多彩な声を迎えて心地良さを極めた傑作の誕生!
もっとゆっくり聴ける感じ
ダンス・ミュージックをベースに、ファニーで快感指数の高いフューチャー・ポップを提示して、ネットからフロア、そこからさらに広大なフィールドへと歩を進めてきたトラックメイカーのPARKGOLF。2015年のファースト・アルバム『Par』でナイスなスコアを叩き出した後も、上坂すみれや東京女子流らのリミックスを手掛けたり、RINNE HIPや鈴木絢音(乃木坂46)にトラックを提供したりと、仕事の幅は広がる一方だ。そんな彼が今年に入って拠点を地元の札幌から東京へと移し、足掛け3年もの制作期間を経てようやく完成させたのが、セカンド・アルバム『REO』である。この〈REO〉とは彼の本名から取ったもので、いわばセルフ・タイトル作と捉えることもできそうだ。
「深い意味はないんですけど、自分の名前を使っておきたかったんです。最近はPARKGOLFって呼ばれることが多いので、これは名前をちゃんと出しておかないと忘れるというのもあって(笑)」。
全曲インストだった前作と大きく異なるのは、収録曲の約半数において声のゲストを迎えていることだろう。ヴォーカル入りの作品を作る構想自体は2013年頃から温めていたとのことで、実際に2014年にはさくらゆらをヴォーカルに起用した“瞬間最大風速”を単発で発表していたわけだが、今作ではその頃からのヴィジョンを形にしたことになる。
「最初は2枚組にして、歌入りとインストで分けようと思ってたんですけど……なんか分ける必要もないなと思って(笑)」。
なるべくリリース時期の季節感に合わせて選定したという収録曲において、とりわけサマーなチルっぽさを強く感じさせるのが、GOKU GREEN改めGOODMOODGOKUと共作した“ALL EYES ON YOU”だろう。トラップ系のビートが泡のように浮かんでは弾けるなか、GOKUのアンニュイなフロウがまどろみのような心地良さを運んでくれる、極上のレイドバック・チューンだ。
「GOKUくんとは、彼がおととしくらいに札幌のイヴェントに遊びに来た時に初めて会ったんです。そこで一緒に曲を作ろうって話になって、お互いに最近好きな曲を出し合ったんですけど、趣味が近かったんですよね。その時GOKUくんはFKJが好きって話で、僕もその雰囲気はめっちゃ好きだったりして」。
この“ALL EYES ON YOU”でのハーフテンポ主体のゆったりとした聴き心地は、アルバム全体に通底するムードでもある。唯一の4つ打ちが入った“Silk Curtain”にしても、彼の代表曲“Woo Woo”のような起爆力を有しつつ、どこかまろやかなテイストで、暑苦しくなく、かといって冷めた感じでもなく、絶妙な塩梅で身体を火照らせてくれる。
「デモの段階では4つ打ちの曲も結構作ったりはしてたんですけど、あまり気分に合わなくて。いまイヴェントでよくかかるようなハウスとかロウハウスも好きなんですけど、良くも悪くも作ってるとヒマになるというか(笑)。だから今回は前作よりもっとゆっくりとした、リスニングで聴ける感じが良いなあと思って」。
本当の自分の願い
そういった志向/嗜好をさらに推進するのが、女性シンガーを配した歌入りのトラックだろう。まず、おかもとえみ(フレンズ)が微熱混じりの歌声を響かせる“ダンスの合図”は、スロウなブギー感が心を浮き立たせる清涼なエレポップ。フロアでの男女の機微を描いたPARKGOLF自身による歌詞を含め、思わずはにかんでしまいそうなロマンティック気分が充満している。
「おかもとさんはソロ作品でのゆったりした感じが好きなんです。歌詞で意識してるのは、なるべく印象に強く残る言葉を選ぶということで、それは“瞬間最大風速”の頃からずっとですね」。
その“瞬間最大風速”から時を進めた詞世界となるのが、以前からの念願だったという一十三十一を迎えた“百年”。こちらは〈百年前〉も〈百年先〉も不変の想いを信じて都会を彷徨う主人公のセンチメントが胸を淡く締め付ける、tofubeats×オノマトペ大臣の“水星”にも似た甘美なメロウネスが零れる逸品だ。
「この曲は、まだ札幌に居た頃、東京に行こうかなって思っていた時期に作った曲で。歌詞の途中の部分は、イヴェントとかで上京して札幌に帰るときの東京のイメージですね。“ダンスの合図”は空想上のことですけど、これに関しては本当に自分の願いみたいなことを書いてます」。
一方、それらシティー・ポップ風味の2曲とは趣きを変えたR&Bテイストの“Ever”は、韓国出身のMACHINAがハングルと英語で歌うセクシャルで美しいスロウ。最近で言うとシドやSZAあたりにも通じる浮遊感と〈間〉を活かした音作りが、新鮮な心地良さを生んでいる。
さらに全体のプロダクション面でより顕著になったのが音数の少なさだ。特にラッパーのKiano Jonesを迎えたレイジーな“Realize”、そして余白だらけで展開していく極北トラック“Beyond This Point”のラスト2曲においては、音を極限まで削ぎ落とし、曲の骨格を剥き出しにされたような印象さえ受ける。
「オカダ(okadada)さんとよく話してたのが、人はどこから〈曲〉と認識するのか?っていうことで。僕はわりとビートがあって、そこにハイハットが入ってきて、キックがくるだけでも〈曲〉だと思えるんですけど、ということはいままでみたいにそんなに音を詰め込まなくてもいいんだと思えてきて。音数の少ない音作りは自分でいちばん気持ち良いし、この2曲でもうちょっといけそうな感触は掴んだんで、いまはこの感じでもっとポップな曲をやってみたいですね」。
音数を絞ってどこまでも先鋭化させながらも、彼特有の爽やかでムーディーな味わいを損なうことなく、独自のポップスの形を提示してみせた『REO』。最後に、石が置かれた不思議な装いのジャケットについて訊いてみると、意外な答えが返ってきた。
「実は1年くらい前から石を集めるのにハマってるんですよね。よくある丸く加工されたやつとかパワーストーンみたいなのじゃなくて、もっとそのままの原石みたいなものを拾ってきて、それを見ながら〈いい!〉みたいな(笑)。石とか花とかのフェチな趣味って、女性に求めるものに近いのかなって感じたり」。
自分の理想と思う形の石を求めて、自然の中を探し歩く。その行為はひょっとしたら、彼が気持ち良い曲を作り上げるために音をひたすら練磨していく、フェティッシュな作業とも繋がっているのかもしれない。
「“百年”の歌詞もそういうことなんですよ。そのへんのことはもうちょっと考えたくて。次のアルバムまでに答えが出ればいいんですけど」。