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レディオヘッドをポップ・シーンの第一線に押し上げた97年作『OK Computer』の20周年記念作『OK Computer OKNOTOK 1997 2017』に続いて、『In Rainbows』(2007年)、『The King Of Limbs』(2011年)を除く過去作が8月11日(金)に廉価盤としてリイシューされる。

グランジ/オルタナティヴ全盛の92年にギター・バンドとしてデビューし、以降はエレクトロニカやジャズ、現代音楽、ポスト・クラシカルなどさまざまなサウンドを探究しながら音楽性を拡張。飽くなき創作欲求に基づいた、その先鋭的なポップ・ミュージックはロック・バンドのみならず、ロバート・グラスパーやパンチ・ブラザーズ、フランク・オーシャンまで、さまざまなジャンルのアーティストを魅了してきた。最近では、〈Lollapalooza 2017〉に登場したアーケイド・ファイアが、ジョン・レノンの“Mind Games”に織り交ぜながら、“Karma Police”の一節を歌ったことも記憶に新しい。

NME誌のコラム〈How Radiohead Became The Beatles Of The 21st Century(どのようにレディオヘッドは21世紀のビートルズになったのか)〉や、ニルヴァーナやホワイト・ストライプスらを押しのけて首位に選出されたMOJOによる2014年の特集〈The 20 Most Important Artists Of The Last 20 Years(過去20年の最重要アーティスト20選)〉など、彼らの偉大さを論じた評は枚挙に暇がないが、先んじて〈Name Your Price〉制のダウンロード販売を実施するなど、作品自体はもちろん、音楽産業における振舞いの面でも、後続のアーティストへと与えた影響の深度/射程距離の広さはほかに類を見ない。いまなお彼らが〈21世紀最重要バンド〉と評されることに、一定の正当性はあると言っていいはずだ。

では、ポップ音楽史における不動の名声を認識したうえで、いまの視点からレディオヘッドのディスコグラフィーに優劣を付けるとすれば、はたしてどんな見取り図を描けるだろうか? そもそも、どの作品を聴くべきなのか? 今回、Mikikiでは20〜30代の若手ライター7人に、〈2017年においてこそ評価したい〉という観点から、彼らのオリジナル・アルバムにあたる9作を順位付けてもらった。杉山仁、上野功平、照沼健太、近藤真弥、峯大貴、渡辺裕也、八木皓平(掲載順)――各々のランキングを概観すれば、2017年におけるレディオヘッド像が浮かび上がってくる。 *Mikiki編集部


 

杉山仁

1. A Moon Shaped Pool(2016)
2. In Rainbows(2007)
3. Kid A(2000)
4. Hail To The Thief(2003)
5. Amnesiac(2001)
6. Pablo Honey(1993)
7. OK Computer(1997)
8. The Bends(1995)
9. The King Of Limbs(2011)

いまこそ5人の優れたコンポーザー/キュレーターとしての魅力を純粋に楽しめる

レディオヘッドのキャリアを振り返ったとき、後世まで代表作とされるのは『OK Computer』と『Kid A』の2作だろう。そして、そこに『In Rainbows』と『A Moon Shaped Pool』が続くはずだ。前者の2作は彼らの感性が時代と合致した最大の出世作。後者の2作はその先に手にしたキャリアの円熟作。現在の彼らにはこの2つを筆頭に複数の評価軸が存在し、どこに焦点を当てるかによって魅力を感じる作品も変わってくる。ここではあえて、〈現在のシーンとの繋がり〉という一点において作品を並べてみたい。

初期の作品に顕著なように、そもそもレディオヘッドはかなりプロパーなロック=西洋の白人的な音楽的アプローチからスタートしたバンドで、それゆえキャリアとともにさまざまな要素を採り入れて、そこから逃れていくような進化を辿ってきた。『A Moon Shaped Pool』は、その彼らがキャリアを経て、ドビュッシーやサティのような印象派=白人音楽家の歴史にふたたび自らを位置付けた作品。とはいえ、音のレンジが広いミックスはヒップホップ/モダンR&B的で、その感覚はボン・イヴェールらとも間接的に繋がる。また、『Hail To The Thief』の“A Wolf At The Door”ではギター・ロックに回帰しつつも、USヒップホップ全盛のいまこそ再評価したい『OK Computer』のトリップホップ的な感性をさらに進めたラップへの直接的な興味が反映されていたが、まだどこかベック的な感覚を残した習作だったため、それをエレクトロニック・ビートやロックと溶け合うように成熟させた『In Rainbows』を上位に挙げたい。

2016年作『A Moon Shaped Pool』収録曲“Daydreaming”

2003年作『Hail To The Thief』収録曲“A Wolf At The Door”

『Kid A』はDTM系アーティストにも影響を与えた作品で、『Amnesiac』は現代ジャズとの接点。また、2000年代初頭には、ギター・ロック作と言えば『The Bends』が上位に位置しただろうが、ウルフ・アリスやロイヤル・ブラッドのリスナーには『Pablo Honey』のグランジ直系の音のほうが受け入れられるかもしれない。近年ライヴで“Creep”が演奏されるのはそうした時代の変化もやや関係しているはずで、ここに“Million Dollar Question”などが加われば作品の印象はより違っただろう。『The King Of Limbs』はリミックス盤や配信を含むライヴを加えた総体にこそ意味があるため単体での順位は低いが、ビートへの興味を強め、ツイン・ドラムを始めたこの頃のライヴは圧倒的だった。

※92年のシングル“Creep”に収録

93年作『Pablo Honey』収録曲“Stop Whispering”

レディオヘッドが世界的なバンドへと登り詰めた90年代末、彼らは自分たちの頭をラジオのような情報の洪水で満たし、時代を覆う消費社会の行き詰まりや不安を代弁していた。しかし、いまの世の中はもう一組のバンドが俯瞰して物事を単純化できる時代ではないし、むしろ当時とは違う作品との向き合い方を可能にしてくれているのではないかと思う。つまり、いまこそ各作品のリリース当時の時代性を逃れ、5人の優れたコンポーザー/キュレーターとしての魅力を純粋に楽しむことができると思うのだ。それでなくとも新作『A Moon Shaped Pool』に初期曲“True Love Waits”がスタジオ音源で収録され、そのキャリアが一周した感もある現在。彼らの過去作にあらためて触れることは、大きな意味があるはずだ。

 

上野功平

1. Hail To The Thief(2003年)
2. The Bends(1995年)
3. In Rainbows(2007年)
4. OK Computer(1997年)
5. Kid A(2000年)
6. A Moon Shaped Pool(2016年)
7. Pablo Honey(1993年)
8. Amnesiac(2001年)
9. The King Of Limbs(2011年)

〈トリプル・ギター〉のロック・バンドとして

ランキングは、各アルバムが後のシーンに与えた影響とかは一切考えずに、想い入れ優先で並べてみました。僕がレディオヘッドの存在を認識したのは、おそらく『Kid A』のリリース当時だったと思うのですが、テレビで普通に『Kid A』のCMが流れていたんですよね。まだまだ洋楽歴の浅〜いリスナーだったこともあり、巷にあふれたマッチョな白人ロック・バンドだと勘違いしてスルーしてしまったんですが(後に大後悔)、リアルタイムで発売日にCDを購入し、歌詞やブックレットをじっくりと読み込み、iTunesの再生回数も圧倒的に多かった『Hail To The Thief』はやっぱり、自分にとって特別な1枚。スタンリー・ドンウッドによるアートワークはもちろん、各楽曲の副題にもイマジネーションを掻き立てられました。

Consequence Of Soundの〈From Worst To Best〉企画などを見ても、〈ビリじゃないけど、決して1位じゃなくね?〉といった位置付けで過小評価されがちなアルバムですが、音源で聴いてもライヴで体験しても、これほど不穏でゾクゾクする作品は他にそう多くありません。『A Moon Shaped Pool』のツアーでは“2 + 2 = 5”がセットリストに復活して思わずガッツポーズでしたが(でも、去年の〈サマソニ東京〉では“There There”が聴けず……)、ジョニー・グリーンウッドが全身でかき鳴らすキレッキレのギター・リフにも痺れます。というか、あらためて上記のランキングを眺めてみると、自分は〈トリプル・ギター〉のロック・バンドとしてのレディオヘッドが好きなのかも。特別な歌声を授かったフロントマンと、その傍らで変幻自在にエレキ・ギターを弾きまくる天才。それは、同じく〈トリプル・ギター〉で知られるウィルコ(なかでもネルス・クライン)に惚れ込んだ理由と非常に近い気がしてきました。さすがに『Pablo Honey』は小っ恥ずかしい瞬間もあって、丸ごと通して聴くことは少ないですが……。

2003年作『Hail To The Thief』収録曲“2 + 2 = 5”

なので、トム・ヨークのエクスペリメンタル/ダンス・ミュージック志向が少し落ち着いたように見えるいま、バンドでもソロでも構わないので、思いっ切りギター・サウンドを追求したアルバムを作ってほしいなーと淡い期待を抱いています。そういう意味では、『OKNOTOK』で “I Promise”や“Lift”といったギター中心の名曲がついに日の目を見たことも、タイミングとしてはすごくおもしろいなと。彼らの次なる一手にも興味津々ですが、2008年の『In Rainbows』ツアー以来となる単独公演も、いい加減そろそろお願いしたい! 

2017年作『OK Computer OKNOTOK 1997 2017』収録曲“I Promise”