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時代の空気はバッドボーイたちが創造する――ハードな環境下でライフスタイルを貫いてきた最重要クルーが、初の全国流通作『Mobb Life』でその美学を世に問う!

マインドが変わってきた

 神奈川県は川崎市川崎区の池上町育ち。日本のヒップホップ・シーンの盛り上がりを牽引する本命馬たちが本格的に動き出した。TV番組「フリースタイルダンジョン」の初代(かつ最年少)モンスターとしても広くその名を知らしめたT-Pablow、その双子の弟にして兄と並んで〈高校生ラップ選手権〉を制したYZERR、そして地元のMCやDJたちから成る大所帯クルーがBAD HOPだ。昨年YouTubeで公開した“Life Style”のMV再生数は現在までに650万回を超え、無料配布したCD『BAD HOP ALL DAY』は全国各地で争奪戦になるなど、一つの現象とも言えるほど熱のある活動を続けてきた。そんな彼らが完成させた初の一般流通アルバムこそ、今回リリースされる意欲作『Mobb Life』だ。制作の舵を取ったのはYZERR。「基本は僕が雰囲気を決めて、そのうえで〈こういう曲が足りないな〉とか〈こういう感じだな〉とか、パズルみたいな感じでちょっとずつ埋めていきました。ラッパーが8人いるんでノリを大事にしています」。

BAD HOP 『Mobb Life』 BAD HOP/KSR(2017)

 とはいえ、メンバーのほとんどが地元を同じくして育った同級生(YZERRによると「Benjazzyだけが一つ年上」とのこと)である。仲間同士で緊張感を保ちながら制作するのは容易くなかったのでは?とも思うが、「距離が近いから、逆に何でも正直に言える」(YZERR)とのことで、互いを知り尽くした仲だからこそ、クォリティーの高さと本音を兼ね備えた作品が生まれてくるということらしい。

 「先輩とかよりもメンバーのほうがキツいことを言ってくるんです。ダサいラインを書いちゃったら、それをネタに一週間イジられることもある(笑)。延々とリリックを書いてはダメ出しされて、スランプみたいになった時期もありましたね」(Tiji Jojo)。

 BADHOPといえば、フリー配信の形式で発表した『BAD HOP 1DAY』、そしてメンバーそれぞれが全国各地へとデリバリーした先述の『BAD HOP ALL DAY』と、既存の2作品がすでに大きな成果を上げていた。それらを通じて仲間内での制作環境やメソッドも整っていたはずだが、満を持してのデビュー・アルバムとなると、その意気込みにも変化があったという。

 「去年の活動を経て、〈(作品を)聴いたよ〉って言ってくれる方も増えました。川崎のCLUB CITTAでフリー・ライヴをやった時も満員のお客さんが来てくれて、〈注目されてるんだな〉と感じましたし、そうしたことが今回のアルバムのモチヴェーションに繋がりましたね。周りのみんなも変わったし、これまでのノリよりも本気っていうか……〈ちゃんとやらねえと〉って心境でした」(Tiji Jojo)。

 「これまでヘイターだった地元の人も応援モードになってくれたり、地方で客入りが良かったとハコの人に喜んでもらえたり。ちょっとずつ、そういうところで自分たちのマインドが変わってきたりして、今回はそういう影響もデカかったですね。僕らにとっては初めてちゃんと全国流通する作品で、みんながお金を払ってもらって聴いてもらうわけだし、自分たちも胸を張れるような作品にしないと、と思って制作に集中しました。結果、そういうアルバムになったと思います」(YZERR)。

 そうやって仕上げられた『Mobb Life』には、いまの彼らにしか出せないフレッシュかつ刹那的なヒップホップ・ヴァイブスに満ちた16曲が並んでいる。そんな自分たちの持ち味については、「僕たちも普通に大人になればいいんですけど(笑)、大人になりすぎちゃうと僕たちじゃないような気もするんで、そこは貫きたい部分でもあります」と、YZERRも意識的だった様子だ。