部分とか社会性を帯びた歌詞がヒット曲になる場合が多くて。だから僕もリスナーに打ち明け話をするような気持ちで個人的な話を歌詞にしたためました。それでMVでもずっと(MVを)観てる人に話しかけるわけですよ。その人に粘着しながら、ストーキングを続けながら告白を続けるんです」

マイケル・ジャクソンの82年作『Thriller』収録曲“Billie Jean”
 

――しかも服を脱ぎながら(笑)。でも、そういう個人的な歌も普遍的なものになり得るでしょうし、歌謡曲には本来そういう側面がありますしね。そんななかで次の“天馬のかぞえうた”は曲名通りの数え歌ということもあって、僕は藤圭子さんの“圭子の夢は夜ひらく”あたりを思い出したのですが。

「ここまでは現代的な曲調できたので、次に僕のもうひとつのバックグラウンドである昭和のアンダーグラウンドな部分を出したいと思って。それこそ寺山修司や三上寛とか、あの辺のドロッと湿った感じですね。僕は新宿のドロッとした感じが好きなので、この歌はゴールデン街で流しが歌ってくれそうな曲になってます。これもいまの時代は誰もやってない」

――この曲もまた歌詞に後ろ暗い雰囲気がありますよね。

「要はセックスは明るくないぞってことです。いまはセックスとか恋愛は明るいものだと思ってる人が多いですけど、暗い側面が強いということを書きたかったんですよね。もっと暗い湿ったところでやってくれ、一番安い、最低の連れ込み宿でやってくれって」

――そんな春歌の流れを汲むような数え歌がありつつ、次の“ぼくらの七日間恋愛”はビーチ・ボーイズっぽい男声コーラスが入るロマンティックな曲になっていて。

「これは僕の願望ですね……こういったことは僕の人生にはついぞありませんが」

――世界の終末を目前にした理想の恋というか。ただそういったファンタジー感がありつつ、〈明日からミサイルが降るでしょう〉といった歌詞にはいまのポリティカルな状況と照らし合わせられる部分があって。

「これは今年の頭ぐらいに歌詞を書いてたんですけど、そしたら4月ぐらいに北朝鮮のミサイル発射が頻発して、言葉に時代が追いついてしまった。でも、いまの時代って生きていて楽しいかもしれないけど、昔に比べて未来に希望がないじゃないですか。そんな日々において、あなた明日死にますよって言われても、ある種、納得してしまうというか、腑に落ちちゃう部分もあるのかなと思って……死にながらにして生きているんですわれわれ日本人は。じゃあそんなときに自分が生きてることをどう確認するんだろうと考えたら、それは衝動的な恋愛かもしれないし……自分の肉体みたいなものをきちんと獲得してから死にたいんですよね」

――“Blood,Semen,and Death.”は生と死とセックスが隣り合ってる歌でしたけど、この曲もいわば生と死とセックスが隣り合っていますよね。それを傷をえぐるように表現するか、自分のキレイな部分で表現するかの違いというか。

「当初からテーマとして掲げていたわけでもないのですが、結果的にそうなりましたね。それと今回のアルバムには〈妊娠〉というワードも多く出てくる。だから自分のなかで妊娠という言葉が重いんだろうな……。女性を妊娠させたことはないんですけど、自分の深層心理みたいなものが出てしまったのかもしれない。歌詞は本当にそういうのが出ますから」

――妊娠について身近な経験がないことによって、それに対する幻想が膨らんでいるのかもしれませんし。

「逆に……妊娠させたいのかもしれない。言葉や音で」

『松永天馬』リリースに際して、〈街頭演説〉として全国各地で行ったパフォーマンスの様子
 

――そしてもう1曲のポエトリー・リーディング曲“ハートマーク/心臓”では、再び大谷さんがトラックを提供しています。

「こっちの曲は大谷さんに静謐な感じのトラックをお願いしたら、教会のような敬虔な雰囲気のものがきたので、なるべく韻も押さえて普通に朗読を乗せました。自分がやっていることは自己満足で自慰行為でしかないけれども、その自意識の塊のような作品たちを誰かに届けたい、それによって誰かの心が妊娠すれば、という希望でしょうか」

――作品全体ではご自身の男性性を表現してるところがありますけど、後半はだんだんピュアな部分が表れてる気もしますね。

「確かに。男性性というものは必ずしも〈強い〉ものではないと思うんですよ。昔ながらのマッチョイズム……ドナルド・トランプではない。例えばオスのカマキリは交尾時に興奮したメスに食べられてしまうじゃないですか。そういう弱さだとか繊細さが男性性のなかにはあって。だから、自分のなかでオスのカマキリ感が出ちゃったのかもしれないですね……」

――このポエトリーで終われば作品としては美しい形になるかもしれませんが、その後にハイポジ“身体と歌だけの関係”のカヴァーが収録されています。これは素敵な選曲ですね。

「ありがとうございます。この曲もソロ・ライヴをやり始めたころからずっと歌っていて。〈身体と歌だけの関係にしようね〉っていう我々表現者とリスナーの、理想的な関係を言い当てている曲ですね。〈身体〉というのはセックスの意味合いもあるかもしれないし、ライヴという形のセックスなのかもしれないし。ライヴで身体を揺らせて、歌を聴いて、でもすべてを忘れて帰ってくれみたいな気持ち。しかもこの曲は繰り返しも多くメロディーも平易なので、いかようにも料理できる曲なんですよ」

――松永さんはどのように調理しようと思ったのですか?

「ハイポジの場合はもりばやし(みほ)さんが男の子の一人称で歌うことでセクシャルな部分がうまく中和されてるんですけど、これを僕のフィジカルな部分やエモーショナルな部分を前面に出してカヴァーしたらどうなるかと思って好き放題やらせて頂きました。もりばやしさんご本人にもFacebookで連絡を取って音源をお送りしたんですけど、〈ざ、ざんしーーーん(笑)♪〉と感想をいただきました」

――このカヴァーには、松永さんの最終的な願いのようなものが託されてる気がします。

「そうですね。ここに至るまでの6曲で自慰行為を見せ付けてきただけなんですが、最後にはやっぱりリスナーと繋がりたいじゃないですか。そういう意味でこのトラックを最後に配しました。フェイドアウトは反対意見もあったんですけど、僕はそうしたかったんですよ。リスナーの耳の奥でずっと演奏が続いて欲しかったので。ずっと歌い続けていたいし、ずっと聴き続けて欲しい」

――めちゃくちゃロマンチックじゃないですか。あと、この曲は早川義夫さんが歌ってることでも知られてますよね。

「実はハイポジさんのオリジナルを聴く前に、まず早川義夫さんと佐久間正英さんのカヴァーからこの曲を知ったんですよ。そこからハイポジさんの原曲も聴いて、この曲はどんなふうに解釈しても、その人の歌になる強さを秘めてるんだと思って。それと、早川さんも男の人の情けなさみたいなものを臆面もなく出される方じゃないですか。だから早川さんは、今回のソロをやる上での心の師なんですよね」

早川義夫&佐久間正英が“身体と歌だけの関係”をカヴァーした2005年のパフォーマンス映像
 

――確かに早川さんはジャックスの頃から、ある種の気持ち悪さというか違和感を表現の凄みとしてお持ちで、それがいまでも通用するものとして残ってるわけですしね。

「そうなんですよ。男の気持ち悪いのは本当にただただ気持ち悪いですからね。でも、そこに人間の本質が見え隠れする。端的に言えば、人間を描きたいんだと思います」

――今回の『松永天馬』という作品は、まさに松永天馬という一人の男性のすべてをさらけ出した内容になりましたね。

「いまは自分自身を表面上でなぞって作品にしてるものが多いから、自分自身を出したら、恥ずかしいというところまで突き詰めたら逆に新鮮なんじゃないか。あなたの欠点や痛い部分を見せてください、僕も見せるので。ということですね」

――人間は本来ひとりひとり違うものなので、そこを深く見ていけばみんなおもしろいものだと思うんですけど、いまは横並びになりがちですからね。

「だから、僕は別に男になれとも女になれとも思わないんですけど、〈自分になれ!〉とはこれからも言っていきたいですね。僕も自分になるために表現するし、あなたも自分になるためにこの歌を聴いて欲しい」

 


Live Information

■松永天馬

〈松永天馬と逝く!東名阪インストアライブツアー〉
日時:2017年7月26日(水)19:00~
会場:ヴィレッジヴァンガード渋谷本店

日時:2017年7月29日(土)13:00~
会場:ヴィレッジヴァンガード名古屋中央

会場:2017年7月29日(土)17:00~
会場:タワレコ梅田丸ビル店

日時:2017年7月30日(日)13:00~
会場:ヴィレッジヴァンガードなんばパークス キャニオンコート

〈集え!松永天馬路上演説〉
日時:2017年7月27日(木)19:00~
会場:秋葉原駅付近

日時:2017年7月28日(金)19:00~
会場:渋谷ハチ公口

〈ソロデビューアルバム「松永天馬」発売記念ライブ"LOVE HARASSMENT"〉
日時:2017年8月6日(日)
会場:東京・渋谷 La.mama

〈松永天馬脳病院vol.8 バースデースペシャル~朝まで生天馬2017~〉
日時:2017年8月11日(金・祝)
会場:東京・新宿ロフトプラスワン
開場/開演:23:30/24:00
出演:松永天馬、おおくぼけい(アシスタント)
ゲスト:松永天馬と自殺者たち、藤井亮次(旧友)、ミワ(パイセン)

〈DOTAMA LIVEツアー2017 『ディスり過ぎてごめんなさい。謝罪会見ツアー』〉
日時:2017年8月13日(日)
会場:東京・渋谷WWW
開場/開演:18:00/19:00
出演:DOTAMA、松永天馬(バンド)

■アーバンギャルド

〈アーバンギャルド presents 鬱フェス2017〉
日時:2017年9月10日(日)
会場:東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
開場/開演:13:30/14:00 START
出演:
アーバンギャルド、大槻ケンヂ(筋肉少女帯/特撮)、オーケンギャルド(大槻ケンヂ+アーバンギャルド)、A9、キノコホテル、ミオヤマザキ、BRATS、松本明人(真空ホロウ)、えんそく、北出菜奈、Kaya、挫・人間、ラバーガール、みるきーうぇい、絵恋ちゃん

〈COUNTDOWN 10YEARS アーバンギャルドのフラッシュバック・ワンマン・スペシャル!東名阪クアトロツアー〉
日時:2017年11月3日(金・祝)大阪編〜少女三部作セレクション
会場:大阪・梅田CLUB QUATTRO
開場/開演:17:00/18:00

日時:2017年11月10日(金)名古屋編〜メンタルヘルズ&ガイガーカウンターカルチャー
会場:名古屋CLUB QUATTRO
開場/開演:18:00/19:00

日時:2017年11月18日(土)東京編〜鬱くしい国&昭和九十年
会場:東京・渋谷CLUB QUATTRO
開場/開演:17:00/18:00

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