[ 特別企画 ]主題歌から紐解く「魔法陣グルグル」
往年のRPGを思わせるファンタジー&コメディー作品が3度目のTVアニメ化! 主題歌に携わるORESAMA、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND、ボンジュール鈴木の対話から、その世界観を覗いてみよう
往年のRPGを想起させるファンタジー世界を舞台とした衛藤ヒロユキ原作のコメディー漫画「魔法陣グルグル」が3度目のTVアニメ化! ポップで笑えてほっこりした気分になれる名作の主題歌を担うのが、男女ポップ・デュオのORESAMAと、レトロでモダンなテクノ・ポップを推進するTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下TPG)だ。それらの楽曲を収めたシングルを発表する2組と、TPGの楽曲にヴォーカルで参加したボンジュール鈴木による座談会を通して、「魔法陣グルグル」の世界観を紐解いてみよう。
昂揚感とファミコンの時代感
――皆さん、「魔法陣グルグル」はご存知でしたか?
フジムラトヲル「もちろん作品は知ってましたけど、僕らは放送当時すでに大人だったので、ガッツリ観ていたということはなかったですね」
ボンジュール鈴木「はい! 拝見させていただいていました」
――ぽんさんは大ファンということで。
ぽん「私は家にビデオテープがあったのでよく観てました。本当に世界観が大好きなんですよ。(劇中に登場する)勇者ランチを食べてみたかったし、キャラクターもアイテムも舞台もすべてがポップで、完全な悪役がいないところも私的にはポイントが高かったです」
小島英也「僕は再放送で観てたぐらいですけど、(アニメ第1作の)主題歌の“MAGIC OF LOVE”と“晴れてハレルヤ”はすごく好きで。もともとアニメを観る前からすごく良い曲だと思ってました」
――今回はオープニング曲の“Trip Trip Trip”をORESAMAが、エンディング曲の“Round&Round&Round”をTPG feat. ボンジュール鈴木が担当されています。お互いの曲を聴いた感想はいかがですか?
松井洋平「“Trip Trip Trip”は可愛らしいし、疾走感がありますよね」
フジムラ「僕たちにないものがたくさん詰まってました(笑)」
松井「〈作品の世界観が好き〉と言うだけあって、入りからワクワクさせるような、飛び込んでいく感じがあって、すごく素敵な曲だと思います」
小島「“Round&Round&Round”はTPGさんとボンジュールさんの空気感が混ざってて、すごく良かったです。僕はもともとTPGさんの音が好きで、いつも勉強させてもらっているので」
ぽん「私は89秒版のアウトロが好きでした。大好きな『うる星やつら』の時代を彷彿とさせる感じがして。アニメを観終わった後にすごく良い気持ちになれて、また次も観ようと思わせてくれるような」
フジムラ「確かに今回は昔のアニメのイメージがあったので」
松井「80年代感というか、いわゆるファミコンの時代感ですよね」
――ボンジュールさんはいかがでしたか?
ボンジュール「ORESAMAさんの素敵な世界観が凝縮されていて、本当に素晴らしい曲でした。可愛かったです!」
――ORESAMAのお二人は、今回の楽曲をどのようなイメージで作りましたか?
ぽん「二人の『魔法陣グルグル』に対するイメージが〈おもちゃ箱〉で共通していたので、そこから小島君が曲を作って、私が歌詞を乗せていきました」
小島「曲としてはワクワク感や昂揚感を出そうと思って、展開が多めに入る作りにしました。特に89秒だと、その尺にしてはちょっと贅沢な長さの頭サビで昂揚感を出してからイントロに向かうという形にしたり」
松井「聴いてると〈グルグル〉のことが好きなんだろうなってことが伝わってくるよね。Dメロのオルゴールのところは、多分ククリ(ヒロイン)が夜にダンスしてるところを意識してるんだろうし」
小島「……実はあまり意識してないです」
松井「はい、ここカットね(笑)! ちなみに、普段、機材は何を使ってるの?」
小島「僕はすべてソフト・シンセで作ってます」
フジムラ「(小声で)そのほうがいいですよ(一同笑)。アナログ・シンセは本当に大変だから。〈ツマミを同じようにしてるはずなんだけど、何か音が違う〉っていうことの繰り返しなんで(笑)」
松井「でも、アナログ・シンセは偶然性とかコントロールできない部分がおもしろいからね」
石川智久「壊れてるときの音を取っておくとかね」
小島「最近プロデューサーにMIDIでベースだけムーグの音に差し替えてもらってるんですけど、その音がめちゃくちゃ好きで。いずれは全部アナログの実機で曲を作ってみたいんです」
松井「はい、いらっしゃい(笑)」
――一方の“Round&Round&Round”は、そういったこだわりの機材で作られているわけですが。
フジムラ「僕らは今回アニメの劇伴も担当しているんですけど、それは全部アナログ・シンセで作ろうと思って、ソフト・シンセを排除したんです。リズム・トラックもTR-808とTR-909の音をハイレゾで録って使ってるので、基本的にアナログ以外の音はなくて。もちろん生楽器は入ってますけど。なので、エンディングに関しても、その機材で作ろうというのはありましたね」
――そこは「魔法陣グルグル」の作品性を意識されて?
フジムラ「そうですね。それと僕たちの個人的な気持ちとしては、昨年冨田勲さんが亡くなられたことで、シンセサイザーの道を切り拓かれた想いを、引き継いで作っていきたいというのもあって」
――ボンジュールさんは歌ってみていかがでしたか?
ボンジュール「メロディーの可愛らしさと歌詞の絡み合いが途轍もなく素敵で、歌いながらブルブルってなるところがたくさんありました。歌詞も歌うポイントを考えて書いてくださっていて、ここは可愛らしくとか、ここは力を抜いてというのが見てわかるような内容だったので、すごく勉強になりましたね」
松井「ボンジュールさんは普段一人で曲を作ってるんですもんね」
ボンジュール「作詞からマスタリングまで全部一人なので、かなり辛くて、皆さんがすごくうらやましいです(笑)。一人だとジャッジが難しくて」
松井「みんな仲良くしたらいいんだよ。ORESAMAのお二人のところに曲を送って〈これで大丈夫ですか?〉って訊いてみるとか(笑)」
ボンジュール「それいいですね! ぽんさんに歌詞も書いてもらったりして(笑)」
松井「今後は〈ポンジュール〉になるかもしれない(一同笑)」
大喜利をやってる感じ
――では、個々のシングルのカップリング曲についてもお訊きします。ORESAMAの“耳もとでつかまえて”はどんな曲ですか?
ぽん「e☆イヤホンさんとコラボさせていただいた曲で、私がイヤホンで聴く自分の世界を詞で表現してから、小島君に曲を書いてもらいました」
小島「ハイレゾのオーディオ・プレイヤーとのタイアップだったので、イヤホンで聴いたときに違和感ギリギリのすごく気持ち良い音を突き詰めました」
――もう1曲の“空想フライト”は?
ぽん「こっちは〈ESPRIT JAPON〉という日本の文化を海外に発信していくTV番組とのタイアップで作った曲で」
小島「これはちょっと日本っぽい音を入れたいなと思って」
松井「〈イヨ~ッ!〉とか(笑)?」
小島「(笑)でも和鼓の音は入れてますね。まずはモータウンとかフィリー・ソウルあたりのニュアンスを入れたORESAMAらしいサウンドを作って、そこに琴や三味線の音を重ねて日本らしさを出した曲です」
――ORESAMAはどの曲にもディスコやブラック・ミュージックのテイストがありますものね。
小島「僕はナイル・ロジャースが好きなので、トラックには必ずクリーン・カッティングのギターを入れたりしていて」
――一方でTPGのカップリング曲は“夏と猫とソネット”というタイトルですが。
フジムラ「この曲は声優の井澤詩織さんに歌っていただいたんですけど、井澤さんとは『ウィッチクラフトワークス』のときからの縁で、以前からキャラソンじゃないもので一緒にやりたいという願望があったんです。で、今回お願いしたらOKが出たので、井澤さんなら猫の曲が良いでしょうと」
松井「まあ〈猫の歌ってなんやねん〉って話なんですけど(笑)。しかもバラードということで歌詞を書いたんですが、ストレートに猫のことを書いてもと思ったので、じゃあ猫を主人公にして猫に歌ってもらおうと。それにリリースが夏なので、僕の中で〈猫〉と〈夏〉でリーチがかかってしまって、扉を開ける系のSFになりましたね」
――某SF作品のオマージュですね。アレンジで猫を意識したところはありますか?
石川「猫感は井澤さんがもう出してるので、そんなに要らないよね(笑)」
2組の共通項
――あと、ORESAMAとTPGの共通項としては、プロデューサーの佐藤純之介さんの存在もありますよね。
フジムラ「僕は中学の時の同級生なんで(笑)。13歳からの付き合いだから、もう30年になります」
松井「僕はヤマハポピュラーミュージックスクールの同級生です(笑)」
――石川さんは?
フジムラ「(石川とは)佐藤さんからの紹介で知り合ったんです」
松井「凄いのが本当に全員バラバラで知り合ったんですよね(笑)」
フジムラ「あと石川と松井は高校の同級生で、僕と佐藤さんは年齢的には一つ下になります」
松井「で、学園祭で坂本龍一の曲をやろうって集まったバンドがTPGの元になってて。だから未来派感があるという(笑)」
フジムラ「その頃はバンド・ブーム全盛で」
松井「他のバンドが(BOOWYの)“季節が君だけを変える”とかをやってるなか、僕らは(坂本龍一の)“Calling From Tokyo”をやってましたからね。〈リメンバ~ザ~プレ~イス♪〉って(笑)」
石川「誰がわかるんですかね(笑)」
フジムラ「そこから変わらずワイワイやってて、そのまま仕事になってるという感じで」
松井「そういうところが、何かおもしろいことをしようという企みになって出るんじゃないですかね」
石川「まさに大喜利をやってる感じです」
――ORESAMAはどのように佐藤さんとの制作を進めているのですか?
小島「毎回ディスコとか80s風みたいな要望をいただいて、それを元に作って、またアドヴァイスをいただいての繰り返しで作り上げていく感じです」
――佐藤さんの提案で新しい発見があったり?
小島「それはかなりありますね。ちゃんと1曲の流れを考えて、〈ここにこういうアイデアを入れたらおもしろいし、入れられるんじゃない?〉といった具体的なアドヴァイスをいただけるので」
松井「なんかプロデューサーみたいだね」
――いや、プロデューサーですよ(笑)。
松井「僕らが〈グルグル〉の曲を作ったときは、彼が家にきたので曲を聴かせたら、〈うん、いい〉とだけ言ってくれて。まあ、その後は〈サビ最後に16分のフックが欲しい〉とか、ちゃんとプロデューサーしてくれてます」
――そんな皆さんですが、今後もクロスしていけば、さらにおもしろいことになりそうですね。
ぽん「私はTPGさんの歌詞が好きで、(上坂すみれの)“恋する図形”とかをよく聴かせていただいてるんです。聴いて楽しむ歌詞だと思わせておいて、〈愛無き世界に未来はないでしょ〉みたいな言葉が入ってくる緩急がすごく格好良いと思っていて。ぜひ一度歌わせていただけたら嬉しいです」
松井「もう全然歌ってください(笑)。僕らはヴォーカリストがいないので。ギャラは焼肉をおごります(笑)」
フジムラ「あと小島さんにカッティング・ギターを入れてもらいたいですね」
松井「じゃあ二人でTPGのライヴに遊びに来てもらおうか」
ボンジュール「私、観に行きたいです!」
松井「あなたも歌うんですよ(笑)」