片山杜秀が編む〈誇るべき日本の音楽〉の歴史、豪華解説集で読み解く「日本作曲家選輯」集大成

 クラシック界の智の巨人・片山杜秀氏曰く「日本人作曲家の生み出したレパートリーは質量ともに膨大」にも関わらず「それらは日本の音楽ファンにとって必ずしもスタンダードになっていません」。

 西洋で生まれ発展したクラシック音楽が日本に浸透したのは19世紀末。既に17世紀には欧州でバロック音楽が生まれていたことを思えば、大分浅い歴史かもしれない。しかしそこから現在にかけて日本でのクラシック音楽は、西洋のそれにも勝るとも劣らない見事な進化を遂げてきた。伊沢修二が西洋音楽教育の下地を作り、滝廉太郎が初のピアノ独奏曲を、山田耕筰が初の交響曲を書き上げる。その後幾人もの作曲家が優れた管弦楽曲を書き上げたこの歴史は、日本人ならば誇るべきことなのである。……のはずなのに、現在でも熱心な音楽愛好家でなければ先人たちの偉業に触れる機会が少ないのも、悲しいかなまた事実。

VARIOUS ARTISTS 『日本作曲家選輯 片山杜秀エディション』 Naxos(2017)

 そんな現況を憂い、強い使命感を持って生まれたのがNAXOSレーベルのプロジェクトの一つ〈日本作曲家選輯〉である。2001年にスタートし、2017年10月現在29タイトルがこのシリーズからリリースされ、録音が少なくも素晴らしい日本人の音楽を普及してきた。その中でも片山杜秀氏が企画・解説を担当した全20タイトルが、今回〈片山杜秀エディション〉と銘打って廉価BOXとなって発売。諸井三郎・大澤壽人・別宮貞雄など本シリーズを象徴する名盤が一堂に会する喜ばしい事態である。もちろん氏の全20タイトル分の解説も余すことなく再録。総数256頁に及ぶブックレットは豪華の域を超えた読み物であり、作曲家・楽曲の詳細な解説から演奏アーティストのプロフィールまで網羅している。

 外山雄三・近衞秀麿らの小品を収めた『日本管弦楽名曲集』(2001年)から始まったプロジェクトの道程が、そして僕たちが〈誇るべき日本の音楽〉が濃縮された歴史が、今まさに此処に在る。

 


日本作曲家選輯 片山杜秀エディション
外山雄三:管弦楽のためのラプソディ
近衞秀麿(編):越天楽
伊福部昭:日本狂詩曲
芥川也寸志:交響管弦楽のための音楽
小山清茂:管弦楽のための木挽歌
吉松隆:朱鷺に寄せる哀歌 Op.12
矢代秋雄:ピアノ協奏曲/交響曲
大栗裕:大阪俗謡による幻想曲/ヴァイオリン協奏曲 他
橋本國彦:交響曲第1番/交響組曲「天女と漁夫」
松平頼則:ピアノとオーケストラのための主題と変奏 他
山田耕筰:交響曲へ長調「かちどきと平和」 他
大澤壽人:ピアノ協奏曲第3番「神風協奏曲」/交響曲第3番
ほか