Photo by Tom Sheehan

レディオヘッドをポップ・シーンの第一線に押し上げた97年作『OK Computer』の20周年記念作『OK Computer OKNOTOK 1997 2017』に続いて、『In Rainbows』(2007年)、『The King Of Limbs』(2011年)を除く過去作が8月11日(金)に廉価盤としてリイシューされる。

グランジ/オルタナティヴ全盛の92年にギター・バンドとしてデビューし、以降はエレクトロニカやジャズ、現代音楽、ポスト・クラシカルなどさまざまなサウンドを探究しながら音楽性を拡張。飽くなき創作欲求に基づいた、その先鋭的なポップ・ミュージックはロック・バンドのみならず、ロバート・グラスパーやパンチ・ブラザーズ、フランク・オーシャンまで、さまざまなジャンルのアーティストを魅了してきた。最近では、〈Lollapalooza 2017〉に登場したアーケイド・ファイアが、ジョン・レノンの“Mind Games”に織り交ぜながら、“Karma Police”の一節を歌ったことも記憶に新しい。

NME誌のコラム〈How Radiohead Became The Beatles Of The 21st Century(どのようにレディオヘッドは21世紀のビートルズになったのか)〉や、ニルヴァーナやホワイト・ストライプスらを押しのけて首位に選出されたMOJOによる2014年の特集〈The 20 Most Important Artists Of The Last 20 Years(過去20年の最重要アーティスト20選)〉など、彼らの偉大さを論じた評は枚挙に暇がないが、先んじて〈Name Your Price〉制のダウンロード販売を実施するなど、作品自体はもちろん、音楽産業における振舞いの面でも、後続のアーティストへと与えた影響の深度/射程距離の広さはほかに類を見ない。いまなお彼らが〈21世紀最重要バンド〉と評されることに、一定の正当性はあると言っていいはずだ。

では、ポップ音楽史における不動の名声を認識したうえで、いまの視点からレディオヘッドのディスコグラフィーに優劣を付けるとすれば、はたしてどんな見取り図を描けるだろうか? そもそも、どの作品を聴くべきなのか? 今回、Mikikiでは20〜30代の若手ライター7人に、〈2017年においてこそ評価したい〉という観点から、彼らのオリジナル・アルバムにあたる9作を順位付けてもらった。杉山仁、上野功平、照沼健太、近藤真弥、峯大貴、渡辺裕也、八木皓平(掲載順)――各々のランキングを概観すれば、2017年におけるレディオヘッド像が浮かび上がってくる。 *Mikiki編集部


 

杉山仁

1. A Moon Shaped Pool(2016)
2. In Rainbows(2007)
3. Kid A(2000)
4. Hail To The Thief(2003)
5. Amnesiac(2001)
6. Pablo Honey(1993)
7. OK Computer(1997)
8. The Bends(1995)
9. The King Of Limbs(2011)

いまこそ5人の優れたコンポーザー/キュレーターとしての魅力を純粋に楽しめる

レディオヘッドのキャリアを振り返ったとき、後世まで代表作とされるのは『OK Computer』と『Kid A』の2作だろう。そして、そこに『In Rainbows』と『A Moon Shaped Pool』が続くはずだ。前者の2作は彼らの感性が時代と合致した最大の出世作。後者の2作はその先に手にしたキャリアの円熟作。現在の彼らにはこの2つを筆頭に複数の評価軸が存在し、どこに焦点を当てるかによって魅力を感じる作品も変わってくる。ここではあえて、〈現在のシーンとの繋がり〉という一点において作品を並べてみたい。

初期の作品に顕著なように、そもそもレディオヘッドはかなりプロパーなロック=西洋の白人的な音楽的アプローチからスタートしたバンドで、それゆえキャリアとともにさまざまな要素を採り入れて、そこから逃れていくような進化を辿ってきた。『A Moon Shaped Pool』は、その彼らがキャリアを経て、ドビュッシーやサティのような印象派=白人音楽家の歴史にふたたび自らを位置付けた作品。とはいえ、音のレンジが広いミックスはヒップホップ/モダンR&B的で、その感覚はボン・イヴェールらとも間接的に繋がる。また、『Hail To The Thief』の“A Wolf At The Door”ではギター・ロックに回帰しつつも、USヒップホップ全盛のいまこそ再評価したい『OK Computer』のトリップホップ的な感性をさらに進めたラップへの直接的な興味が反映されていたが、まだどこかベック的な感覚を残した習作だったため、それをエレクトロニック・ビートやロックと溶け合うように成熟させた『In Rainbows』を上位に挙げたい。

2016年作『A Moon Shaped Pool』収録曲“Daydreaming”

2003年作『Hail To The Thief』収録曲“A Wolf At The Door”

『Kid A』はDTM系アーティストにも影響を与えた作品で、『Amnesiac』は現代ジャズとの接点。また、2000年代初頭には、ギター・ロック作と言えば『The Bends』が上位に位置しただろうが、ウルフ・アリスやロイヤル・ブラッドのリスナーには『Pablo Honey』のグランジ直系の音のほうが受け入れられるかもしれない。近年ライヴで“Creep”が演奏されるのはそうした時代の変化もやや関係しているはずで、ここに“Million Dollar Question”※などが加われば作品の印象はより違っただろう。『The King Of Limbs』はリミックス盤や配信を含むライヴを加えた総体にこそ意味があるため単体での順位は低いが、ビートへの興味を強め、ツイン・ドラムを始めたこの頃のライヴは圧倒的だった。

※92年のシングル“Creep”に収録

93年作『Pablo Honey』収録曲“Stop Whispering”

レディオヘッドが世界的なバンドへと登り詰めた90年代末、彼らは自分たちの頭をラジオのような情報の洪水で満たし、時代を覆う消費社会の行き詰まりや不安を代弁していた。しかし、いまの世の中はもう一組のバンドが俯瞰して物事を単純化できる時代ではないし、むしろ当時とは違う作品との向き合い方を可能にしてくれているのではないかと思う。つまり、いまこそ各作品のリリース当時の時代性を逃れ、5人の優れたコンポーザー/キュレーターとしての魅力を純粋に楽しむことができると思うのだ。それでなくとも新作『A Moon Shaped Pool』に初期曲“True Love Waits”がスタジオ音源で収録され、そのキャリアが一周した感もある現在。彼らの過去作にあらためて触れることは、大きな意味があるはずだ。

 

上野功平

1. Hail To The Thief(2003年)
2. The Bends(1995年)
3. In Rainbows(2007年)
4. OK Computer(1997年)
5. Kid A(2000年)
6. A Moon Shaped Pool(2016年)
7. Pablo Honey(1993年)
8. Amnesiac(2001年)
9. The King Of Limbs(2011年)

〈トリプル・ギター〉のロック・バンドとして

ランキングは、各アルバムが後のシーンに与えた影響とかは一切考えずに、想い入れ優先で並べてみました。僕がレディオヘッドの存在を認識したのは、おそらく『Kid A』のリリース当時だったと思うのですが、テレビで普通に『Kid A』のCMが流れていたんですよね。まだまだ洋楽歴の浅〜いリスナーだったこともあり、巷にあふれたマッチョな白人ロック・バンドだと勘違いしてスルーしてしまったんですが(後に大後悔)、リアルタイムで発売日にCDを購入し、歌詞やブックレットをじっくりと読み込み、iTunesの再生回数も圧倒的に多かった『Hail To The Thief』はやっぱり、自分にとって特別な1枚。スタンリー・ドンウッドによるアートワークはもちろん、各楽曲の副題にもイマジネーションを掻き立てられました。

Consequence Of Soundの〈From Worst To Best〉企画などを見ても、〈ビリじゃないけど、決して1位じゃなくね?〉といった位置付けで過小評価されがちなアルバムですが、音源で聴いてもライヴで体験しても、これほど不穏でゾクゾクする作品は他にそう多くありません。『A Moon Shaped Pool』のツアーでは“2 + 2 = 5”がセットリストに復活して思わずガッツポーズでしたが(でも、去年の〈サマソニ東京〉では“There There”が聴けず……)、ジョニー・グリーンウッドが全身でかき鳴らすキレッキレのギター・リフにも痺れます。というか、あらためて上記のランキングを眺めてみると、自分は〈トリプル・ギター〉のロック・バンドとしてのレディオヘッドが好きなのかも。特別な歌声を授かったフロントマンと、その傍らで変幻自在にエレキ・ギターを弾きまくる天才。それは、同じく〈トリプル・ギター〉で知られるウィルコ(なかでもネルス・クライン)に惚れ込んだ理由と非常に近い気がしてきました。さすがに『Pablo Honey』は小っ恥ずかしい瞬間もあって、丸ごと通して聴くことは少ないですが……。

2003年作『Hail To The Thief』収録曲“2 + 2 = 5”

なので、トム・ヨークのエクスペリメンタル/ダンス・ミュージック志向が少し落ち着いたように見えるいま、バンドでもソロでも構わないので、思いっ切りギター・サウンドを追求したアルバムを作ってほしいなーと淡い期待を抱いています。そういう意味では、『OKNOTOK』で “I Promise”や“Lift”といったギター中心の名曲がついに日の目を見たことも、タイミングとしてはすごくおもしろいなと。彼らの次なる一手にも興味津々ですが、2008年の『In Rainbows』ツアー以来となる単独公演も、いい加減そろそろお願いしたい! 

2017年作『OK Computer OKNOTOK 1997 2017』収録曲“I Promise”

 

照沼健太

1. In Rainbows(2007)
2. Amnesiac(2001)
3. Kid A(2000)
4. OK Computer(1997)
5. A Moon Shaped Pool(2016)
6. Hail To The Thief(2003)
7. The King Of Limbs(2011)
8. The Bends(1995)
9. Pablo Honey(1993)

〈ロックを延命させた〉バンドである

2017年に振り返るレディオヘッドとは〈ロックを延命させた〉バンドである……いきなり某R誌ふうでおちょくっているようだが、紛れもなく本音だ。それは何もいま始まったことではないが、ロックよりもヒップホップ/R&Bが人気ジャンルになったという2017年にこそより意味を持って感じられるだろう。

ロックの歴史は基本的に複雑化(例:プログレ)と、その揺り戻しによる単純化(例:パンク)の繰り返しによって前進してきたのはご存じのことと思うが、レディオヘッドが“Creep”でデビューした92年は、何度目かの単純/統合化であるグランジが大きな影響力を持っていた年だった。スコット・ウォーカー的なシンプルなコード進行とヴァースとコーラスの強弱により最短距離で高揚と沈鬱を表現した同曲は、断片的なイメージを連ねたリリックではぐらかすニルヴァーナ“Smells Like Teen Spirit”よりもストレートに〈単純化〉の波に乗ったアンセムだったかもしれないし、その後のヘヴィー・ロックやポスト・ロック、UKロック(と、もしかしたらJ-Rock)への影響を鑑みればその影響力は計りしれないし、〈(なんとなくのつらさがあるな〜)→(本当に悩んでる気がしてきた)→(つれえ……)→ウァワワワアアァァァァァッッッッッッッオーー!!!〉という〈ファッショントラウマ〉や、強引な感情の爆発を商品化したような音楽の増加の一助になってしまった部分は否めない。

93年作『Pablo Honey』収録曲“Creep”

そして、そんな誤ったフォロワーの音楽が隆盛を誇るようになった97年~2001年、当のレディオヘッドは同曲を封印すると同時に、トリップホップ、IDM、現代音楽、ジャズやブルーズといった〈外側〉を参照することにより、2拍目と4拍目のスネアやエモーショナルなヴォーカルなどロック的な記号と距離を置くようになる。だが、なにもロックを捨て去ったわけではなく、2003年の『Hail To The Thief』以降は、2000年の『Kid A』、2001年の『Amnesiac』で見た〈外側〉の可能性を時代の空気感とともにロック音楽にいかに落とし込んでいくか=ロックをいかに形骸化させないかということに挑み続けているとも言えるだろう。その一つの結実が、シンプルな楽曲形式とバンドアンサンブルの中に〈外側〉のアイデアをまとめ上げた2007年の『In Rainbows』である。そしてそのベースとなった骨格こそが、初めて〈外側〉を明確に取り入れた97年の『OK Computer』なのだ。

2007年作『In Rainbows』収録曲“House Of Cards”

また2017年にレディオヘッドを振り返るにあたっては、音楽業界のシステムと音楽のあり方それ自体へのアプローチも欠かせない。オリジナル・アナログ盤を10インチ2枚組という変則形式とした『Kid A』『Amnesiac』『The King Of Limbs』、そして、iTunes/iPod以降の〈曲単位リスニング〉の影響濃厚な長大作『Hail To The Thief』における、使い古された〈アルバム〉というフォーマットへのオルタナティヴな提案。『In Rainbows』での、リスナーが作品の値段を決める〈Name Your Price〉方式の採用による、業界の慣習や音楽のあり方へと投げかけた問題提起は、間違いなく彼ら最大の功績だろう。

ロックを軸としたポップ・ミュージックの可能性、そして音楽業界のシステムへの挑戦を続けたレディオヘッドの道程は、もしここで彼らのキャリアが終わったとしても、今後ロックと呼ばれる音楽が消えてなくなったとしても、後世のあらゆるジャンルのミュージシャンの冒険心に宿る、確かな心の灯となるはずだ。

 

近藤真弥

1. Kid A(2000)
2. OK Computer(1997)
3. The Bends(1995)
4. Pablo Honey(1993)
5. Amnesiac(2001)
6. In Rainbows(2007)
7. A Moon Shaped Pool(2016)
8. Hail To The Thief(2003)
9. The King Of Limbs(2011)

ロックがロックを葬ったような衝撃を与えた『Kid A』

クォリティーとポップ・ミュージックへの影響力を基準に、順位を決めました。『OK Computer』までのレディオヘッドは、内に秘めた心情を爆発させ、それをひとつの世界観なり価値観で表現するというロックのクリシェを体現するバンドでした。

しかし『Kid A』で彼らは、バラバラの世界観や価値観をそのまま表現してみせた。このアルバムでは、感情や呼気といった人間的な要素は排除され、全体を覆いつくす無機質で冷ややかな電子音はロックのフォーマットからかけ離れたものでした。こうした作品が、ロックを代表するバンドのひとつであった彼らによって投下されたことは、衝撃的だった。なぜなら、ロックがロックを葬ったようなものだったからです。音自体は、オウテカなどの急進的なエレクトロニック・サウンドに影響されたもので、彼ら独自のとは言えませんが、その影響をロックの文脈で見事に機能させたところに『Kid A』のすごさがあり、だからこそ彼らのディスコグラフィーのなかでも孤高の存在感を放っている。もちろん、他の作品にも興味深い曲はたくさんありますが、アルバムとしての完成度では『Kid A』ほどの驚きや鋭い批評性には達していないというのが正直なところです。なので、今回の順位にしても、1位がダントツで、2位以下は拮抗しているイメージで選びました。強いて言えば、『Kid A』にたどり着くまでの彼らがいちばんおもしろかった時期だと思うので、『Kid A』以前の作品群を上位4つに入れています。

『Kid A』収録曲“Everything In Its Right Place”のライヴ映像

また、5位以下の順位づけは非常に悩みました。『Kid A』以降の作品群には、一長一短が目立つように思えるからです。そのうえで『Amnesiac』を5位に選んだのは、『Kid A』と同様、彼らなりに電子音の可能性を追究した跡が明確だから。とはいえ、物悲しいマイナーコードの響きが印象的な“Knives Out”など、『OK Computer』以前のサウンドが随所で聞こえる点は、『Kid A』の先鋭さと比べると少々生ぬるいと思います。

2001年作『Amnesiac』収録曲“Pyramid Song”

そんな彼らを現在の視点から見ると、時代を切り開いてきた開拓者だと感じます。たとえば『In Rainbows』では、リスナーに価格の決定権を与えるなど、リリース方法自体がコンセプトになっていました。いまでこそ、ヴィジュアル・アルバムとして発表されたフランク・オーシャンの『Endless』(2016年)など、リリース方法が表現の一部になっている作品は多く生まれていますが、そうした流れに先鞭をつけた存在のひとつとして彼らの名は欠かせない。もし、『In Rainbows』における彼らの試みがなければ、無料ダウンロードと言われると逆に聴かないとなるリスナーも少なくないなかで、音楽を販売しないチャンス・ザ・ラッパーが第59回グラミー賞で3冠に輝くことはなかったかもしれない。そう考えると彼らは、音楽面のみならず、その音楽を発表する方法論にも影響を与えたと言えるでしょう。

 

Photo by Tom Sheehan

渡辺裕也

1. Kid A(2000)
2. Amnesiac(2001)
3. In Rainbows(2007)
4. Hail To The Thief(2003)
5. The Bends(1995)
6. A Moon Shaped Pool(2016)
7. OK Computer(1997)
8. The King Of Limbs(2011)
9. Pablo Honey(1993)

『Hail To The Thief』=シャッフルしたときに真価を発揮するアルバム

2017年のいまこそ再評価したい作品は、主に3作。まずは、『Hail To The Thief』。iPod以降のリスニング環境を踏まえたランダムな構成もあってか、リリース当時はこの作品に対して〈散漫なアルバム〉という意見も少なくなかったが、ストリーミング・サーヴィスが普及し、アーティストの評価軸が〈アルバム〉に限定されなくなったいま、あらためて聴くとどれもシングル向きのポップ・ポテンシャルを持った曲ばかり。レディオヘッドのディスコグラフィー中、プレイリストでシャッフルしたときにもっとも真価を発揮する作品はこれかもしれない。

2作目は『The King Of Limbs』。本作の複雑にエディットされたリズムを生でも再現すべく、レディオヘッドはこの頃からポーティスヘッドのクライヴ・ディーマーを加えたツイン・ドラム編成でツアーを回るようになったが、結果としてその試みは重低音が幅を利かせるEDM以降のライヴ・サーキットでも迫力負けしない、パワフルなバンド・サウンドの構築にもつながった(いま思えば『Hail To The Thief』収録の“There There”における、タムタム2台を加えたリズム・セクションもその伏線だった)。つまり、レディオヘッドがいまだ世界最高峰のライヴ・アクトに君臨しているのは、ひとえにこのアルバムを通過したからなのではないかと。

2011年作『The King Of Limbs』収録曲“Bloom”のスタジオ・ライヴ映像

そして3作目は、最新作『A Moon Shaped Pool』。エレクトロニカやモダン・ジャズなどを参照し、ロック・ミュージックの〈ビート〉を何度も更新してきたことは、間違いなくレディオヘッド最大の功績。それゆえ、どことなくビートの存在感が希薄な本作には、若干の肩透かしを食らったファンもきっと少なくなかったと思う。しかし、彼らがここで注力したのはむしろアンビエンス。いわばそれはこのバンドが長年背負ってきた〈ビートの革新〉という役割からの解放を意味しており、それが同年リリースのフランク・オーシャン『Blonde』とも共振していたことは、もっと強調されていい。

2016年作『A Moon Shaped Pool』収録曲“Decks Dark”

順位についても簡単に説明させてもらうと、それ以降のポップ・ミュージック全体に与えた影響力という尺度でいくと、やはり上位2作はダントツ。単純に作品としてのクォリティーで考えると、最下位も即決。あとはどれも拮抗しており、そのディスコグラフィーの鉄壁ぶりに、あらためて感嘆した。

 

峯大貴

1. In Rainbows(2007)
2. Hail To The Thief(2003)
3. OK Computer(1997)
4. The Bends(1995)
5. The King Of Limbs(2011)
6. A Moon Shaped Pool(2016)
7. Kid A(2000)
8. Pablo Honey(1993)
9. Amnesiac(2001)

型を破ることで拡げた、ギター・ロックの可能性

〈型があるから型破り。型が無ければ、それは形無し〉と言ったのは十八代目中村勘三郎かはたまた落語家の立川談志か。本稿のお題をいただきキャリアに沿って全アルバムを聴いていくと、レディオヘッドとの距離感甚だしいこんな言葉がふと浮かんできた。順位としては単純に好きな順。その理由を探っていくと、まず筆者のレディオヘッド初体験は、音楽に興味を持ちだした2007年、高校1年の時分。属していた軽音楽部のOBにバンドの練習になるからと完コピを薦められた“Just”を収録した『The Bends』。そして、同時期に突如リリースされたのが『In Rainbows』だった。レディオヘッドのキャリアにおいてどちらも珍しくメロディーや楽器のフレーズ/歌詞のほうに軸足が置かれた、ポップネスが発揮されているギター・ロック・アルバムが入口となったので、おのずと順位付けの軸となってしまう。

95年作『The Bends』収録曲“Just”

そんななかでは『Kid A』、『Amnesiac』といったギター・ロックの構造を分解し、エレクトロニック・テクノロジーでもって再構築した作品も、ジェイムス・ブレイクやアルト・ジェイだっている現在から見るとギター・ロックからの逃避というよりは、型を破ることでギター・ロックの可能性が拡がった瞬間であると捉えたほうがしっくりくる。 それは立川談志における「金玉医者」や「やかん」のような現代での落語の可能性と折り合いを探り、話の前提や筋、常識と非常識も捨てて〈わけのわからない魅力〉こそが落語とした、落語イリュージョンの哲学と通じる気もしますがそれは余談。また『Kid A』、『Amnesiac』でエレクトロニクスが担った役割を、続く『Hail To The Thief』から『In Rainbows』ではギター/ドラムス/ベースをはじめとする生演奏で代替していくという単なる回帰ではない新たな型破りの結果、アプローチとしてはふたたびギター・ロックに行きついてしまったのだ。その決着点である“Bodysnatchers”には宿命を背負ったバンドの色気を特に感じる。なので、デビュー以来の90年代ギター・ロックの可能性をまだ信じつつも、初めてギター・ロックの型を突き破ることとなった『OK Computer』を抑えて、『In Rainbows』を1位とした。

2007年作『In Rainbows』収録曲“Bodysnatchers“のスタジオ・ライヴ映像

そういう意味では最新作『A Moon Shaped Pool』もアンビエントやクラシックなどを抱擁し、これまでとはもっとも遠い場所まで突き抜けた作品であった がゆえに、次作以降はまたギター・ロックを目めざすことも予想できる。帰り道には型を破り、新たなギター・ロックになっているに違いない。その作品が私のなかの『In Rainbows』を凌駕することに期待している。

 

八木皓平

1. OK Computer(1997)
2. In Rainbows(2007)
3. A Moon Shaped Pool(2016)
4. Amnesiac(2001)
5. Kid A(2000)
6. Hail To The Thief(2003)
7. The King Of Limbs(2011)
8. The Bends(1995)
9. Pablo Honey(1993)

『OK Computer』に宿る、その時代でしか生み出せない再現不可能な魔法

問題は最初の4枚だ。ここの順番には非常に苦悩させられた。逆に言えば、残りの5枚はそこまで悩まなかった。悩まなかったというか、このあたりはあまり真面目に順位付けをしても仕方がないかなと思えたし、好きな曲はあっても、アルバムとしてしっかり聴き返すことはほとんどない作品ばかりだ。その5枚の中で『Kid A』の順位がいちばん高いのは、この作品が〈ロック・バンド〉が2000年代以降にどういう方向性をめざすべきかの一つの指針となっていたし、それははっきりと機能していたから。というわけで、下位5枚についてはこれで終わり。

で、最初の4枚。これは自分の中では順位が2パターンあった。1つ目はここで提示している順位で、2つ目は『A Moon Shaped Pool』→『Amnesiac』→『OK Computer』→『In Rainbows』の順番。後者のほうが、視点はクリア。それは2017年を、ポスト・クラシカル~インディー・クラシックというクラシック~現代音楽をアップデートしようとするムーヴメントの浸透と現代ジャズの隆盛の時代と捉えつつ、あらためてレディオヘッドのキャリアを考えるというものだ。で、そこに自分の好きな作品を添えよう、という順位。『A Moon Shaped Pool』がトップに来るのはもちろんクラシック~現代音楽の要素が作品に注ぎ込まれているからだし、『Amnesiac』が二位なのは、ジャズやクラシック~現代音楽がエレクトロニック・ミュージック以降の音響感を踏まえて野心的に取り入れられていたからだ。

2016年作『A Moon Shaped Pool』収録曲“Burn The Witch”

でもやっぱりぼくは、ベストは『OK Computer』だと思った。ここにはDJシャドウやポーティスヘッドといった、当時刺激的だったエレクトロニック・ミュージックを踏まえて作られたバンド・サウンドが詰まっている。ハード・ディスクを用いたポスト・プロダクションが一般化する少し前のことだ。つまりここには、この時代でしか生み出せない再現不可能な魔法が存在するのだ。“Let Down”における、幾重にも重なるアルペジオの倍音が生みだす至福の音響は彼らが当時最高のロック・バンドだったことを示している。2位が『In Rainbows』なのは、端的に言って本作がロック・ミニマリズムの最高峰だと思うからだ。“Nude”のベースラインや“Weird Fishes/Arpeggi”の反復的なドラムとアルペジオの組み合わせを聴くとそれがよくわかる。

97年作『OK Computer』収録曲“Let Down”

2006年作『In Rainbows』収録曲“Weird Fishes/Arpeggi”

ミニマリズムの超克という意味では『In Rainbows』と『A Moon Shaped Pool』の順位は逆でも良かったんだけど、うーん、ちょっと『A Moon Shaped Pool』の方向性が今後どういふうふうに転んでいくかがわかんないからなー、次の作品がリリースされてはじめてわかってくる部分もあるだろうしなーとか、またいろいろ考えこんでしまったので、ここで無理やり終わらせる。